第30話 ぬいぐるみちゃん
花火大会の会場に着くとそこは人々の熱気で溢れていた。
「青春してんなあ俺たち」
「人混みではぐれちゃいそうだね」
ユウはしみじみとそう言い、ネネは人の多さに驚く。
「見てこれかわいい!」
ハルカは射的屋台のぬいぐるみに惹かれているようだ。
「あいつ本当に悪魔なのか」
「ユウくんもね?」
「あたし射的やってくる!」
「へいへい」
ユウは適当に返事をすると同じく射的のぬいぐるみが気になっているのかじっと見つめているマコに気が付いた。
「もしかしてぬいぐるみ欲しいのか?」
「そんなわけないです」
「まじか?」
「・・・まじです」
「欲しいんだな」
「・・・・」
「行ってこいよ。今しか手に入らないかもしんねえぞ」
「今しか、ですか。・・・こんな日がずっと続いたらいいですね」
「・・・」
ユウは初めてマコの屈託のない笑顔を見た。
「マコは来年卒業しちまうんだよな」
「そうですね」
「留年したらどうだ?」
「そんなわけにいきません。バカなこといってないで射的に行きますよ!」
「俺もかよ!」
こうしてユウも射的の会場に連れていかれる。
「ちょっと!詐欺よ詐欺!チートだわ!」
一足先に射的をしていたハルカは全弾打ち尽くしてしまったようだ。
「そんなに難しいのか?ほい、おっちゃん」
ユウはお金を払うと狙いを定め、一発打つ。
「ええ!?」
コルク弾は当たったのだが他の景品に比べて重そうなぬいぐるみはびくともしない。
(なるほどハナから取らせねえ気だな・・・じゃあちょっと負力を流し込んでっと)
「よし!」
負力を込めたコルク弾は見事ぬいぐるみを落とす。店主は何故か不満そうに景品のぬいぐるみをユウに渡す。
「あんたやるじゃない!」
「イカサマもいいとこだけどな、ほら」
そう言うとユウはハルカでなくマコにぬいぐるみを渡す。
「え?」
「これ欲しかったんだろ?」
「ちょっと!あたしが先に狙ってたんだけど!?」
「あのなあ、お前負力使えばマコと違ってイカサマできんだろうが。まさかぬいぐるみ貰えなかったからって殺すとか言うなよ?ほらわたがしでも買おうぜ」
マコに聞こえないようにハルカを説得する。
「わたがし!?食べたい!早くいくわよ!」
(こいつチョロいな)
「いいなあマコさん」
そう言ってわたがしの屋台にさっさと向かってしまう3人をマコは呆然と見ていた。
「少しはいいところもあるようですね・・・」
顔を赤らめてマコも3人の後を追う。
「案の定はぐれてしまった・・・」
ハルカに振り回されて次々と屋台を移動したためネネは完全にはぐれてしまった。
「人が多くて酔いそうだなあ・・・あ、すみません!」
避けようとしたが身動きが取れずぶつかってしまった。
「おお?君かわぅいーねえ!お兄さんと遊ばない?」
どうやらタチの悪い男にぶつかってしまったようだ。
「すみません、友達とはぐれちゃったんで行きます」
「待てよ、俺も探してやっから」
「ちょ、離してください!大丈夫ですから」
腕を掴まれてしまい振りほどこうとするも相手が強く握ってきて離れない。
「おや?君はネネじゃないか」
振り向くとTシャツに半ズボンというラフな格好で片手に金魚の入ったビニール袋、もう片手には缶ビールが握られている人物が話しかけてきた。
「ス、スウさん!?どうしてここに?」
「花火というのは初めてでねえ。いやあなかなかいいもんじゃないか」
「何だお前?彼氏かぁ?こんな弱そう・・・・な・・・・」
スウの目が光り男はその場で崩れ落ちてしまう。
「どうやら酔いつぶれてしまったみたいだ。係員さん!この方よろしく」
そういうとスウとネネはさっさと人混みに消えていった。
「さっきはありがとうございました」
「弱そうだの彼氏だの散々なことを言ってくれたものだからねえ。僕は女の子だと言うのに」
容姿はどちらかというと少年よりなのでよく勘違いされている。
「金魚とビールって・・・つまむ気ですか?」
「君もなかなか言ってくれるね・・・金魚すくいとやらが面白そうだったからやってみたんだが5匹も取れてしまったよ。ビールは子供に売れないとかなんとか言われたけど催眠魔術で売らせた。400年も生きてるっていうのに」
実年齢はともかく容姿はかなり若く見えるので無理もない。
「あ、そういえばユウくんたち見ませんでしたか?というかマリカさんは一緒じゃないんですか?」
「んー見てないねえ。マリカと一緒に来たんだがどっかに消えてしまったよ」
「スウさんも迷子じゃないですか」
「まあいいさ、マリカはともかく君たちは携帯で連絡を取り合えばいいじゃないか」
「そう思って何回か掛けたんですけど花火の音と会場の賑わいで聞こえてないのかもしれません」
「はぐれてる事にまだ気づいてないのかもしれないねえ。気づいたら向こうから掛けてくるだろう」
「そうですね・・・落としたりしてなければいいんですが」
