第48話 堕天使ルシフェル
「ネネ!こんな時間までどこに・・・」
魔界から帰還しスウに家まで送ってもらったネネは案の定深夜に差し掛かり母に怒られていた。
「夜中だよお母さん、僕らのせいですまないねえ」
「・・・・・」
スウの目が赤く光るとネネの母はあっという間に意識を失い、スウは魔術で母親を浮かせ、リビングのソファに横たわらせる。
「君のお母さんには今日普通に帰って普通に夕飯食べて普通に寝た。という記憶に変えさせてもらった」
スウの洗脳魔法で記憶を変換し、今日起こったことはネネと悪魔にしか知らないということになった。
「すみません、ありがとうございました」
「そもそも僕ら悪魔の事情だからねえ」
「・・・・で、さっきの話ですけどまたはぐらかしましたね」
「うーん、そうだな」
スウは少し考える。
「どこまで覚悟、あるんだい?」
「どういうことですか?」
「君がユウを好きなのはわかる。サナみたいに心が読めなくてもね。ただ」
スウはこれまたいつもの自由さでネネに家のソファに座る。
「これ以上月の秘密を知るのはあんまり良くないと思うよ?」
「・・・知らない方が幸せだって言いたいんですか?」
「どうだろうね。幸か不幸かなんて時間が過ぎてみないと分からないし400年生きてたって先のことなんか予測できないからねえ」
「じゃあ知ることで幸せなのか不幸せなのかも私が決めます」
スウは驚いた顔をするとすぐにいつもの笑みを浮かべる。
「分かった。まあ、君の予測は合ってる。ユウの祖父は天界出身の天使で後に魔界に移住した堕天使の『ルシファー』様だよ。こっちでは呼び方に所説あるけど魔界の名前じゃ『ルシフェル』だった」
「魔界に移住した・・・?」
「とは言っても僕は情報としてはユウの祖父だって知ってるしユウの自分も祖父がルシフェル様だって知ってるけどそれ以上は知らないよ。ユウが知らないんだから僕が知ってるはずもないし」
「そうですか・・・」
「魔界にはサキュバス族だったりヴァンパイア族、あとはまあ僕のストラス族とか魔王様のグリム・リーパー族とかいろんな種族がいるけど堕天使族なんてのはいないからねえ。一応天使の系譜にはなるんだろうけど少なくとも負力も聖力も使えるなんて前例がないからよく分かってない」
「天使・・・じゃあスウさん」
「ん?」
「天使がいるなら『神』っているんですか?」
「僕らが誰の命で動いてると思う?」
「魔王、ですか」
「なら天界にも親玉はいる。そういうことだよ。それじゃ、長居してすまなかったね」
スウは話を一方的に切り上げるといつものように転移せず普通にドアから出ていく。
「スウさんて嘘つきとまでは言わないですけど正直者でもないですよね」
スウは今日で一番悪い顔でにやりと笑う。
「そりゃあ・・・『悪魔』だからねえ」
ネネは歯磨きをしながら先ほどの話で引っかかっていることを考えていた。
魔界軍の悪魔幹部は階級こそあれど基本同格として接していた。
同格でないとするなら第一位の少女。普段誰にも気を遣わずふてぶてしいスウですら様付けで呼んでいた魔王様だ。
引っかかることはそれだけではない。堕天使ルシフェルはユウの祖父だった。
そしてスウは魔王の少女と同等に『ルシフェル様』と呼んでいた。
スウはネネに語った以上の事を知っているはずだ。
そしてユウが天使と悪魔のクォーターなら当然ユウの親はどちらかがハーフということになる。
まだまだ語られていないことがあるはずだ。
スウはいつもの高速移動とはほど遠いほどゆったりとしたスピードで駿河湾上空を飛行していた。
「で・・・魔界を留守にしてきて夜中に空中散歩?サナ」
スウは飛行しながらフクロウよろしく首だけを背中に回して少し後ろにいた第二位の天狗、サナを振り返る。
「天界軍の大天使が死んで少し彼奴らの勢力は収まった。まあ短い時間なら離席しても問題あるまい」
「ふうん・・・まあいいんじゃない?魔王様が寂しくしてなければ」
「それ、そこだよスウ。その魔王様についてじゃ」
「魔王様のことなら一番そばにいる君のほうが詳しいだろう」
「もう一人いるじゃろうがスウ。そなたが付き合った魔王は」
「・・・・」
「初代魔王様について聞きたい」
「・・・だったら君の能力使って僕の頭覗けばいいじゃないか」
スウはまた悪い顔でサナの目を見る。
「ふん・・・わらわはむやみやたらに相手の考えに干渉するなどと筋違いなことはせぬ。そなたが知られたくない事柄なのだとするなら神通力など使わぬ。そなたが話す気になった時改めて聞くとしよう」
「嫌いじゃないよ君のそういうとこ。僕なら否応なしにのぞき込むけど」
「だろうな」
「ところで君いくつだっけ?」
「250歳くらいかのう」
「そっか、じゃあ戦争が起こったのは100年前だから知ってるんじゃないの?」
「今の魔王様が二代目なのは知っておるが初代魔王様のことは存ぜぬ」
「まあそっか。初代魔王様は魔界軍を立ち上げたけど姿を晒すことはなかったもんね」
「らしいのう。幹部の中で初代魔王様が誰なのか知ってるのはもはやそなただけだろう」
「まあそうだね。僕は立ち上げの頃からいるし」
「そこもよく分からんがな。この国と違って歴史の勉強なんて魔界にはあらぬ。気が付いたら戦争が起こり大勢の悪魔が死に、魔界軍が存在していた」
「まあせっかく来たんだ。少しだけ僕が知ってることを話すよ。これも気まぐれってことで」
スウは首を前に戻す。
「最初の幹部は5人いた。そして僕以外は今全員もういない。そして魔王様は姿を晒さなかったんじゃない。『晒せなかった』んだよ」
そう言ってスウは一瞬で飛び去ってしまった。ストラスの飛行スピードに追いつける種族はほとんどいないので天狗のサナは夜の帳に置いてけぼりになった。
「本当に気まぐれじゃのう。元第二位のスウ様は」




