第8話 目隠し占い
王子殿下に私とライラの関係を知られてしまったと言うのは危険でもあったが、頼もしくもあった。
それにその一件があってから、私とリック王子殿下は身分は違えども友人となったのだ。
私とライラがお屋敷に帰ろうと、馬車へ向かっているとリック王子殿下とジン様が合流して来て、わずかな時間だが一緒に歩こうと言って来たので、四人連れ立って広い正面階段を歩いていると、貴族の子弟たちがこぞって校門前に走っているのが見えた。ライラは興味を持ったようで、そのうちの一人に声をかけた。
「ねぇねぇ。校門になにがあるというの?」
「あ、ライラさん。なんでも校門に高名な占い師アビダフがいるらしいのですよ」
そういって駆けて行ってしまった。
ライラの方を見るともう目をキラキラさせている。
ハイハイ。行きたいのね。
「ルミナス。面白そうじゃない。あなたもそう思わない」
「御意にございます」
「ちょっといってみましょうよ」
そういうと、ドレスをひらひらさせながら階段を駆け下りて行ってしまう。
「ああ、お嬢様、危ないです」
「遅いわよルミナス! 私が転んだらどうするの! 急ぎなさい!」
私は急いでライラの元へと駆ける。それを面白そうだとリック王子殿下とジン様はついてきた。
校門まで来ると、なるほど黒いローブを羽織ってざんばら白髪の老女が貴族の子弟やご令嬢を占っている。目には大きな目隠し。だが中央に特大の目の刺繍がなされている。
ブツブツと見える見えるといっている。
私は占いは信じない。人間は自分の力で道を切り開くべきだと旦那様もおっしゃった。その通りだと思う。
しかしライラはとても興味があるようだ。
我々が来ると、並みいる客たちは王子殿下とライラの威信に驚いて順番を譲った。
それにリック王子殿下もライラも当然のように歩みを進めたが、ジン様は一人眉をひそめた。
「横はいりか。感心せんな」
「固いこというなジン。私は城に帰ったら政務があるんだ」
「だったら占いなどせずに城に帰るべきだと思うが」
「まぁまぁ。せっかく譲ってくれたものたちの気持ちを無碍にするなよ」
「ふっ。仕方あるまい。私もどんなものか興味はあるな」
ジン様も折れてようやく占い師アビダフの元へ。
ライラは偉そうに腕組みをしてアビダフへと話しかけた。
「あなた有名な占い師らしいじゃない。当たるの?」
「当たる。当たる。全てが見える。お嬢様はなにを占って欲しいのじゃ」
目隠しをしているのに的確にライラの方へと顔を向ける。声がするから当たり前だと思い、ライラは音も立てずに移動すると、顔はそちらを向いたまま。ライラは少しばかり怖じけずいてしまったようだ。
「お嬢様」
「なによ」
「占ってもらわないのですか?」
「なによぉ。ルミナス。だったらあなたが占ってもらえばいいじゃない?」
「い? 私めがでございますか?」
「そーよ。ねぇ、占い師のおばぁちゃん。この人を占って見てよ」
ライラは強引に私をアビダフの前へと突き出し、私の背中に隠れてそこからアビダフを覗き込んだ。
「おうおう、いいとも。何を占うんじゃ」
「もちろん恋愛運よ」
「え? お嬢様!?」
リック王子殿下は何が面白いのか、腹を抱えて笑っていらっしゃる。
アビダフは目隠しに書かれた大きな目を私の額へと向けた。
「おおう。これはなんという火山のような燃える情熱であろう。あなたは燃えるような恋をしておる」
「へー。すごい。──いやいや、ルミナス。なによあなた。恋をしてるの? 生意気よ!?」
最初に芝居を忘れてしまったライラではあったが、すぐに自分を取り戻した。だがこの占い、本当に凄いのかも。
「ほほう。喜びなされ。あなたの意中の人も同じようにあなたを愛しておられますぞ」
「すごーい……。──いやいや、ルミナス、あなた相思相愛なわけ!? どうせそばかすだらけの醜女でしょ? あなたにはお似合いだわ!」
そういって、プイッと顔を背けるものの、口元はモゴモゴと嬉しそうに動いているのを私は見逃していないよ、ライラ。不覚にも笑いそうになってしまった。どう考えても、醜女ってキミのことになってしまう。そこは訂正しないとな。
「いえお嬢さま。私の思い人は、とても可愛らしい人です。私にはもったいない」
ライラの顔が真っ赤に染まる。唇がふるふると震えているのが分かる。
「ふええぇぇぇ。──あ、あ、あ、あっそう。そんな可愛い人がお屋敷にいたかしらね? どこかよその人かしら? ご用聞きにくる町人かしらね。い、い、い、いずれにせよ興味ないわ」
なんて可愛らしい。頑張れ頑張れ。ライラ頑張れ。お芝居を忘れちゃダメだよ。
しかし、すごい。よく当たる。
そうだ! このまま二人の将来を占って貰おう。二人のお芝居は成功して、一緒になれるのか?