第0話 Prologue(はじまり)
――夜。海上に浮かぶ、とある『基地』。
「あは……あはは……あっはははは!」
――そこでは、見渡す限りの何もかもが、炎に包まれていた。
建造物の残骸、戦車の残骸、抉られたアスファルトの残骸、残骸、残骸、残骸……徹底的に破壊された『敵基地』の瓦礫の上で、羽を生やした機械の天使が笑う。
「……ねぇ御主人様。これが貴方の望んだことだったの?」
瓦礫の山の上で、機械の羽を広げた銀髪の少女は、聞かれていないことを承知で言葉を放つ。その腕の先は硬質の超高周波ブレードに変形しており、夜の闇と空の星、地上の炎の赤色の狭間に広がる純白の機械の羽は、絵画のように美しかった。
嗜虐的に笑うその足元には、いくつもの機械兵の残骸……タコを思わせる多脚の殺戮兵器が、鉄筋コンクリートの破片に混ざって、内部機構を内臓のように晒している。
「まー答えやしない、か……さて、と」
機械の羽を生やした少女が山から飛び降りて、僅かな足音で着地する――その寸前。
少女は、《《空中で一度落下速度を落として》》、耳に当てたインカムで何処かに通信していた。
「もしもーし。片付けは終わったよ。意外と『本命』は来なかったんで、もしかしたら他のみんなの……」
その時、だった。
少女の背後、満月を覆い隠すような巨体が、目を見開いた彼女に影を落とす。
振り返れば、そこには拳を振り上げた機械の巨人。大量の海水を滴らせて、無警告に動いたそれの頭部には、6つのセンサーライトが赤く光る。
「……初めまして。『水陸両用サイクロプス』さん。でもサイクロプスって、一つ目じゃなかったっけ?」
少女が笑い、鉄槌のような拳が落ちる。
軽い足取りで拳を回避した少女は機械の巨人の背後に回り、
「貴方じゃ、弱すぎるんだよね」
それだけ告げて広げた手を軽く振るうと、それだけで機械の巨人が首を落とした。そしてそんな様子を、対岸から見る男が一人。
「……」
その瞳にはなんの感情もなく、燃え盛る海上浮島基地を双眼鏡で見ていた。
「あーもしもしー。うん僕。どう、見つかった? へー、そう。あー今来た今来た。はーい、お疲れ様ー」
誰かと通話しているらしいその男は、携帯個人用電子端末の画面を宙に展開して、データで受け取った書類……海外に輸出された違法兵器の一覧を、軽く眺める。
政府傘下のメガフロートから行われた、違法兵器の輸出の証拠……これをばら撒けば国際的なパニックになるか、はたまた誰かしらの手によって揉み消されるか……その予想をするより早く、その指は機密情報を拡散させた。
「これで、良かったんだよな……」
夜空を見上げて、男が呟き、踵を返す。
その背後では機械の巨人が爆散して、ひときわ大きな爆発音が僅かな遅れとともに男の背中を叩いたが、しかしその程度の衝撃も、これから起こることに比べれば小火ですらない。男はため息をついて、
「……僕の人生、どうしてこうなっちまったかなあ……」
そう、呟いた。
その脳裏には『彼女達』との出会いが浮かび、アルバムを見返すような懐かしさが男の胸を満たす。そこから蘇る感情は、決して後悔などではなく――
「ま、いいか。どうせ戻れやしないしな」
――話は、数年前に遡る。
ほひほひ人形と申します! よろしくお願いします!
大きくても小さくてもロボットは浪漫