第3話 堕天使VS魔女
「見ーつけた」
空中の魔女は薄ら笑いを浮かべる。
「誰かしら攻めてくるかもとは思っていたけどここ最近平和すぎてすっかり忘れてたよ。久しぶりだな、マリカ」
マリカと呼ばれた魔女は飛び切りの笑顔で
「もおおおおおユウくんたらいきなりいなくなっちゃうんだもんかなり心配したんだからね!!!」
「お前は相変わらずだが心配した相手に容赦なく負力エネルギー打ち込むか!?」
なんとも緩い会話が始まっている。
「違うもん!私が狙ったのはそのどこの馬の骨ともわからないメスガキよ!!!」
かわいらしい魔女からとんでもない罵詈雑言が飛ばされる。
「なっ!そんなこと言われる筋合いありません!!あなたこそなんなんですか!!!」
「マリカはココ最近ユウくんにくっついてる女の排除とついでに魔界軍に連れ戻しにきたんですーぅ!」
「そっちがついでなのかよ」
「さあユウくん!!!マリカとメスガキどっちをとるの!」
「魔界軍のことはもういいのか…」
コントのようなやり取りを続けていたが
「ユウくん…魔界に戻るの?」
ネネが少し寂しそうな顔で尋ねる。
ユウはほんの少し考えたが、
「いや、高校卒業するまでは魔界に帰るつもりはない。まだこっちでやりたいことたくさんあるんだ」
高校卒業したら一人暮らしをするかのような様子で言っているがそこには何故か決意を感じた。
「だから魔界に帰ることはできない」
「そっか。そこまで言われちゃうと実力行使に出ないといけないなあ。本当は嫌なんだからねユウくん!」
マリカの体から周りの木を倒さんばかりの負力があふれだす。
「クソ、本気かよ」
ユウも負けじと負力エネルギーを上昇させる
「そういえばユウくんとは直接戦ったことはなかったよね・・・殺しはしないけど連れ帰れるくらいには攻撃させてもらうからね!!」
そういうと魔術エネルギーを爆弾のように打ち込む。ユウはとっさにネネに魔術結界を張り巡らせ自身もガードに備える・・・がその隙をマリカは見逃さなかった。
「!?」
転移魔法でユウの目の前に現れたマリカはいきなりユウにキスをする。
「ちょっと!!!何してるの!」
つい慌ててネネが声を荒げるが
「クソ・・・」
ユウは膝から崩れ落ちてしまう。
「このクソビッチ!俺の負力エネルギーを・・・くっ」
「ひどーい、ユウくんを連れ帰るためだもん」
魔女はキスを媒介して様々な強力魔術を使う。ユウは毒を食らったかのように負力エネルギーが急激に減っていく。
「さあユウくん、このまま衰弱していつまでもつかな?」
先ほどのふわふわした印象はなく戦闘モードの冷徹さが覗えるマリカ。
「ちっ!」
ユウは残った負力をエネルギー弾に変換させ地面にたたきつける。砂埃が舞うが
「もう照準まで狂っちゃうほど衰弱しちゃったかなー?」
余裕の笑みをうかべマリカは砂埃が晴れるのを待つ。
ところがばさっ、と翼をはためかせる音とともに砂埃が晴れる。そこには先ほどの黒い翼ではなく真っ白な翼に変化したユウが現れた。
「その翼・・・」
ネネは思わずきれいだ、と感動すら覚えてしまった。
「なるほど・・・聖力エネルギーに切り替えたわけね。さすがは知略と戦略で魔界軍幹部になっただけのことはあるわね!堕天使のユウくん!」
「堕天使・・・?」
「やめてくれえええ厨二くせえ!!だから言うの嫌だったんだよ!!!」
ユウは戦闘中にも関わらず頭を抱える。
「ちゅうに??」
「なんでもねえこっちの話だ」
「堕天使って、ユウくんは天使から悪魔になったの?」
ネネはもはや慣れてきてしまっている。
「そういうわけじゃねえんだが、ただ聖力と負力両方を扱える悪魔寄りの存在ってだけで中途半端なんだ。だから俺は魔界軍階級で一番格下の第7位なんだけどな」
自虐的にそう呟くとさらにとんでもないことを言い出す。
「負力エネルギーも多くは使えない。マリカは格上の第六位。こりゃ敗色濃厚だな。残念だがお前の要求を呑むしかなさそうだ」
「ほんと!?じゃあ魔界に帰ろう!」
「嘘でしょ!!!ユウくん!!」
ネネはたて続けに起こったことで驚きと悲しみの感情が混ざりもはや泣き出しそうである。
「すまんなネネ。この一年の思い出はちゃんと忘れない。俺の長い人生で一番濃い時間だった」
「ユウくん・・・」
「マリカ、転移魔術が使えるほどエネルギーが残ってない。転移はお前がやってくれ」
そういってユウはマリカを抱きしめる。
「もーしょうがないなあ」
マリカは戦闘中の威厳などなかったかのように最初の緩い雰囲気に戻る。
「ユウくん・・・」
ネネは自覚こそ最近まではなかったが自身もユウを大切な『人間』としてみていたことに気が付いた。
もう遅かったか、そんな後悔と悲しみ、寂しさを覚えた刹那に
ドン!
と思わず目も眩むような光が視界を奪い、遅る遅る目を開けると魔女であるマリカが白目をむいて樹海の地面に倒れていた。
何事かと思い周囲を見渡すとユウも意識こそあるが膝をついて立てずにいた。
ユウもマリカも転移していない。
「ユウくん・・・?」
「・・・俺はまだ月に帰るわけにはいかねえんだよ」
苦しそうに、だが笑みを浮かべてネネに言い切る。それだけでネネは感極まり涙が溢れてしまう。
「俺のありったけの聖力エネルギーをマリカに流し込んだ。相反するエネルギーは互いのエネルギーを打ち消すからな・・・流し込んだ聖力エネルギーでマリカを戦闘不能に持ち込めなければ完全に負けてた」
堕天使であり聖負両方のエネルギーを扱えるユウにしか出来ない戦法だ。最下級でこそあるが知略、戦略、ブラフで戦場を生き抜いた軍司令官だけのことはある。
「怖い思いさせて悪かった。あと俺の正体黙ってたこととか・・・でも今の生活が俺は気に入ってる。それにウソはないからさ」
こうしてやっとネネは緊張から解放された。




