第37話 殺すの殺されますの
夏休みも残り2週間となり、紆余曲折あった合宿も終った今ユウ達は特に何もない日常を送っていた。
・・・送っていたはずだった。
「会長!!包丁を使う時は猫さんの手で!」
「子供扱いしないでください!」
「料理できないならぁ、無理してキッチンに来なくてもいのにぃ」
「スウ!ゴミはちゃんと分別してって言ってるでしょ!」
「そうカッカするなよ、ほら吸血しておいで」
「あーうるせえ・・・」
元々はユウ一人で住んでいたペンションも悪魔、人間、天使が入り混じりずいぶんと騒がしくなっていた。
「しかしユウ、夕食を女子全員に作ってもらうだなんて完璧にヒモというやつじゃないのかい?」
「クソニートのお前に言われたくないしそもそも頼んでねえ・・・」
スウのちゃちゃを適当に流しユウは夕飯の匂い漂うリビングソファでおとなしくしていた。
そしておとなしくしていたユウの横にどかっとスウが座る。
「しかしまあ、こういうのが平和なんだろうね」
「なんだよ急に」
しみじみと言うスウにユウは怪訝そうに聞く。
「別に。ただこのまえサナが来たでしょ?魔界に帰ったみたいだけど考えてみたまえよ」
「何だよ」
「魔界にいる魔界軍幹部はもう2人しかいないんだよ?」
「あー・・・まあそりゃあそうだけど」
「僕はまあ自分の気まぐれで動くから心配はしてないけど魔界としては戦力的に苦しいだろうねって。とてもこんなふうにわいわい夕食ってわけにいかないんじゃない?」
「だろうな。けど戦うために生きてたんじゃなくて生きるために戦ってたんだぞ?日本で暮らせる以上魔界のことなんて考える必要もないだろ」
「まあね。元々幹部同士がこんなふうに集まって和気あいあいとしてること自体信じられなかったしねえ」
「俺は消されるか連れ戻されるかと思ってたよ。特にお前に」
「僕がそんな何の得もないことするわけないじゃないか。魔界の安寧なんて考えてるのサナくらいだろう」
「あいつの考えてることなんてお前が考えてることと同じくらい分からん」
「つれないねえ・・・お、食卓に料理が並んだではないか!先に行くよ」
「本当にお前の考え分からん」
料理が出来たそうなのでスウの後に続いてユウも食卓へと向かう。
「・・・結局何も役に立てませんでした」
天使のマコは料理の腕がなかったようだ。
「大丈夫です!やっていけばできるようになりますから!」
ネネが励ましている様はもはやどちらが天使なのか分からない。
「あー夏休み終っちゃったらまた授業始るなあ・・・」
「学校嫌なんですか?」
マコは天使なので日本の学校は天国にも思えるだろうが日本で生まれ育ったなら誰しも学校やら会社は嫌だと感じるのだろう。
「数学の担当が嫌味な先生だったり・・・あんまり折り合いが良くないクラスメイトがいたり・・・」
「ほう、君でもそう思う人間関係はあるんだね」
「スウさん、私だって人間ですよ?・・・嫌いな人くらいいます」
「じゃあ殺しちゃえばいいじゃん」
「スウお前何言ってんだよ!」
「そんな驚くことかい?ユウ、君だってそうしてただろう?魔界の悪魔は気に入らなければ同じ種族だって、もっと言えば親兄弟も殺すだろ?」
「そうだけどさ・・・」
「違いがあるのはそれが日本では割りに合わないことで魔界では一般的。それくらいだろう?根本的には人間と変わらないじゃないか。人間だって殺人なんてある話だろ?」
「魔界と日本じゃ違いますよ・・・」
「まあね、それは分かるよ平和な理由でもあるし。ただいざとなったらそういう手段も取れるだろ?今は日本に適応している僕だけどさ、人間関係はどうしても理解できない事が多い」
日柄ゴロゴロして自分の好きな事しかやらないスウは果たして適応しているといえるのだろうか・・・
「日本に限らずだけどいじめやらぱわはら?だっけ、それで自殺するの多いじゃん。いやそれ意味わかんないなって。自分殺せるなら相手殺せるだろう」
「言うのは簡単だけどよ・・・」
「やれって言ってるわけじゃないよ?いざとなったらそうすることだってできるしそうしないで逃げる手段もある。こんな平和な国なんだから自分が死ななきゃいかんほど追い込まれることなんてないさ」
「まあ・・・そう考えたら大した問題じゃないなって気にはなりますけど」
「そうだよネネ、まずはそう思えることが大切なんだ。やるかやらないかは後で考えるとして最終手段死ぬしかない、じゃなくて殺すか、でいいんだよ。で、そこまでくれば他の方法必死に考えるさ。自殺も人殺しもしなくていい方法がさ」
そう言ってスウはサラダをつまむ。
「ほんとお前たまにわからん」
「そうかい?結局何が言いたいかって言うと僕の平和な日常を脅かすとぶっ殺すよ?っていう忠告だけど」
「それはお前の生活に文句言うなってことなんだな・・・」
やはりどこまでも本音はかわらないスウのようだ。
「けどスウ、みんながみんな私情で殺してたんじゃあないからね。少なくともあたしは」
「ならハルカはそういう悪魔だったんだろう。ネネと決定的な違いがあるとするならば殺した経験があるかないかだ。事情なんて大した問題じゃない・・・けど」
そう言って今度はから揚げをつまむ。
「ユウは少なくとも日本にきて殺すのは怖いことだって感じたんだろうね?そして僕はなんとも思っていないし必要ならそうするって話でさ。ネネが悪魔や天使だったらどっちだったかな?」
誰も答えることは出来なかった。
誰しもがきっと死んでほしい、なんて思った人がいたことだろうから。
「自分の子供ですら殺せる人がいるんだから人間っていろんな人がいるよねぇ」
「そんなに不思議な事でもないだろう」
マリカの呟いた言葉にスウは悪い顔で答える。
「『子は鎹』も通用しない局面があるのはユウが一番分かってるんじゃない?」
「・・・飯の時に殺す殺されるなんて話はやめろよな」
にぎやかなはずだった食事は一変して重苦しい雰囲気となってしまった。




