第33話 摩天戦争IN南極
氷で覆われた地に2人の悪魔と1人の天使が立つ。
外見は全く人間と変わらないが背中から黒い翼を出現させているユウ。
スレンダーな女性だが黒いロングコートに蝙蝠の翼、顎にまで達しようかと伸びる犬歯を持つハルカ。
そして・・・真っ白な翼を携えたマコ。
「なあ、ここで戦ってお前が勝ってそれですっきりするのか?」
ユウは戦わずして勝つべく説得に応じていた。
「わたし達天界軍は魔界軍によってどれだけの損害があったと?」
「それは魔界だって同じじゃない」
「ふん・・・しかしあなたがここまで日本での生活を大切にしているとは思いもしませんでしたね。昔のあなたはやや好戦的ではありませんでしたか?とはいっても私はあなたとは戦った事がありませんが」
「誰が言ってたか忘れたが人ってのは変わるらしいぜ」
「そうですか。では・・・死んでもらいます!」
ユウの説得は失敗に終りマコのポニーテールがふわりと揺れると同時にエネルギー弾の雨が降り注いだ。
ユウは自身を防御魔術壁で覆い、ハルカは頑丈な翼を盾にする。
(いきなりオーソドックスなエネルギー弾を連発か。このペースで打ち続けたらすぐに聖力が枯渇するんじゃないのか?なにか裏があるとしか・・・)
聖エネルギー弾は動きが変わり対象をユウとハルカに変えた弾道ミサイルとなった。
ユウは魔術防御壁を防御結界へと変える。一見似たような術だが魔術防御結界は周囲から完全に切り離される。外部からの干渉は不可で内部は何が起こっているかも分からない。
その防御結界にハルカを取り込んだ。
「防御結界は負力の消費が大きいから手短に話す。マコが連弾してるのは俺とお前がコンビネーション技で迫るのを防ぐ為だ。俺がマコを拘束してお前が吸血したら勝ち確定だからな」
「それはそうだけど離れたままあたしがマコに近づくのはかなり難しいんじゃない?天使の飛行スピードについていくなんて」
「そうだ。だからマーキングして転移するんだ。俺がマコになんとか追いついて抑える。そしたら俺がいる座標に転移して入れ替わりトリックだ。俺の聖力を少し吸ってそれを頼りに転移魔術を使えば転移した先は俺が押さえつけているマコだ」
「おーけー、さすがね・・・んちゅう・・はぁ」
一度エネルギー弾の放射を止め、ユウの魔術結界から距離を取る。
「ふむ、あの結界でガードしつつ自分の負力を抑え私の聖力が尽きるのを待つわけですね。ずいぶんと保守的な戦い方をするものですね・・・しかしあの吸血鬼は厄介・・・一瞬でも噛みつかれたら命取りになる」
マコは状況を解析し、次の戦略を練る。まずは吸血鬼を無力化させてしまうのが得策だろう。
「では聖力をオーバーロードさせて結界を破ります!っ!?」
マコは結界を破ろうと聖力を多めに放出したが結界はユウの手で自ら破られた。
「なんのつもり・・・!」
多用な魔術を使うユウだが接近戦で仕掛けてきたのである。
「ちっ」
ユウの指先から放たれるエネルギー弾を避けながら猛スピードで空中を飛び回る。
「・・・さすがに生粋の天使はスピードも段違いだな」
ユウは天使のクォーターなため本来の血統を持つ天使の全力は出せない。
そしてマコはハルカに向かって飛来していく。
ハルカも応戦しようと翼を広げ雷撃エネルギーをマコに放つ。
(雷撃で昏倒させてから吸血するつもりですか。そんな手くらい読めてます。)
「甘いですよ!」
マコの翼が光るとまるで包み込むような大きな手が空中に現れ、雷を霧散させてしまった。
「なっ!」
「これはエンジェルガードという聖力由来の技です。神のご加護ですよ・・・さようなら」
最後にマコの声を聞いた瞬間ハルカは何もない空間にいた。
「ここは・・・」
ついさっきまで南極魔天戦争を行っていたはずだ。
だがユウもマコも姿が見当たらない。自分は死んだのだろうか。
歩き続けているがまるでゲームのマップ外のような世界であり、目標点がないためどのくらい歩いているのかも分からない。
すると突然景色ががらりと変わった。これを言葉で表すならそう、まるで拷問部屋だ。
子供の天使が何人もいる。そうした子天使達はもう泣くのも諦めただ順番をまっているのだろうかいやに静かだった。すでに衰弱死してしまっている個体もいた。魔界のオーク族である一人の悪魔が事務作業のように煮えた鍋に放り込んでゆく。
「生きて元気がありそうなのはこっちに仕分けてくれ。吸血鬼用に飼育する」
また一人、吸血鬼族の悪魔が登場し、食肉用のブタを連れていくかのように首を掴んで部屋から出ていく。
「魔天戦争の裏側・・・」
ハルカは震える声で呟くが周囲はハルカがいないかのように平然と作業が進められている。
「つぎは・・・こいつを親の前で解体ショーだな」
ひときわ魔のこもった声がし、ハルカはその場にしゃがみ込む。
しゃがみこんだ所で気が付くと景色は変わり、ついさっきまでの戦場、南極の氷の上にいた。
「あ・・・・れ・・・」
「もう大丈夫だ」
背中から白い翼が生えているユウに背中をさすられ少しホッっとする。
「今のはマコの聖夢幻術だ。場の雰囲気やにおいなんかもかなりリアルに近づけて掛けることができる聖力由来の魔術だ」
「体感時間はほんの一瞬でしたが良い夢を見られましたか?」
「ていうか俺聖力も扱えるんだぞ・・・簡単に解術できるんだが」
「うるさいです」
そういうとマコはそっぽを向いてしまった。
「こいつもしかしてかなりポンコツなんじゃねえのか」
「それに50隊の兵隊も見当たらないけど指揮取れてるのかしらね」
地獄のような幻覚からあっさりと立ち直ったハルカは周囲を見回す。
「ああ、それなら多分大丈夫だ」
「えっ」
「えつ」
ハルカもマコもきょとんとする。
「一人いるだろうがよ。日本に来ていなくて天界相手にだってうまく立ち回れる悪魔が」




