『正直者〜』をいま書いたらこうなった。その1?
去年のことを思い出してみた。
彼と出会って彼女の親友を紹介されてそこそこに彼女とバカップルしてて、まあなかなか楽しかったなぁ
特にあれは傑作だった。
彼、自称恋愛博士が僕と初めてあったとき。
「12月25日」
世間一般のクリスマス。
だけど彼女の誕生日を尋ねられて僕はそう答えた。
聖なる日に産まれた子供だなんてなんと恐れ多い、なんて自称恋愛博士が言ってきたから、彼女は僕のChristだからって微笑んでみたらおもいっきり苦笑いされた。
そしてなぜか横から彼に向かって「なに笑ってんのよ!?」と彼女の怒声と鉄拳が飛んだ。
数m転がりクリスマスツリーに当たってようやく止まったんだよなぁ 彼。見事に頬が腫れ上がってた。
その後、たしかに彼は彼女を追い掛けるのを辞めたんだけど僕のところに入り浸るようになり彼女から「あんたホモじゃないの?」との辛辣な言葉を頂戴して「あり得ないっす 俺、女の子大好きだから」って、それでまた彼女に鉄拳を貰って。
……そもそも何故恋愛博士を自称するほどのスーパー遊び人の彼と僕が知り合いになったかというと、もちろん彼が彼女目当てだったからである。
大学入学当初、彼女はそのモデルばりの美貌でいろんなサークルやらなにやらで引っ張りだこだった。
当然男性から声を掛けられる機会も多くてでもその中には明らかに僕より数段は男前な人がいっぱい居たわけだけど、彼女は見事に全部無視した。
そんな中で無視され続けながらもずっと声をかけ続けたのが彼だった。
そのうち、
「わたし、彼氏いるから」
と、彼女がうっかり口を滑らせて「嘘じゃないならそいつに会わせろ そしたら諦める」と彼が宣言。観念した彼女が僕を呼び出し上記の顔面パンチが完成した。パチパチパチ。
あ その前に「え…… マジで このマルオがあんたの彼氏!?」と言って彼女の回し蹴りで彼が『くの字』に折れて悶絶してたっけ?
ちなみにマルオは“ちび○子ちゃん”の某キャラクターだと推測。
……そんな他愛もないことを思い出してたら不意に彼女が僕を覗き込んできた。
寝起きの腫れぼったい目ではせっかくの美貌も台無しだなぁ、なんて贅沢な思いは食べてしまおうといま作ってるサイドイッチに挟んでみた。
「んー……」
彼女が瞼を擦りながら僕に顔を近付ける。目は悪くないはずだからまだ寝惚けてるんだろうか。
「ちゅー?」
……待て。なんでいまそうなる?
「ちゅー……」
僕より少しだけ背の低い彼女が背伸びするようにして、唇が重なった。とゆーかふつうに唇を押し退けて舌が口内に侵入してくる。なぜかそのまま思いっきり吸われた。
不味い、いや 味の是非を問われるとむしろ美味しいんけど、息が出来ない。
「んー、んー」
声にならない抵抗は呆気なく無視され僕は野菜を切っていた包丁を手放し彼女を突きはなそうと尽力するが、しっかりと抱き止められて僕の細腕ではどうしようもなかった……
もうどうにでもなれ。半ばそう思いながら彼女の舌に僕の舌を絡ませた。背中に腕を回す。
「……んむ?」
半分しか開いてなかった目を全開にして、彼女は飛び退いた。
足元にあった鍋を蹴って片足で跳びはねながら悶絶する。
「ね……寝込みを襲うなんて最低っっ」
……いや 待ってよ
「状況をよく見ようよ?」
ディープキス。
パジャマ姿の彼女。
キッチン。
まな板の上の包丁とトマト。
エプロン姿の僕。
覚醒仕切っていない彼女の脳は多分まだ自分関連の二行しか読み込みに成功していない。
「…も…もうやだ 別れる! 出てく こっ……この色魔っ!」
赤面して息も絶え絶えに言う彼女に僕は溜め息を吐いた。
「うん わかった。じゃ今日中に荷物纏めといてね」
◇
へ? あれ?
