第7話 世界旅行
飛び出したユウとネネは魔術結界で姿を消しつつ猛スピードで飛行していた。
「ユウくん!?どこに行くの!」
抱えられたまま病院に連れていかれるネコのように怯えるネネ。
やはり飛行するのはまだ怖いらしい。
「とにかく逃げるんだよ!第3位のハルカに逆立ちしても勝てるわけねえ!」
確かにユウはやけに怯えていたように見える。
「そもそも相性が悪すぎる!魔界の吸血鬼は吸血行為が食事だ。吸血することで聖力エネルギーを自分の負力エネルギーに変換できる。天魔対戦では天使の聖力を吸って負力に変換できるから実質無敵だった」
なるほど、聖力から負力を補給して大規模魔術を無限に使用できるわけだ。聖力を持つユウには相性が悪い。
「ここで待機しよう。寒いが結界の中だから少しは大丈夫だと思う」
「きれいだね・・・」
ユウたちは富士山の山頂にいた。
「まだ4月なのに雪つもってんなー」
「だって標高3800メートル近くあるんでしょ?そりゃあそうよ」
「まあなー。だけど魔界でもこんな高い山ねえええええええええええええええ!?」
振り返るとハルカがいる。
「ひえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・」
ユウはネネを抱えてジェット機のように飛び去った。
「金閣寺なんて小学校の修学旅行で一回来たくらいかなあ」
「ここは金閣寺っていうのか」
ユウとネネは京都府にある金閣寺の屋根にいた。
「なんかあの寺はここよりずいぶん古臭いな」
「あれは銀閣寺っていうらしいわよ、勉強しなさい」
「お、なんだパンフレットまであるじゃねえか見せてくれええええええええええええ!?」
振り返るとハルカがいる。
「ひええええええええぇぇぇぇぇぇぇ・・・・」
ユウはネネを抱えて飛び去った。
「いやあ同じ日本とは思えないくらい広いなあ」
「私も北海道は初めて!あ、牛さん!!」
ユウとネネは北海道の知床にいた。
「たしか世界遺産だよな」
「そうよ。野生動物もたくさん生息してるし知床五湖を回るハイキングコースがあるわね」
「まじか!行ってみたいいいいいいいい!?」
振り返ればハルカが居る。
「ひいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・」
ユウはネネを抱えて飛び去った。
「4月だってのに割と暑いな」
「でも海きれい!」
ユウとネネは沖縄の那覇にいた。
「沖縄といったらゴーヤチャンプルか?」
「でもあたしゴーヤってあんま好きじゃないのよねー」
「実は俺もだ。いい年して好き嫌いがあるのもよくねえとは思っているんだけどなああああああああ!!!」
振り返ればハルカが居る。
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁ・・・」
ユウはネネを抱えて飛び去った。
「町がなんかスパイシーな匂いだな」
「やっぱりカレーの本場だからかな?」
ユウとネネはインドにいた。
「ってなると本場のカレー食べてみたいよな!」
「インドでのカレーはナンと一緒に食べるのがポピュラーのようね」
「へえカレーとナンでええええええええええ!?」
振り返るとハルカがいる。
「うひいいいいぃぃぃぃぃ・・・」
ユウはネネを抱えて飛び去った。
「すげえな・・・これがグレートバリアリーフか・・・!」
「ユウくんウミガメがいる!!」
ユウとネネはオーストラリアの海中グレートバリアリーフに結界を張って潜水していた。
「自然ってのはすげえなあ・・・」
「ガイドブックを翻訳するとグレートバリアリーフは宇宙空間からも確認できるほど広大であり、生物が作り出した単一の構造物としては世界最大である・・・って書いてあるわね」
「生物が作り出した?ってゴボボボボボボボボボ!!!!」
水中にハルカがいた。
「ごぼぼぼぼごぼごぼぉぉぉぉぉ・・・・!!」
結界が解けユウとネネは魚雷の如く逃げ去った。
