第9話 フクロウ?
もはや悪魔3人と人間1人のたまり場と化したペンション。
ネネは下校時ここで課題やおしゃべりをしてからの帰宅がルーティンになっていた。
ユウにとってもネネと一緒に居られることは悪いことではないので日常の一つになっていた。
「そういえばハルカはいつ転校してくるんだよ」
「転校というより入学じゃないかな」
ユウとネネの通う高校に転校するとハルカは言っていたが今のところそういった動きは見ていない。
しかしながら現れて当日からユウのペンションに転がり込んでおり、マリカの隣の202号室を占領したのだ。
「まあ俺と同じで催眠魔術でも使って転校するんだろうなあ」
ユウは苦笑して言う。多様な魔術を使う堕天使は魔術によって日本での生活を送っている。
「あ、物盗んだり悪用はしてないからな!」
「分かってるよ、ユウくんがそんなことしないってことぐらい」
ネネも日本にいる悪魔たちが魔術を悪用するとは思っていない。
「ま、人間生活を送るのも新鮮だし学校生活もこんなに楽しいとは思わなかった」
日本に来て大きく価値観が変化したユウにとって今の生活はとても大切である。
「学校生活は楽しそうだと思うけどマリカ課題はめんどくさそうだなーって思っちゃうなあー」
ネネがたまにペンションで課題を済ませて帰るのを見ているマリカが言う。
「課題で思ったけどハルカのやつちゃんと学校生活送れんのかな。短気だしバカだし課題とかテストとかやっていけんのかって話だな」
ユウはバカにしたように言うがネネは黙る。
「大体夏は水泳の授業があるだろ?っははは!胸の小ささ気にしてモジモジするハルカが見られるかもしれんぞあぐあああああああああああああ!!!」
いつの間にか後ろにいたハルカに勢いよく吸血され叫ぶ。
「待て吸いすぎ!!!死ぬ死ぬ出血多量で死ぬ!!」
「あんたが悪い」
「今のはユウくんが悪いよエッチ!」
ネネにも責められて少し涙目になる。
「大体入学手続きもそうだけどこっちに来たばかりでまずは日本に慣れなきゃならないでしょうが!」
「バカでコミュ障なハルカは馴染むのに3年くらいかかるんじゃないー?私こう見えてペンションの主婦担当だから店員さんともよー--く話すし?日本の習慣とか1週間もかからなかったけど?」
「ぐぬぬ・・・」
「ハルカは入学までにできるかな??」
「返す言葉がないのが悔しい!」
意外とかわいいと思ってしまうネネ。
「それにすぐ入学しないのだってちゃんと理由があんのよ!」
「制服のサイズとかか?」
「あたしの体のことから一旦離れなさい!・・・魔界軍からフクロウが来てるわよ」
「なんだって!?」
場が一気に静まり返る。
「あんたはともかくあたしもマリカもこっちに来てる時点で予想できない?」
「予想できるか!あんな自己中でものぐさな気分屋が動くなんて魔界で何があったんだよ!」
「散々な言われようだね・・・」
魔界のフクロウとやらはどうやら問題児らしい。
「またあいつの気まぐれなのか!?時に魔界軍の命すらほったらかして3か月くらいふらっと消えるやつだぞ・・・」
「知らないわよ。少なくともあたしよりは先にこっちに来ている・・・はず」
ハルカよりも早い段階で来ているということは2週間ほど地球に滞在していることになる。
「あの、フクロウってあの鳥類のフクロウですか?」
ネネは魔界の悪魔がどの種族も人間に近しい姿だと思っていたので猛禽類であるフクロウの姿をした悪魔しか想像ができない。
「マリカ、魔導書で説明してやってくれ」
「はーい。ほいっ」
するとどこからともなく辞典程の本が出現した
「この魔導書は魔界のことなら大体知ってて魔力音声で説明してくれるの」
「なるほどsiriみたいなものなんですね」
「オッケー魔導書!ストラス族について教えて」
「そこはsiriにしとけよ」
『ストラス族。魔界の悪魔であり大きな目、180度回る首が特徴。負力を解放すると羽毛でできた翼が出現し手の爪が鋭利に伸びる。ストラス族はその翼の特性上飛翔魔術を得意とし、高速でかつ音もなく飛行できる。夜も視界が効くためサイレントキラーとして恐れられている』
「とんでもない悪魔じゃないですか」
「ストラスってのは地球だと確かフクロウみたいな悪魔だよな」
ユウは地球で聖書に記されている悪魔を思い出していた。
「能力だけ見たら確かに危険だけどあたし達魔界軍にいたストラスはとてもものぐさでワガママ、気まぐれで自分の気が向いたことしか進んでやらない性格だったわ。魔界軍第5位で名前はスウ」
「あのスウが魔界軍の命令に従うなんてどうやって言いくるめたんだろ。マリカ気になります!」
「夜襲されたら勝てる自信ねえぞ・・・」
いつも通り同胞に怯えなくてはならないユウであった。
「前から思ってたんですけどハルカさんて昼間普通に活動してますし学校にも通う気ですよね?それって私の想像する吸血鬼とちょっと違うんですよね」
「地球の吸血鬼像と全然ちがうわよ。多分地球に来た過去の吸血鬼は夜に来ていたんじゃないかしら。なんの為かは知らないけど」
「じゃあ日光で灰になったりしないんですね。心臓に杭を打つと死んじゃうって言われてるんですがそれも本当じゃないんですか?」
「そんなことされたら誰だって死ぬわ」
至極全うな話である。
「あたしたちはともかくネネはスウの動向が分かるまでペンションやあたし達に近づかないほうがいいと思う」
「ハルカさん、意外とやさしい・・・」
「別にあなたの身とかどうでもいいけど戦闘になったときに足手まといだと迷惑だからよ!」
ハルカは顔を背けたがネネは嬉しかった。
「とにかく忠告したからね!」
「そうは言うがハルカ、お前ならどう戦う?」
「どうって?」
「俺たち魔界軍の階級は天使への戦闘力で位置づけられてる。殺傷能力ならスウは十分脅威じゃないか?」
「・・・まあその時は禁忌だけど非常に不快だけど吸血して負力を吸い尽くすしかないでしょうね」
「いくら聖力をもってても生粋の天使ほど容量もねえしそもそも不意打ち食らったらアウトだしなあ」
「マリカの察知結界も負力を察知できるか未知数だしぃ」
「いざとなったらあたしはユウから聖力を吸い取って囮にした後可能な限り逃げるしかないわね」
「お前悪魔だ地獄に墜ちろ!」
「ユウくんも悪魔だしぃ」
果たしてサイレントキラーと呼ばれる殺傷能力の高い悪魔に対抗できるのだろうか。
ネネは自分の身とせっかく親しくなれた3人の悪魔の安全が不安になってきた。