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case III 魔女は人見知り

 



 ずっと、女だから無理だと言われてきた。

 賢者にはなれないと。

 私はただ、自分の実力を証明したかっただけ。

 その為に魔王討伐パーティ選抜試験に臨んだの。魔王なんてどうでもよくて……それなのに…


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




 コンコンッ


「どうぞ」

「失礼します。今、お時間を頂戴しても宜しいでしょうか?」


「はい。構いません」


 以前からですが、魔女アフロディーテ様は少し距離があるように思います。

 魔女様の見た目は、失礼ながら可愛らしい見た目をしており、年下の(わたくし)でも守りたいといいますか…庇護欲を掻き立てます。

 不釣り合いな大きなとんがり帽子でその視線を隠される事が多いのですが、それもまた庇護欲を……


「掛けてください」

「失礼しますね」


 ここは王城の来賓室。

 剣鬼様以外の方には、事件が一定の終わりを迎えるまでは城に泊まってもらっています。

 ここでも聖女様に勧められた椅子と同じ作りの物に、座らせてもらいました。


「王女殿下がお聞きになりたいのは、凱旋初日の行動ですか?」

「はい。他にも些細な事で良いので教えて頂きたいのですが、概ねそれが主目的です」


「わかりました。お話しします」


 タクマ様と同い年だと聞いている魔女様。私は二つ年下の16歳なので、もっと気楽に話して欲しいのですが…これは無いものねだりでしょうか。


「あの日、私共はお城の前で一旦解散しました。(わたし)は与えられた自室…ここです。ここで少し休み、身なりを整えてから、勇者タクマの部屋へと向かいました」

「その時には他に誰が?」


「誰も。タクマと二人きりでした。少し後で三人が入ってきました」


 仮にも婚約予定者がいる、異性の方の部屋に一人で行くとは……

 いえ、勇者パーティは寝食を共にして来たのです。私の狭い世界の常識を当て嵌めるのは、狭量でしょうね。


「そうですか…」


 私が別の事に思考を逸らせていると、それを変に勘違いしたのか、魔女様は帽子の隙間から見える目を細め、口を開きます。


「私のアリバイがないということですか。そうですね。私なら犯行は可能だと伝えておきます。ただ、可能だから”した“という事であれば、タクマが受けている仕打ちとなんら違いはありません」

「いえ…そのような事は思ってもいません。逆に言えば、私は勇者パーティの方々はアリバイがあろうがなかろうが可能なのでは、と考えていますので」


 しまった…言い過ぎました。

 魔女様は目を見開き驚かれています……ですよね。私の世間一般のイメージは、お淑やかで優しいというものが浸透しています。

 そう見えるようにと、帝王学や所作を学ばされましたから。


 ですが、何故。なぜ…先程のような態度をとってしまったのでしょうか…

 自分の事なのにわかりません……


「失礼しました。悪気はないのです。ただ、私は曇り無き(まなこ)で、皆様を見定めたいと」

「………」


 魔女様はただ視線をぶつけてきます。これは……何かわかりません。


「王女殿下が如何様に申されましても、私の当日のアリバイはありません」

「いえ…ですから……いえ、わかりました。話をして頂き有難うございます」


 私は礼を伝え、来賓室を後にしました。

















「ディーテの為人が知りたい?」


 日課となっている尖塔入り口へと、タクマ様を訪ねました。

 ディーテとは魔女アフロディーテ様の愛称です。

 聖女様は全員をさん付け、タクマ様と剣鬼様、魔女様は愛称呼び、拳聖様は……あれ?お声すら聞いた事がありません……


「はい。聖女様と剣鬼様は以前からお話しする機会も多く、また噂も多いお二人でしたので、それと擦り合わせて想像は出来たのですが……」

「ああ…ディーテは人見知り激しいもんな…」


 コクンッ。私はタクマ様の言葉に頷いて同意しました。

 魔女様のあの態度は、誰にでもあのようなのです。私の知る限りですが。

 そして、その知る限りでは、勇者パーティの面々には違う態度を取ります。

 その情報だけでは、ただの内弁慶としか判断できません。


「そうだな……まず、初対面だと敬語で喋るな。それからつれない態度しか取らない。仮にディーテの好きな話題を振っても、嫌いな話題を振っても『はい』『そうです』『いいえ』しか、返ってこないな」

「それは会話なのでしょうか……?」


「ははっ。それは俺にもわからないなぁ。次に、仲良くなると敬語じゃなくなる。

 ここまで来ると、棘のある言葉しか言わなくなるな。異性限定で。聖女と喋る時は、キツイ口調は変わらなくても、嫌な言い方はしなかったと思う」


 ううーん。やはり内弁慶としか思えませんね。


「でもな。そんなディーテだけど、俺達の中では一番仲間想いだ。これは間違いない」

「そうなのです?てっきりタクマ様か剣鬼様かと」


 聖女様は仲間でも他人でも分け隔てなく、全力で幸せを祈ってくださりそうです。


「いやいや。俺なんかよりディーテだな。あの無口な拳聖の体調不良に、誰よりも早く気付いたからな。

 マリアなんか『私の不注意です…』なんて落ち込むもんだから、みんなで慰めたな」


 ふふっ。それは聖女様のモノマネでしょうか?全く似ていないのは、私を元気付ける為でしょう。この方は優しい方で、気遣いの方です。


「仲間想いなのですね」

「ああ」

「いえ。皆様が、です」


 一人一人が全員の事を考えている、そんな素晴らしいパーティだったのでしょう。いえ。むしろそこが魔王討伐には欠かせない要素だったのかもしれませんね。


 今日も短い時間ですが、笑顔で一緒に過ごせました。

 明日以降に向けて英気を養った私に、耳を疑う報告が飛び込んできたのは、翌朝の事でした。

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