「すげーなあ!俺芸術はあんましわかんないけど」
「ユウくん美術館ではあんまり大きな声出しちゃだめだよ」
ユウとネネはフランス、パリのルーヴル美術館にいた。
「忌々しい天使が芸術とは思えないわね」
「まあまあそう言ってやるなよっっっっっ・・・!!!!!」
「ひっっっっっ・・・・・!!!!」
振り返るとハルカがいた。
ユウとネネは必死に口を抑えて美術館から逃走した。
「トマトはあんまり好きじゃないけどぶつけ合うのはちょっともったない気がするな」
「世界には色々なお祭りがあるんだね!」
ユウとネネはスペインにおり、トマト祭りが開催されていた。
「ラ・トマティーナっていう祭りで互いに熟したトマトをぶつけ合う収穫祭の事よ」
「へえ、この熟したトマトをか・・あああああああああああおらぁ!!!」
「えいっひいいいいいいいい!!!」
「・・・・・・・」
振り返り際、ユウとネネは持っていたトマトをハルカに勢いよくぶつけたあと飛び去った。
「さすがに結界内でも寒いな・・・」
「でもホッキョクグマはいるのにナンキョクグマはいないんだね・・・」
ユウとネネは北極圏にいた。
「・・・・で、お前もういい加減あきらめろよ・・・」
振り返ってハルカに言う。
「あ、あんたこそいい加減覚悟決めなさいよ・・・」
ハルカもさすがに疲れが見えている。
「だから帰らねえって言ってるだろ・・・!俺はまだこっちに居たいんだよ!」
「力ずくでも・・・?」
そういうがハルカの放出魔力はさほど出ていない。
「・・・なあハルカ、お前もしかしてこっちで『食って』ないだろ?」
「・・・・」
「ご、ごはんを?」
「ネネ、吸血鬼は吸血で負力を得る。だがこの世界には聖力って概念がないからな。ずっと疑問に思ってたんだ。この世界で吸血してなきゃ負力が得られない、だが人間しかいない。吸血鬼の最大の弱点は吸血出来ずに負力が0になれば死ぬ事だ」
ユウはゆっくりとハルカに近づく。
「いくらお前の負力所持量が多くてもこれだけ転移魔術を使えばかなり消費しただろ?もう時間の問題なんだよ。いやー昼間マリカのお菓子つまみ食いしといてよかったぜ」
これがユウの作戦・・・!ただ逃げ回っていたわけではないということか。改めてネネはユウの戦略術に驚く。
ハルカは僅かな負力で守りを固めることしかできない。そしてユウは真っ白な翼に変わり聖力エネルギーを解放してハルカに近づく。
「くっ・・・」
ハルカも交戦しようと残り少ない負力を上昇させる。しかし
「だから・・・ほら・・・す、吸えよ」
「は?」
ユウは首を指さし、ネネとハルカは目に?を浮かべる。
「俺の聖力エネルギーを吸えって・・・」
照れくさいのかそっぽをむくユウ。
「魔界の事情はどうでもいいけどその・・・お前も仲間だからな」
「ふ、ふーん。まあ仕方なくあたしが生き延びるために吸ってあげるわ!仕方なく!ムカつくけどね!」
赤面したハルカがゆっくり近づく。
「なんだよせっかく恵んでやんのに!」
「・・・ホント、そういうところがムカつく」
赤くなった顔を隠すようにユウの首筋に手をまわし優しく噛みつく。
ネネはなぜか自分も恥ずかしくなると同時にモヤモヤした気持ちになった。
今日の出来事ではっきりと自覚してしまったからだ。
自分はユウという悪魔であり人間である彼のことが好きなのだ。
悪魔から命がけで逃走するためとはいえ世界各地を一日でまわったのはとても楽しかった。
もっと・・・もっとユウと一緒に居たい。心の底からそう思った。
「あ・・・」
吸血したハルカが口角から垂れる血を拭くのも忘れて空を見上げた
「・・・きれい」
ネネも初めて見たそれに先ほどのモヤモヤは吹き飛んでしまった。
空に広がるオーロラは戦闘をすっかり忘れさせ人間と悪魔を魅了した。
「・・・な?地球ってすげーきれいだったろ?」
ユウはオーロラを見上げて一日を振り返った。
「そうね・・・きれいだわ」
ハルカは心から思った。
「さて、ハルカ、ネネ!帰るぞ」
ユウは二人と共にマリカの待つ自宅へ転移した。