第45話 死神
リュウの術で隕石が大量に降り注ぎ、軍本拠地はあっという間に消し去る。
リュウはその様を眺めるとつまらなそうに来た道を振り返った。
「あっけなかったな。今日が終戦記念日になるぜ」
そう呟くと月の表、天界へと向かって飛び立つ。魔界城へ攻め込んだ部下もろとも潰したリュウは同情も後悔も、そして達成感もない。
「ぶっ!!!!」
飛び立ったリュウは顔が変形したのかと思うほどの衝撃を受け、一瞬で地に打ち付けられる。間髪入れずに首にチクリ、とした感触に気づくと聖力が急減少し、その場に膝をついた。
何が起きたのか分からないまま見上げると、逆光ではっきりとは見えないものの空に浮かび上がった人物には真っ黒い天使の翼がある。
リュウはとっさに辺りを見渡す。リュウ自身が破壊させたはずの魔界城は傷一つなく元通りそこにあり、自身の聖力は吸血鬼ハルカによって致死量まで吸われてしまっている。もはや時間の問題か。
「どういうことだ!?」
「お前まさか自分一人で魔界軍を潰せたなんて本気で思っちゃあいねえよな」
リュウを強かに殴りつけたユウはゆっくりと地上へ降りる。
周りには隕石墜落に巻き込まれたはずの魔界軍幹部も、天界軍の兵もちゃんと生きていた。
「君程度の天使に潰されるなら100年も戦争しているわけないじゃあないか」
スウはバカにしたように言う。
「確実に術は発動したはずだ!」
「君に一つ教えてあげよう。世の中自分が見ているものが正しいとは限らないんだよ?まあ他人が言う事が正しいわけじゃないがね」
「俺がなんの為に本拠地に逃げ込んだか教えてやろうか」
ユウはリュウに詰め寄る。
「一つ、戦争なんて将棋。二つ、第2軍以上の情報をお前は知らなかった。三つ、自分の力を過信してた」
「意味が分からねえ!」
「じゃあ一つ目からだな。日本に居たんだから将棋くらいは知ってるだろ。将棋は自分が使える駒を適切な位置で適切な役割をさせる。お前の駒の使い方はただ闇雲に特攻させるだけで戦略とは言えない」
ユウのいう将棋の駒とは無論、軍の戦力のことだ。
「二つ目、お前は魔界軍第2軍以上の存在を知らなかった。知ってれば少しくらい手は打てたからな」
「第2軍・・・」
「魔界軍第2軍の司令官は天狗。神通力で考えを読めるんだよ」
「ふざけんな!!そんなデタラメな術あるか!!」
「俺らなんて呼ばれてるか知ってんだろ?『悪魔』だ。デタラメな魔術ばっかりに決まってんだろ」
「ふざけやがって」
「まあそんな感じでお前の作戦なんて2軍司令官を通して分かってた。この能力があるから2軍は基本戦場に出ない。隕石のカラクリだがあんなのはスウの幻覚魔術で発動したように見せただけで実際は拳サイズの石ころが振ってきただけだ。俺の未完成レベルのエンジェルガードすらいらんだろ」
「あの時俺が流星群を使うなんて限らねえだろ!!」
「言ってんだろ。考えが読めるやつがいるって」
ユウはリュウの胸倉を掴むと感情が読み取れぬような顔で告げる。
「最後に、お前は強さゆえに過信しすぎた。自分が弱いって知ってるやつは生き残るために必死に考えるんだよ。お前は確かに強いんだろうな。その桁外れの聖力に足を救われたな」
ユウは右手に負力をオーバーロードさせ、雷撃魔術で小さな放電を作り出す。
「さよならだ」
「ぐっ!!!」
「ぐううう・・・」
ユウの放電がリュウの胸を貫く刹那、突然周りの天兵が胸を抑えると苦しみ、バタバタと倒れていく。
ユウだけでなくスウ、ハルカ、マリカまで驚いて動きを止める。
完全にこの状況から取り残されてしまったネネは一人の人物をその目に捉えた。
日本でいえば小学校高学年くらいの背丈。黒いローブを身に纏い首からは目立つ金色のドクロネックレス、そして顔にはハロウィンの仮装でよく使われる洋風ホラーな仮面をし頭髪はツインテールという何ともアンバランスな出で立ちで現れた。
「魔王様・・・」
四人の悪魔は驚きのあまり全員が言葉を被せる。
魔王様と呼ばれる人物はゆっくりと仮面を外す。
仮面の下からは天使の死体で溢れる戦場に似つかわしくない童顔の少女が現れた。
少女は目を光らせるとそれにリンクしているかのように首から下げたドクロの眼窩が光り出す。
「ぐっ!!!!」
リュウは胸を抑えるとその場に倒れこむ。
「そうか・・・お前が軍のお・・・親玉・・・噂はホントだったか・・・」
リュウの目からはどんどん生の光が失われてゆく。
「一族最後のい・・・きのこり・・グリム・・リーパー・・・しにが・・み」
リュウの目から光が失われる。魔界軍を追い詰めた龍神は日本と何の関係もない月面で、なんのドラマもなく、そしてあっけなく命の灯を消されたのだった。




