第32話 決裂
朝食を済ませると11時のバスでいよいよ合宿所を離れる。この合宿で自分は何か変わる事が出来ただろうか。そんなふうに考えながらユウは海を見ていた。
ユウの後ろからマコがゆっくりと歩いてくる。
「今日で最後ですからね。みんなで海を背景に写真でも撮りませんか?」
スタンドにカメラをセットする。
「意外と乙女チックなんだよなあ・・・」
「こういうことが人間らしさというものです。さあ全員そろって!」
マコの号令で人間研究部の4名が揃う。
「・・・では。人間研究部合宿はこれにて終了といたします。おつかれさまでした」
「おつかれさまでした」
「そして、おそらくこの合宿は最後のイベントになるかもしれません」
「どういうことですか?もう合宿所が使えないとか?予算がないとか?」
「こっそりビール飲んだことが学校にばれたか!?」
「あんたなにしてんのよ」
「まあ落ち着いて。3年の私は卒業の件もありますがそれはまた別の話です。
今は人間研究部として活動してます。だからそこをきっちり終わらせなければ|!」
「っぐぅ!!!!!!!!」
突然ユウ達の体を吹き飛ばさんばかりの圧力が発生する。
「マコ・・・やっぱりお前」
「うそでしょあなた・・・・!」
「マコさん、その翼・・・」
マコは真っ白な天使の羽を揺らしロケット並みの膨大な聖力エネルギーを解放している。
「マコはやっぱり天使だったか。これで納得したぜ。前に催眠魔術を掛けた時に魔術が発動しなかったからな。負力を絞ってた催眠魔術じゃ無理だ」
「ここであなた達悪魔と決着をつけます・・・ネネさんは巻き込んで申し訳ないですが」
「この合宿を選んだのは俺たちを一か所に集めて大規模な魔術戦争を起こすためだな?」
「」学校で襲撃は得策とは言えませんし近くのお仲間が加勢しにくるとさすがに面倒ですから
「負力は全開できる」
「よし、当然こんな浜辺でやる気はないんだろう」
「どこかにいいリングがおありですか?」
まるで勝ち策があるかのように余裕で答える。
「照明、フィールド、整ってやがるいいフィールドがあんだよなあ!ハルカ!」
ユウは負力を全解放する。堕天使らしく真っ黒な翼。向かい合うマコには真っ白な天使の翼。
「ま、南極しかないっしょ!」
ハルカも負力を全開放させる。吸血鬼は他の悪魔よりも負力保有量がケタ違いなので発しただけで周囲の人間は体ごと倒れそうになる。
「おいマコ、ネネは『こっち』の人間じゃねえ。戦闘に連れて行くなんてこと言わねえよな」
「それはそうですね。ではこうしましょう。私たちは今から南極で殺し合いをします。生きて帰ってきたほうがネネ様をご自宅まで送ると」
「なに当たり前のこと言ってんだ。ネネ!ちゃんと俺が送るからな」
「そういうのをこの国では死亡ふらぐと言うらしいですが」
「けど残念だぜ、いくら天使隠して侵入してたとしても合宿でのバレーやら素潜りやら枕投げやらイベントして6日間も一緒にいたんだぜ?猫でもなにか情が湧きそうだってのに」
「・・・何が言いたいんですか?」
「この合宿楽しそうにしてたのはお前の本性じゃなくて演技だったのかってことだよ。そんなやつが天使様を名乗ってるなんてな」
かすかに動揺は見えるが真意は分からない。
「かっ!考え直してもらえませんか?ユウくんもハルカさんも日本で馴染み、ルールを守って楽しく生活しています!それはマコさんだって同じなんじゃないですか?この国で天使と悪魔が戦争する理由がどこにあるんですか!?」
「そういう理屈ではありません。私はこの国の小学校を知りませんから確信はないのですが『みんなで仲良く仲直り』なんてのが不可能なところまで来ているんです」
「まあそりゃあな・・・じゃあ聞くがお前の行動原理についてだ、天界の命に従って感情殺して任務遂行しようとしているのか?それともお前の個人的なムカツキか?」
「・・・・両方です。」
「大体軍命令ならぶっちゃけ無視しちゃってもいいはずよ。私たちもこっちきて結構経つけど魔界軍が連れ戻しに来たなんてことなかったし」
「俺限定ではあったけどな」
「そうです。天界ではなくこの私、大天使マコの独断でこちらに50隊の天兵を向かわせております」
「まじかよなに考えてんだてめぇ!?」
「普通に日本を崩壊させる気!?」
「当然南極へ転移し相違結界を張ります。負力・聖力の持たぬ者からは見えません」
「地球へのケアは残ったほうがやるってことなんだな」
これはいつもの小競り合いでは無くなってしまった。
マコは天界軍の大天使の一人だった。魔界軍が学校に二人も入校してきたため纏めて屠るべく合宿を提案したのだった。
つまり、この戦いでは魔界の二人か天界のマコのどちらかが死ぬ。
誰かが死ぬ・・・・ユウくんは・・・まだわからないけど多分好きな人。ハルカさんは・・・ちょっといじわるだけど音はとてもさみしがり屋、仲間思いだ。マリカさんは・・・緩い雰囲気でいつも癒してくれる・・・きっとユウくんへの恋心はとっくに見破られているのに料理を教えてくれる。スウさん・・・基本ものぐさで気が向かないと動かないし気の向くままにどこかいってしまう。でも彼なりにちゃんと考えがあったり時々協力してくれる。
ネネは一緒にいるうちにこの悪魔だらけホラーペンションこそが自分がかけがえのないものになっていた。
「やっぱりこんなの間違ってる!!」
「動くな!!」
ユウの負力を帯びた怒号に思わず竦んでしまう
「こっちの人間巻き込まない保証はどこにもない!少しでも早く避難だ」
ユウは全身の負力を高め始める。
「南極までの飛行魔術で負力を多少セーブしねえとな。じゃ、ネネ。死亡フラグだなんだ言われたけどまあ心配すんな」
そういうと1メートルほど下りてきて自分の左手首にある宝石でできたブレスレットをわたす。
「これ体の成長が止まり大人になった悪魔が個人個人で持つものだ、つまり悪魔の証明みたいなもん。今は預けておく」
「これが、証明・・・」
「必ず戻ってくるからよっ!」
激しい突風を引き起こし海へと飛び去る。そしてマコはネネを悲しくも儚げに顔を合わせる。
「ハルカさん・・・」
「ごめんね、こっちの事情で。でもあいつもただで負ける気はないみたいよ?」
「何か策があるんですか?」
「うーん、それもわかんないけど考えがあるって顔はしてた。」
当てにできるのだろうか。
「私も翼はあるけど天使ほど飛行能力があるわけじゃないの。だから途中まで転移していくね」
そうしてハルカは一瞬で目の前から消えた。
「皆さん・・・どうかご無事で・・・」




