第5話 A notebook(一冊のノート)
――科学文明。
人類が築いた『それ』の一度目の転換点が産業革命であるとするなら、今この時代は《《二度目の転換点》》だと、誰かが言った。
西暦1999年7月の、『マルス』による襲撃の終盤、各地に散った燃え盛るUFOが、《《撃墜される》》という珍事。
言うまでもなくそれは、『地球外知的生命体及びその文明の発見』と呼べる大ニュース……の、筈だった。
――『マルス』をもたらした地球外知的生命体は、何故地球に明らかな攻撃をしたのか?
《《対外的には》》その謎を解くべくUFOの回収に向かった各国の軍隊は、結論から言えば、生命体やその痕跡を発見することは無かった。
それによって人々が、人類以外の知的生命体に邂逅しなかった落胆の声と、人類を襲う知的生命体に(圧倒的暴力によって)侵略されなかった安堵の声を口々に上げたのは、つくづくどちらもよく分かる。
が、しかし実際のところ、《《その程度のこと》》で話は終わらない。
UFOと比べれば未開の地でも、地球にはその頃既にパソコン等の電子機器は存在し、ドローンや機械兵士に対する戦略的思想があったのだから、地球の有識者が『無人兵器による攻撃』を想定しなかった筈はない。
そんな中、各国が揃いも揃って調査に向かい、『何の成果も得られませんでした』という当時の発表は、あまりにも出来レースめいていた。
であれば、各国の軍隊は撃破したUFOの残骸から何を得たのか?
その答えは、今や世界中の空を飛ぶ《《反重力飛行機》》が、物語っていた。
――そう、人類が手に入れたのは、『反重力』。
どの国も公式な名言はしていないが、明らかに撃墜したUFOから手に入れたであろう『反重力機構』。それが、世界を大きく変えた、化石燃料の次の『資源』だった。
重力を遮断するだけで産まれるエネルギーは、熱力学の法則に則ったそれの比ではない。あらゆる知的階級――SFマニアから軍人、政治家に至るまで、UFOの科学技術を地球に生かした時、何が起こるかを夢想していたロマンチスト達の妄想は、この時現実になったのだ。
だからこそ、当時の国連――国際連合は、『国際平和と安全の維持(安全保障)、経済・社会・文化などに関する国際協力の実現』を、皮肉にも『マルス』によってあらゆる国に行き渡ったUFOの技術によってもたらそうと試みたのだろう。
――結果から言えばそれは、成功した。
西暦における国の定義は、
・領土
・国民
・主権
新暦における国の定義は、
・領土
・国民
・主権
そして――『アーク』。
言うまでもなくアークとは、マルスの技術を用いた『巨大人型反重力兵器』。
そこに、皮肉、あるいは願いを込めて、その総称は『方舟』となった。
かくして新暦は、巨大なロボットとともに始まったのだ。誰がどうやったかは知らないが、おそらくは国連主導で行われた『各国が足並みをそろえたタイミングの兵器開発』はまさに人類史でも奇跡だろう。
当時の私はそれをまさに――(此処から先は記載が途切れている)