第18話 リックの助け
朝が来て目を覚ますと、ライラのベッドに身を倒して寝てしまっていた。ライラはまだ眠っており、寝顔に顔を赤くした。
私の背中には暖かい毛布が掛けられていた。どなたかがかけて下さったのだろう。そのままにして下さるなんて、そのお気持ちがとても嬉しかった。
「う、うん……」
一声あげてライラも目を覚ます。私はライラの手を強く握った。
「おはようお嬢様」
「ごきげんようルミナス。ここは? 天国?」
「いや、地獄だよ。ライラはもう少しだけ苦しまなくてはならない」
「そうなんだ。でもあなたもいてくれるのよね?」
「もちろん。いやでもついていくからね」
「ならなにも怖くないわ」
いつものライラに戻った。戻ってきてくれた。薬でグッスリ眠れたのがよかったのかも知れない。でもとても嬉しかった。
ライラは寝巻きのままでお屋敷の中を歩き出す。私の手を引いて正面を向いたままで。
その姿を見た使用人たちは、歓声を上げた。
「お嬢様バンザイ! お嬢様バンザイ!」
ライラはそれに対して優しい顔で手を振る。全てを吹っ切った。悪役に徹するのもあとわずかだ。
王子殿下が婚約破棄を発表してくれるまで。
二日後にはライラは学校に復帰した。相変わらず悪役のお芝居を続けたまま。
「ルミナス! 返事が聞こえないわよ!」
「すいません、お嬢様」
いくら病から治ったとて、私へ怒声を飛ばすのは精神的にキツいのだろう。調子を悪くして、机に突っ伏してしまった。
見かねてリック王子殿下は、ライラの手を引いた。
「ライラ。気分転換に散歩でもしよう」
「ええ。ありがとうリック」
それに着いていこうとすると、王子殿下は私の胸を押して止めた。
「キミはついてこなくていい。ルミナス。少し遠慮してくれないか? たまに婚約者と二人で話したっていいだろ?」
「え? え……? ええ」
なんだろう。この言い知れぬ不安。王子殿下に何の下心が? と悪く勘ぐってしまうと、王子殿下は顔を近づけて小声で話してきた。
「バカ。そんな顔するなよ。キツいお嬢様と離れられてラッキーって顔しとけ。ライラはキミといると叱りつける演技をしなくちゃならないんだろ? 彼女はそれがつらいんだから、しばらく学校では私が面倒見てやる」
「え?」
「これから私を見たら感謝しろよ? さぁライラ。将来の話でもしよう」
「ええ。ありがとうリック」
な、なるほど。気遣ってくれてるのか。でもなんか嫌だなぁ~。いつも彼女のそばにいるのに。変な感じだ。ライラのいない教室に一人でいるというのは。しかも王子殿下は名目上は婚約者だしなぁ。王子殿下が変な気をおこさなきゃいいけど。ライラはあんなに可愛いしなぁ。
薄暗いところに連れて行かれて……。
「ライラ。邪魔者はいなくなったな」
「な、なにをするのリック!」
「キミは私と結婚するんだ。さぁ契りを結ぼう」
「やめて、助けて、ルミナス~」
「叫んだって誰も来やしないさ」
「あーれー」
い、いや、王子殿下はそんなこと絶対にしない。国王陛下への計略だって、参加してくれたじゃないか。
でも、分からない。ひょっとしたら今日のために綿密な計画を練っていたのかも?
薄暗いところで壁ドンしてライラはもう逃げられない。
「アイラブユー。ライラ」
「オー、ドントキスミー!」
なんで他国言語!?
そして学力ないから全てカタカナ。それ以上は繫げられない自分の頭のなさがエグい。
くそー。さては王子殿下め。友人を装ってライラを手籠めにするつもりだな?
「ふっふっふ。ライラ。キミの純潔たしかに頂いたよ」
「ヒドいわリック! こんなことするなんて! どうして? 私とルミナスのことを知って協力してくれると言ったクセに!」
「ああ言った。だが王宮の禁書の中に房中薬の本があってね。純潔を頂けば寿命が75日延びるのさ。あとの残りカスはルミナスにくれてやるよ」
「なんてこと……! なんてことなの? 信じてたのに」
「ふふふ。残念だったね王子殿下」
「貴様はルミナス!」
「すでにライラの純潔は私が頂いている。即ち寿命が延びるのはこのルミナスだァーーーッ!」
「……くっ!」
マテ。なんで自分の妄想に自分が登場するんだよ~。そしてなんで私、悪役? 妄想のジャンルが変態だよ。それに純潔は頂きましたって。私のイメージが悪くなるじゃないか。自分の妄想に言い訳するわけじゃないけど、男女同じ部屋にいればそりゃそんな雰囲気とかあるじゃない。……ねぇ。