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第20話 兄弟のように

私とリックの出会いは6歳の頃だったな。年賀の挨拶に王宮へ出向いたときだった。我々の控え室にリックがやって来てな。最初の印象は増上慢なヤツって感じだったよ。


「ふーん。お前がロバートの息子か。かかってこいよ」

「ふふふ。ならばあなたがかかってこればいいでしょう」


「ふざけやがって! くらえ!」

「はははは。どこを見ているのです。たぁー!」


「ひゃあ! まいった!」

「この程度、朝飯前です」


両腕を組んで我々の試合を見ていた父上は私を褒め称えた。


「うむ。よくぞやった。王子殿下の鼻っ柱を折る。それこそロバックの後継者にふさわしい!」

「畏れ多いお言葉です。父上」



「私が王子殿下から聞いたのとずいぶん違うな……」

「何か言ったかね。ルミナス」


「いえ。なにも。お話をお続け下さい」



それから王家の催事に参加すると必ずリックがいた。最初にあったのとは180度変わってね。私を下に置かぬという歓待に、始めの印象は忘れてやることにした。


「ジン。リボンは好きか? その長い髪に良く似合うと思うが」

「リック。なぜ男の私がリボンなぞつけねばならぬ」


「そうだよな。こんなもの早々に捨ててしまうことにしよう」


なぜかリボンを勧めてきてな。不要と分かると慌ててゴミ箱に入れていた。ひょっとしたら王家では男でもリボンをつける風習があるのかも知れない。それなら悪いことをしたなとその後で思った。


「ジン。花は好きか?」

「まぁ美しいものは好きだな」


「では中庭の庭園に案内しよう」

「ほう。それは興味深い」


リックにはいろんな場所へ連れて行かれたな。私はリックと肩を組み、リックも私の肩を組んだ。音楽会や芝居など隣の席で見たりもしたな。私の席は常にリックの隣にあったのだ。私はこのまま将来もリックのそばにいるのだと思っていた。


そして12歳の時だったな。いつものように剣の稽古を始めようと集まると、なぜかリックは一言も発せずに暗い顔をしていてな。


「どうしたリック。なにか悩み事か?」

「あ? あー。うんうん」


本当に様子がおかしいのだ。上の空というか考え事というか。


「言ってみろ。私のリックの間は君臣の垣根などないはずだ。力になれると思うぞ」

「うん……」


しばらく二人で黙っていたがようやくリックは思い口を開けた。


「陛下が、そろそろお前も未来の妃を得るべきだといってきたのだ……」


なぜだろう。我々二人の空気が凍る。どうしてなんだろう。めでたい話じゃないか。来るべき話じゃないか。リックは未来の至宝だ。一生独り身のはずなどない。私は笑顔を作った。彼の兄が変な顔をしているわけにもいかんだろう?


「それはおめでとうリック。未来の国王たるもの美しい姫を得ぬとな。そうか。おめでとう。やったじゃないか。そうかそうか。もし結婚したらいの一番におめでとうございますといわせてくれ。やったな。へー。そうか。キミの子どもは同じように黒髪なのかな? 産声は大きいだろうな。私に抱かれると新生殿下はお泣きになるのだ。一生懸命あやしてるのに。ほら。私は不器用だからな。よちよち。よちよち」

「……泣いてるのはお前だ。ジン」


「だって泣き止まないから。新生殿下が泣き止まな……」


どうしていいか分からない。初めての感情だったな。いつもそばにいるのは私なのに、そこにもう一人入って来てしまう。それも一生な。自分の中にリックを独占したいなどというくだらぬ感情があったのだと思ったのはその時だ。

彼はそんな私を抱き締めたんだ。

強い力。厚い胸板。いつの間にこんなに筋肉がついたのだ。ああ、私が知らない間にリックは大きくなっていくのだ。そりゃお妃さまだってもらうよなと思っていた。


「ありがとうリック。もういいよ。なぜか少し混乱してしまってな。許せ」

「いや……」


「どうした?」

「もう少しだけこのままで」


「そうか。うん。こうして抱き合うのもなかなかよいものだな」


私も彼を抱き返した。人の体とは温かいものだ。不思議と落ち着くんだ。しかしまぁそんな人に甘えるなんてのはそれきりだ。自身の力で結局は立たねばならんのだから。


リックは優しい。私にいろいろな心尽くしをしてくれた。中には私をイライラさせるものも多いが、その気持ちは嬉しかった。

だがある時、少しばかり失望したときもあったな。なぜか私の体に劣情を催したことがあったのだ。一度きりだったがな。私が普通の女なら受け入れてしまうところであったわ。

おいおい。私には分からんが、男子にはよくあることなんだろう? まぁこの歳まで側室も取らず生きてきたのだから、つい、というやつだろうから許してやってくれ。



んん~。これって、この感情って、ジン様ってば、なんだろう。つまり、王子殿下のことを……好き?

あれ? どういうことだろう。

まぁとりあえずライラに話してみよう。


「なるほど、王子殿下のよいところがわかりました」

「左様か。分かってくれればありがたい。おお。もうすぐ地理の授業だな。二人ともちゃんと戻って来てくれるといいが」


ジン様がそう言うと、地理の女教室が上品ぶって入室してきた。遅れてライラと王子殿下。ライラの顔に笑顔が戻っている。王子殿下となんのお話をしてきたんだろう。

ああ。嫉妬。

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