「3人が全員落とすこともないだろうし大丈夫だろう。さ、祭りの続きを楽しもうか・・・ん?」
スウの視線の先にはまだ小学校低学年程の女の子が泣いているではないか。
「やあやあ君、はぐれちゃったのかい?」
「言い方がナンパですよそれ」
「はぐれちゃって、ぬいぐるみちゃんも・・・」
よく見ると女の子の手には人混みで落としたのだろうか踏まれてしまった泥だらけのぬいぐるみが抱えられていた。
「んー僕らも迷子だからねえ。誰と一緒に来たんだい?」
「パパと・・・」
「これだけ人が多いと服装とか持ち物の特徴で見つけるのは難しいですよね・・・」
「そうだねえ、一応聞いておこうか。君のパパはなにか特徴があるかね?目立ちそうなところとか」
「パパの・・・うーんと、ピンク色の髪を立てて革のジャケット、南京錠のネックレスをしているの」
「それなら大丈夫だ確実に見つかる」
「超パンクじゃないですか!!」
「よし、最後にパパと一緒にいた所まで戻ろうか。きっとその近くで探しているはずさ」
「ありがとう!射的の屋台ではぐれちゃったの」
「射的の屋台っていくつかありますよね?」
「確かにそうだがこのくらいの年齢の子はそう離れたとこから一人で歩かないだろう。近い順に巡っていこうか」
そうして迷子三人は歩き出した。
「パパ!」
結論から言うと歩き出して一件目の屋台で見つかった。
「うちの娘を見つけてくださって本当にありがとうございます!」
「見た目のわりに腰低い!?」
ネネはつい失礼なことを言ってしまう。
「見つかって良かったじゃあないか。じゃあ僕らも迷子なんでこれで」
「おにいちゃん、パパをみつけてくれてありがとう・・・」
「おにいちゃんではないのだが・・・せっかくパパに会えたのに元気がないじゃないか」
「うん・・・だって・・・ぬいぐるみちゃんが」
女の子の手には大勢の人に踏まれてボロボロのぬいぐるみが依然として抱えられている。
「なるほど、それで射的の屋台にいたのか」
「景品のぬいぐるみは既に取られてしまっていて・・・」
父親はピンクのモヒカンまでしょぼんとして見えるほど残念そうに言う。
「そういった景品は落ちないように出来てるし落とした奴がいるなら何かイカサマでもしたのだろう」
「スウさん!子供の前でそんな夢を壊すような・・・」
「いやはや大人は汚いからねえ」
悪い顔でネネに言うとスウは女の子に目線を合わせるためにしゃがむ。
まさか洗脳魔術か幻覚魔術でもかけるのだろうか、ネネはそんな不安を抱いた。
「そんな落ち込むことはないだろう。パパは新しいぬいぐるみちゃんを用意しようとしたらしいがその必要はない」
「どうして?」
「そんなにボロボロになっても大切に抱きしめられてるぬいぐるみちゃんは、僕にはとっても幸せそうに見えるよ?」
「・・・うん!大切なの!これからも大切にする!」
「そうしたまえそうしたまえ。じゃ、僕たちも仲間を探しに行かないとだから行くよ」
「ありがとうおにいちゃん!おねえちゃん!」
「僕もお姉ちゃんだってのに・・・」
「スウさんたまにいい人ですよね」
先ほどのやり取りを見ていたネネはとても毎日ゴロゴロしてネットゲームやソーシャルゲームに勤しんでいるニートとは思えないでいた。
「君の中で僕のイメージは何なんだい・・・」
「それは・・・」
「黙らないでおくれよ」
「いえ、でもあんなふうに子供に優しくするなんてちょっと意外でした」
「別に子供が好きってわけじゃないけどね」
「今回は気が向いたからですか?」
「うーん、ただの気まぐれってのもあるけどそうだな・・・ほら子供って良くも悪くも純粋だろう?」
「それはそうですけど」
「大人になっていくと段々汚くなるからさ、魔界や天界では特にね。きっと日本でもそうなんだろう。だから少し新鮮だったのさ」
「そうですか・・・」
「さすがの僕も小さな子に泣かれるのはちょっと寝覚めが悪いしね」
「スウさんにもそういう心があるんですね」
「君は僕を悪魔だと思っているのかい」
「悪魔は悪魔ですけど・・・」
「全く・・・ん?あれはユウじゃないかな?」
スウの視線の先にはハルカとマコに連れられ荷物持ちと化しているユウがいた。
「あれはもう駄天使だね。行っておいでよ。僕はマリカを放置して帰るから」
「帰っちゃうんですか?」
「ソシャゲのガチャを引かないといけないしネトゲのイベントの時間だ!それじゃ」
そう言うと人混みに消えたかのように転移してしまった。
「やっぱり自己中だあの人・・・」
置いていかれたマリカを不憫に思いながらもネネはユウ達の元へと走って向かった。
「まったく、ユウの負力を追って見つけてあげたんだから少しは感謝してほしいものだよ。というか的屋でぬいぐるみ取っていったのあいつじゃあないか」
スウは上空を飛行しながら間近で見えている花火をつまみにくいっとビールを飲み干した




