質問1
フェイルノートのボディーガードとして、これから会議に出席する。これがカシャに舞い込んだ追加任務だった。彼は今、「急ぐぞ」と言って部屋を抜けたフェイルノートの後を追走している。博士まで彼を案内したメイドらしい彼女は、この三人の中では先頭を行く。
「急げ急げ! 風より早く! 遅刻したなら首が飛ぶ、もちろん物理だ。卿もそろそろ堪忍袋の緒が切れるだろう!」
高笑いとともに発せられる脅し文句。この言葉の真偽は、カシャには確かめようがない。
「博士、口より脚を動かしてください。今回遅刻すれば首が飛ぶのはあなただけではないんです」
なぜか、脅し文句の真実味が増したように思えた。ジョークとして片付けられないようだった。
「いや、いいや、まだ喋る。呪文の起動には言葉が要る。大事なことだ。きちんと起動できなければ骨、いや首切り損だ。『どうにかしてくれよ神様』って言うだけじゃ、会議室の扉までは遠い」
「いつものやつでしょう? 早くなさって」
何をする気かとカシャは聞いた。
「魔法を使うのだ。そばから離れるなよ?」
少し間を開けて先を行っていたメイドも、速度を落として博士の直前に来ていた。件の会議室へは変わらず向かい続けているらしい。この時間に、いい加減玄関が見えてきても良い頃ではないか、こんなに長い廊下だっただろうかとカシャは疑問に思った。
「いいな、よし『やあ、今日は大事なプレゼンがあったんだね。寝坊したのは俺が悪かったから、だから、その遅刻は許してくれないかな。だってほら、ここで許すことができるなら君は寛大な人物だって世に知られることになるんだから……え、ダメ? そんな殺生な。君って実はコバエくらいの器しかないんじゃないの。ほーん、お前は虫にも劣るからこれでちょうどいいだって? 上等だよ、勝負しろ』」
「これいつまで」
呑気な詠唱に、とうとう愚痴がこぼれた。
「まだ、もう少しの辛抱です」
本当に急ぐ気があるのかとカシャは少し苛立った。その「首が飛ぶ」というのが、自分にまで及ぶのではないかと一抹の不安を抱えているからだ。
「『勝負と言った途端、辺りに光が満ちた。極光の中心には人影がある。ヒトの形を持ったそれは、争うことを止めない人類を見かねて降臨し、ヒトを滅ぼすと決めた』……うん、オチが無い。脈絡もない。この物語を終わらせるには『どうにかしてくれよ神様』って感じだ」
ようやく言い切ったらしい。これに伴って辺りの景色が変化した。
薄暗い廊下は、陽だまりが等間隔に並ぶ豪奢なものになっていた。これを走り抜けると、それらしい扉が現れて、博士とメイドは我先にとそれを開けた。
先には円卓があった。博士の席だけが主人を待っていた。
今週中にもう一度投稿出来ればと思います




