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【過去】絆が生まれた日

時間潰しにツラツラと。

 





 俺が勇者として召喚されてから凡そ半年。

 血の滲むような訓練を重ねた俺は、信じられないほど強くなっていた。

 加護のお陰で、努力に見合うどころか、その何十倍も成長出来たと思う。それでも…まだ魔王には勝てない気がする。何となくだけど、そう感じるんだ。




「盛大に送り出せないこと、申し訳なく思う」

「いえ、遊びに行くのではないので、その様なお気遣いは必要ないです」


「そうですわ」「行ってきます」「それじゃあ」「行って参りまする」


 王様の言葉に俺が簡単に応えると、仲間達もそれに合わせてくれた。


 今日は魔王討伐に向けた人類の記念すべき日になる。

 そんな勇者パーティにとって今日は晴れの日なんだけど、見送りはなし。

 これは魔王軍に俺達の行動がバレないようにするための処置だ。


「タクマ様…どうか御自愛下さい…」

「ナタリー姫。魔王と戦うのに自分を優先は出来ないよ。でも、そうだな……必ず倒して、無事に帰ってくるよ」

「はいっ!お待ちしております!」


 俺の初恋の人。俺に笑顔を向けてくれてはいるけれど……騙しているみたいで、今はその笑顔を見るのが辛いな…


 姫には想い人がいる。悲しく悔しいのは、その想い人が俺じゃないこと。そして知ってしまったことを伝える術を持たないこと。

 恐らく貴族の誰かなのだろうけど、それは誰でもいい。


 そしてその事が今、俺を苦しめていた。







「抱きしめるぐらいしなさいよっ!」


 王都出立から数時間後。今は森の中をひたすら前に進んでいる。

 先頭は剣鬼ロードナント。通称ロー。

 その横には拳聖バハムート。通称拳聖…名前で呼んでも応えてくれないんだ…

 真ん中に聖女マリア。通称マリア。俺は心の中でマリア様と呼んでいる。地球人なら皆そうだろ?

 そして最後尾に俺と魔女アフロディーテ。通称ディーテ。以前アフロって呼んだら攻撃魔法が飛んできたから、それ以降は禁句とした……


 そんなディーテは、王都出立の時のことをダメ出ししてきた。何故だかディーテは俺にだけ当たりが強いんだよな……


「出来るわけないだろ」

「何でよっ!!婚約者みたいなものじゃないっ!乙女ならそうして欲しいと思うわよ!」


「……ナタリー姫には他に好きな人がいるんだ」

「えっ…そ、そうなの、ね?」


 何だよ…自分から話を振ってきて、そんな事しか言えないのか…

 …ダメだ。このままだと、自分の不甲斐なさから来る苛立ちを、仲間にぶつけてしまいそうだ。

 でもどうすれば…?


 マリアに相談したところで、聖女は神にその身を捧げているらしいから色恋沙汰なんて不得手だろうし。

 ローや拳聖は論外だし…ディーテはすぐ怒るし……


 俺の中の苛々は、消える事は無かった。









「円環の理において、我が命ずる!獄炎の災禍(ヘルファイア)


 ディーテの魔法が炸裂し、大規模な爆発が森の中で起こる。

 粉塵が収まる前に、拳聖とローが二手に別れ、生き残りの魔物達へと向かった。

 俺は爆発の先へ駆け出し、魔王軍四天王の一人、白虎と対峙する。


雷魔法付与(ライジング・グラント)!うぉぉっ!」


『愚かなり、人の子』


 雷を纏った剣を白虎へと叩きつける。


 バチィッン!!ドンッ!


 白虎は虎の姿をした魔人。その魔人は白虎という名の通り、しなやかな筋肉を爆発的に解放して、俺の剣を難なくと躱した。

 空振った剣は地面を強かに撃ち付け、雷魔法が爆ぜた。


 再び粉塵が舞い、視界が悪くなる。


 シャッ!

 キンッ


「くっ!!重い…」


 粉塵に紛れ、白虎は鋭利な爪を振るってきたが、何とか剣を合わせる事が出来た。

 こちらは向こうを認識出来ないけど、向こうは虎の魔人。恐らく嗅覚だけでもこちらの動向がわかるんだろうな。




 暫く同じ様な攻防が続き、そして粉塵は晴れた。


「よしっ!凌ぎ切ったぞ!」

『馬鹿なものよ。遊んでやっていたのがわからぬとはな』

「ぬかせっ!!はっ!!」


 視界が取れた事で、もう一度魔法を付与して斬りかかった。

 今度は同じ失敗はしないっ!白虎の動きを見定めて、横薙ぎで決着をつけてみせるっ!!