何かが口内に侵入してくる感触で私は意識を覚醒させた。
目の前にある彼の顔。背に回る手。再び意識が真っ白になりかけて私は飛び退いた。
そのとき手鍋を蹴飛ばしてあまりの痛みに片足でぴょんぴょん跳びはねる。
えっと、何が起こった。
ディープキス?
あたしパジャマ姿?
脳内で電子回路が閃いて答えを演算する。
「ね……寝込みを襲うなんて最低っっ」
涙目になりながら彼に罪状を突き付けた。
しかしなぜか呆れ顔で彼はいい返してきた。
「……状況をよく見ようよ?」
どうやら言い訳する気らしい。となればこっちにも考えがある。
「もうやだ 別れる! 出てく この色魔っ!」
するとわたしにぞっこんのはずの彼は大きく溜め息を吐いて無表情で言ったのだった。
「うん わかった じゃ今日中に荷物纏めといてね」
え…… 流石にこれは酷くない……?
「っ……さよならっ!」
私は着替えだけ済ますと財布と携帯電話だけを引っ付かんで同棲している彼のアパートを飛び出し一回に済む親友の元に駆け込んだ。
……安い家出だなぁ と自分でも思いながらベルを鳴らす。
「はぃ……?」
親友は気だるそうにドアを開けてわたしの姿を認めると、
かちゃん
……閉めた。
「ちょっと なんで!?」
「五月蝿い あんたがあたしのとこ来るなんてノロケ以外に何がある? フラれたてほやほや女をナメんなよ」
「そんなんじゃないって! 彼と喧嘩して」
「どーせ大したことじゃないんでしょ」
取りつくしまもない……
「うっ……うっ……」
……とりあえず泣き真似してみた。
「……どうした?」
すると彼女がもう一度ドアを開けたので右足を隙間に滑り込ませる。
「あっ コラッ!」
「ちょっとでいいから!」
わたしは強引に彼女を押し退けて室内への侵入に成功した。
「あんたは昔から無駄にパワフルねぇ……」
「えへへ ありがと」
褒めてないし と吐き捨てるように言ったのを聴こえない振りをしてわたしは炬燵に足を入れた。
ちなみにこれ、彼女の万年床である。
「む 電源入ってない」
「あんたいま何月だと思ってるの?」
首を傾げてみると6月よ、と嘆息される。
「こないだまで冬だったのに」
「脳ミソがいつも春だから春が来たことには気付けないんじゃないの?」
「むー」
炬燵の上に顎を乗せてむくれてみる。
「話、聴いてやるから」
「から?」
「とっとと帰れ もしくは男紹介しろ」
………………
そしてことの成り行きを説明すると、
べしっ
叩かれた。
「やっぱりノロケじゃない なんて羨ましい……」
………………
「うん あんたが悪い 彼氏に謝ってきな
寝込みにキスぐらいで何さ」
“ねこみ”どころか“ねこみみ”までやらされてフラれた女の気持ちはあんたにはわからねぇ シクシク
「えーっと……大丈夫?」
「ほんとはあんたよりずっと大丈夫じゃない だから支えのあるあんたはちゃんと立つべき」
「……うん」
親友は冷蔵庫から缶チューハイを二本持って来て炬燵の上に置いた。
「ま、一晩ぐらいなら泊まってきな あんたの彼氏も怒ってるわけじゃないんでしょ
整理ついたら帰んなさい あたしのとこにこれ以上問題を持って来ないで」
なんだかんだでやっぱり優しい親友なのであった。
◇
「そーゆーわけで怒らせちゃったんだけど」
僕は自称恋愛博士に電話してみた。
恋愛博士を名乗るだけあり彼の人心掌握術は群を抜いている。容姿だけでは半人前だっ! と豪語する彼は数個の携帯電話を使い分ける生粋の女の敵であるが、彼の付き合っている彼女(達)のほうもそれを理解しながら容認している節があるのが解せない。
根底に来るのはやっぱり容姿なんじゃないだろうか……
『あー、悪い 聴いてなかった』
「説明するのもう三度目なんだけど……」
僕は嘆息する。
『冗談冗談 ってかあの女のことで俺に頼られてもなぁ…… お前と別れたほうが俺にとっては都合いい訳だから』
「このへんは信用してる」
『うっしゃ 任せろ!
