第19話 ジンとふたりきり
「どうしたルミナス。さっきから様子が変だぞ?」
その声に驚いてそちらを見ればジン様。心配そうな顔。そうかライラもリック王子殿下もいなくなっちゃったからヒマなんだね。
「いえ。なんでもないのですよ。ジン様」
「そうか。顔が不安そうだったぞ? 眉を吊り上げたり苦笑したりと忙しそうだった。なにかあるのかね? 相談に乗るぞ?」
「い、いえ、大丈夫で……」
「そうかね。ライラと一緒だと気苦労が多いだろう。前はあんなにキツくは無かったのだが、ここ数年で人が変わった。私にもわけを言ってくれないんだ」
「そ、そうなんですか」
「はぁ、そんなライラもリックと結婚かぁ」
そんなジン様の顔は嬉しそうでもあるが、寂しそうでもあった。
ジン様は王子殿下と一緒に過ごす時間が長いんだ。正直、王子殿下のことをどう思っているのだろう?
「ジン様」
「なにかね?」
「気にはなりませんか?」
「なにをだ?」
「リック王子とお嬢様が二人で出て行ったことを」
「ふむ。リックの護衛がついているとはいえ、二人は未来の至宝。何かが起きたら大変だという気持ちはないではないが大丈夫だろう」
いや、そうじゃないです。一気に脈無しですよ王子殿下。んーでも、占いのアビダフは心の奥底に王子殿下へと気持ちをしまい込んでるって言ってたぞ。たしか。
この前の王子殿下の話だと、ベッドルームで殿下が上半身裸でのしかかれたとき、別に通じてもいいって言われたって言ってたぞ。もう会わないってのが条件だったけど。
うーん。キツいな。愛してる男にとっては。ジン様は王子殿下へどんな思いを抱いているんだろう。やっぱり隠してるのかな。ちょっと突いてみるか。
「お嬢様があんな風で、王子殿下もけっこうはしゃぎ屋ですよね。似たもの同士ですが政治はどうなるのでしょうか?」
と聞くとジン様は驚いた顔をした。
「い、いやぁまぁそうだが、リックはあれで政治に通じているんだ。軍事も的確だし国を任せるのにはかなり適してると思うぞ? たしかに子どものようにはしゃぎはするが、陛下に代わって外交使節の応対も出来るし、他国言語も達者なんだ。それに家臣たちの声にも耳を傾けるしな。私のようなものが呼び捨てにしてるのにも咎めないし、民衆のことも大好きなんだ。それにな」
おー。でるわでるわ。別にそんなに出さなくてもよくない? 友人を庇うって気持ちなのかな。
「そうですか。よく王子殿下を観察してらっしゃる」
「そ……。それは私はリックと一緒にいる時間が長いんだ。ほぼ朝から晩まで一緒にいるからな。例えて言えば兄と弟のような関係なんだ。無論私の方が兄だがな。出来の悪い弟を持つと苦労するよ」
「兄と弟ですか。いい関係ですね。しかし弟ということは頼りないと言うことでしょうか?」
「いやいや。あれでなかなか頼りになるんだ。剣さばきの腕前は上がったし、私なんかよりも筋肉の量が増えたしな。背も随分高くなったよ。少し前まで私の方が高かったのにな。力も随分あるんだぞ。組み伏せられたらもう逃れられないからな」
ははーん。王子殿下の寝室でのことだな。
「組み伏せられたことがあるのですか?」
というと、彼女の顔にほんのり紅がさす。
「いや、一度だけ不覚をとっただけだ」
「なるほど。王子殿下は武芸もお達者と言うことですね」
「そういうことだな」
「しかし興味深いお話ですね。お嬢様がどんな方に嫁ぐのか正直不安なのです。できればジン様から王子殿下のお話を賜りたいものです」
「ああ、そうか。まぁ他の連中に聞くよりはマシな話は出来るかも知れん」
「よろしくお願い致します」
王子殿下の話。ジン様は普段は無口ではあるものの、急に楽しそうな顔となった。