「うぉぉっ!!」

 ブンッ

『遅いっ!!』

 ザシュッ

「ぐあっ!?」


 熱いっ!?えっ!?切られた?!


「タクマさんっ!?」「タクマっ!?」


 マリアとディーテの声は聞こえるけど、それどころじゃない!

 これまでにも打撲などは絶えず受けてきたが、初めての実戦、初めての鋭痛に俺はパニックになる。


『くっくっくっ。思ったより頑丈なようだな。腑までは届かなんだか』


 はらわた?内臓!?

 俺は急いで熱源に手をやる。


「うっ…いてて…」


 だ、大丈夫…痛いけど、これなら死なない。

 祝福により俺の身体は鋼より硬く強くなっていた。その為、動きやすい革鎧しか身に纏っていなかったけど、それごと腹部が真一文字に裂かれていた。

 深さは1センチくらいかな?

 出血は多少あるけど、大事な血管は無事な様だ。


「タクマ大丈夫か!?」「お主が四天王が一人、白虎であるな?」


 他の魔物を間引いていた二人が駆けつけてくれた。

 この半年間の中で、俺達は…いや、俺とみんなには確かに絆が生まれていた。


「悪い。手こずってしまった」

「手こずったって…その傷大丈夫なのかよ?」

「戦うのには問題ない」


 そうか。それだけ言うとローは白虎を見据える。


 自惚れじゃなく、この二人よりも今は俺の方が強い。でも、命を賭けた戦いは算数でわかるようなものじゃない!


 明らかな格上相手に、俺は気持ちだけが前へと向かう。そんな俺に


「タクマ殿。何やら戦いに集中できておらぬ様子。某と剣鬼殿とで時間を稼ぐ故、気持ちと身体を整えて欲しい」


 !!


 そういった面で、一番アテにしていなかった拳聖に痛いところを突かれ、俺は大きく目を見開いた。


「なんだよ。強敵を前にして集中してなかったのかよ…。よし、任せろっ!」

「悪い、な」


 呆れる剣鬼に、俺はバツが悪くなり、歯切れ悪く返すのがやっとだった。


 こんな事じゃ魔王を倒して世界を救えないよな…






 二人と白虎の戦いは拮抗しているとは言い難いモノだった。

 どう見ても遊ばれている。


「もう大丈夫だ」

「本当ですか?顔色が優れないように見えますわ」


 二人が時間を稼いでくれている間に、俺はマリアから治療を受けていた。

 マリアの治癒魔法の腕は大陸一で、瞬く間にお腹の傷は塞がった。

 失った血は魔法でも中々戻らないらしく、俺は青白い顔をしていた。

 恐らく俺の顔色は失血だけのせいじゃない。

 俺達勇者パーティの何かが上手く噛み合っていないんだ。その焦りが顔色に出てしまっていた。




「古の魔を宿す大地よ。汝のあるべき姿は槍!硬石流槍群(ストーンジャベリン)


 ディーテの魔力が無数の石の槍となり、白虎に向かって飛んでいく。


『むぅ…小賢しい』


 その槍を脅威と思ったのか、白虎は二人から距離を取り、追尾してきた魔法を全て打ち払った。


『我は遊んでおるのだ。邪魔者には消えてもらおう』


 ぐっ

 ドンッ


 白虎がその四つ脚を折り畳み、地に伏せるような格好をした後、俺の視界から消えた。


「ぐぁっ!?」


 !!