……で、何の話だっけ?』
……僕は嘆息した。
『ああ そりゃお前が悪いな
土下座しろ もしくは死ね 以上』
「僕は真面目な話をしてるんだけど」
『俺は真面目な話をしてるんだが』
君、存在が冗談だよ…… って声に出そうと思ったけど止めておいた。
『あーえー 最後の一言が余計だったな?』
最後の一言? ああ、『今日中に荷物纏めといて』って言ったことかな?
「そうかな? 彼女は僕のことよく知ってるからああいうってわかってたと思うんだけど」
チッチッチ って電話の向こうで『ゆびをふる』でもしていそうな前置きをする。
『わかってても傷付くのが女ってもんなんだよ
あいつらは手に入らない物が欲しいんだ ギャップ萌えだな、うん
もしお前がそこで「ごめん 僕が悪かった……行かないで」って言っとけば今頃お前らはベッドの上だ」
本日、三度目の嘆息。
「君に相談したのは間違いだった気がする」
『この恋愛博士様を掴まえて何を言うかね 君は』
いいか? そういう時はだな
◇
蹴り出されてしまった……
親友と愚痴で盛り上がっていたはずが、急に泣き出した彼女に「独り身じゃないやつ、死ねっっ!」と。
鍵が回り、それからチェーンが掛かる音がした……
携帯電話を開くと時刻は朝の3:30。
早寝早起きの化身たる彼が起きているはずのない時間。
それに彼から電話がかかって来ていた。
行くとこ、無くしちゃったなぁ……
不意の夜風に身を震わせる。6月でも夜はまだ寒い。というかいまは止んでるけど雨が降っていたみたいだ。
帰ろう、帰る場所があるうちに。
わたしは階段を登り彼の部屋の前に立ちポケットをまさぐった。
しまった…… 鍵もってくるの忘れた。
「……えいっ!」
祈るような気持ちでノブを回すと引っ掛かるとこなく簡単に回った。
そのまま手前に引くと抵抗なく開く。
「ただいま」
靴を脱いで上がる。
小さい部屋だから目に入ったのは机に突っ伏して眠る彼。
その机に並んだ彼の手料理。
「……待っててくれたんだね」
小さくあくびを1つ。夜風にあたって酔いも少しさめたらしい。
そう言えば昨日……正確には一昨日も彼と少し飲んだなぁ。
「……寝よう」
でもその前に。
わたしは起こさないように優しく彼の頬に唇を押しあてた。
◇
「寝た…… かな?」
4時頃になって僕は大きく伸びをした。狸寝入りのつもりが本当にうとうとしていた。
自称恋愛博士にメールを送る。
『ありがとう 言う通りにしたらうまくいったみたいだ 今度ご飯奢るよ』
返信は直ぐ来て、
『そんなのいいからかわいーこ紹介しろぉ』
……だった。
そういえば彼女の親友も結構可愛かったよなぁ…… いや、僕は彼女一筋だけどね。
なんて思いながら、唐突にフラッと来た。
それから大あくび。
寝室を覗いてみると彼女が僕のベッドを使ってよく寝ていた。
仕方ない。机で寝るとしよう。
「おやすみ……」
──…朝になって、起床した僕の向かいの席に
「そういえば喧嘩の原因なんだったっけ?」
そう言って昨日作った料理を温め満足気にほうばる彼女が居て僕は苦笑する。