 その声はディーテの居たところから聞こえる。

 咄嗟に振り向いた俺の視界の先には、白虎の爪を背中に受けた剣鬼が、ゆっくり倒れる姿が映る。


「ローッ!!!」


 俺はただ叫んだ。

 ローはディーテを庇ったんだ…仲間を…


『チッ。玩具の分際で我の邪魔をするとは…まぁ良い。他にもおるでな。先に屍をさらしておれ』


 白虎がうつ伏せに倒れているローに向かい、トドメを刺すために鋭利な爪を振り下ろそうとしている。


「くっ!」


 俺は全力で向かうが、間に合わないっ…


 ザシュッ


「っ!!」

「拳聖ぇっ!!?」


 その凶器はローを庇う拳聖が身体で受け止めた。


「な、なにやってんだ…ばか」

「はっ。某はしたいようにするまで…」


 この二人は俺とは上手くやれていたけど、いつもいがみ合っていた。

 ここへ来る前も、どちらが先頭になるか争っていたから、俺が『二人で頼む』と仲を取り持ったんだったか…

 そんな二人が……お互いの命を投げ出して仲間を……

 それなのに俺は一体…


『一度ならずも二度も我の邪魔を…もう良い!貴様ら皆、あの世へと送ってくれるわっ!!』

風の刃(エアースラッシュ)

 ザシュッ

『ぐっ!その様な児戯で我に傷をッ!!』


 白虎が上手くいかない現実に怒りを滾らせていたところで、ディーテがその顔に向けて魔法を放った。

 それは白虎の頬に擦り傷を負わせる程度のもの。ただ怒りが増しただけに終わる。


『死ねぇいっ!!』


 白虎はローも拳聖も無視して、ディーテにその死を向けた。










 自分の身体なのに上手く動かせない。

 酷く緩やかな時間の中、俺は仲間が傷つき、倒れていくのを視界に捉えていた。


 ただの高校生だった俺に、誰かを救うなんて土台無理な話だったんだ。

 勝手に呼んで、勝手に期待して、勝手に…勝手に勝手に勝手に…


『タクマ様は優しいのですね』


 不意に王女の声が聞こえた。


 この言葉は花壇の世話を手伝った時の物だったかな?

 俺は優しくなんてないよ。

 自分が気に入られたいから、手伝ったんだ。


『誰にでも同じ様にされますね』


 それは優しさじゃない。傷つきたくないから、嫌われたくないから、そうしただけだよ。



 本当の優しさとは、傷つくことを恐れずディーテを庇ったローのこと。そして拳聖がそのローを守ったこと。戦う術が無いのに、前線までやってきて鈍臭い俺の傷を癒してくれたマリアのこと。


 本当の勇気とは、出来ることは少なくとも立ち向かい続けること。…ディーテが示してくれた!!


 俺以外が諦めていないのに!俺が仲間を守ることを!アイツを倒すことを諦めちゃダメだっ!!


「神がいるのなら!!俺に仲間を守る力を貸してくれっ!!」


 これまで剣にしか付与出来なかった魔法が、肉体にも使える!!

 直感でそう感じ取った俺は「ライジング・グラント!!」と叫んだ。









「な、なんとかなったな…」


 背中の傷をマリアに治療してもらっているローが、うつ伏せの状態のまま呟いた。


 肉体に雷魔法を纏った俺は、今までとは比にならない程の速さを得て、白虎に致命の一撃を与えられた。

 身体付与の代償は暫く痺れて動けないこと。今はディーテに背中を預けて腰を下ろしている。


「もうっ!二人とも重傷なのですわ!!金輪際無謀な怪我は治しませんっ!!わかりましたかっ!?」


 バシッ


「いってぇえっ!?」

「わかり申した…」


 憤慨するマリアに背中を叩かれたローは『なんでっ!?』と漏らすが、誰も答えてくれない。

 この勇者パーティで一番怖いのはマリアだから当然の対応だ。


「ホントっ、男共は鈍臭いわねっ!」


 ディーテは辛口でそう言うが、誰も間に受けてはいない。

 俺はこの空気が嫌で、ディーテの辛口に一々反応してきたけど、それはどうやら勘違いだったみたいだ。


 口ではこう言っているディーテが、一番心配していることを、みんなはちゃんと知っているから。だから何も言わないのだ。


 拳聖と剣鬼は相変わらずだけど、それも二人の関わり方、在り方だ。

 俺みたいにみんな仲良くなんて、上部だけのモノじゃ無い。


 大切なナニカの時、大事な場面。

 そこで人の本当の在り方が見える。いや。あの時、俺にはしっかりと見えた。


 俺が知らないうちに、それぞれがそれぞれを想い合える関係を築けていたんだ。


 託そう。この背中も、この命も、この愛すべき仲間達に。

 この想いはきっと俺だけのものじゃない。

暇だったので書いたのですが、こんな感じの過去があったという認識です(後出し万歳!)

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