第14話 親友か恋か
王子殿下はその話を聞き終え、細くため息をつきました。緊張が緩んだのか、握られていた拳をゆっくりと開いたのです。
「はぁ~。最後が壮絶だな」
「そうですね」
私は逆に王子殿下とジン様の話を聞きたくなり、王子殿下に話すようにゼスチャーをした。
「それで……」
「うん?」
「殿下は?」
「おお、なんだ私待ちか!」
「殿下の思い人のことをお聞かせ下さい」
王子殿下は、らしくなく照れ笑いをして頬を染めた。
「ううん。私とジンがあったのは二人が6歳の時だ。ロバック将軍と年賀の挨拶をしにきたときであった」
彼女は今と同じように、小さくてもロングヘアでな。正直男の癖に軟弱なやつ。どうせ弱いんだろと思ってた。当時の私は、剣術指南のバステから接待指南を受けていて、世界で一番強いと思っていた。だから、勇名を馳せるロバック将軍の息子など簡単に倒せると思ってたんだ。
「おう。お前はロバックの息子か。名をなんという」
「こんにちは。王子殿下。私はロバート・ロバックの息子でジン・ロバックです」
「ふうん。なかなか強そうだな。私を地面に倒せるか?」
その時、ジンのヤツは一度父親のロバックの顔を見たかと思うと、私に微笑んでこう言ったのだ。
「はい」
なんとも自信ありげだろ? 今と同じだ。アイツは昔から自信家なんだよ。そして、ホントに実力もあるからムカつく。
でもその時の私は、この増上慢なやつの鼻っ柱を折ってやろうと思ったんだ。ジンに向かって身構えると、ジンのヤツめ、構えもせずに微笑んでるだけ。ロバック将軍が慌てやがってさ。
「殿下、お戯れを……」
って、それじゃ私がふざけてるように思ってるのかって感じだろ? ますますこの生意気な野郎を床に押し倒してやろうと、投げ技をかけようとしたんだ。すると、構えもなにもしないヤツの腕が私の二の腕に入り込んで、ぎょっとしてる間に懐へと入り込み、そのまま床に投げられた。私はただ呆然としていた。
だがジンはロバックの大きな手で押さえ付けられていたんだ。
「父上! だって仕掛けてきたのは殿下の方です!」
「馬鹿もの! だからといって殿下を、投げるヤツがあるか!」
正直、痛いとか悔しいとかそんな気持ちはなかった。ただ、ジンのロングヘアから香った甘い甘い匂いに酔いしれていたのだ。
わずか6歳ながら混乱した。世の中の男はあんなに甘い香りを持っているものかと。しかし侍女が言うにはあれは女だと。
信じられなかった。それほどジンは男勝りなんだよな。でもその時からだ。こんなに気になるのはジンに恋をしてしまったのだと。
私は父に頼んで、イベントがある度にロバック将軍を呼んでくれと頼んだ。そうするとジンも一緒に来ることが多かったからだ。
彼女の剣術の腕前はますます伸び、11歳では大人顔負けの使い手となった。私は父に頼み込んだのだ。
「父上。もうバステ師範から教えて貰うことなどなくなりました。バステは弟のテリーに付けてやって下さい。代わりにロバック将軍の子どものジンに稽古を付けて貰いたいのですが」
「おお。ジンの名前は私の元にも届いておる。早速ロバックに参内させ、ジンに稽古をつけさすように命じよう」
「ありがたき幸せ」
それからだ。ジンが私の剣術指南となったのは。知ってるか? ジンとは長い時間ずっと一緒にいるんだぞ? 父母や兄弟なんかよりも同じ時間を過ごしたんだ。
朝稽古、学校、夜の稽古。とにかくべったりだ。
だがジンは私のことを殿下、もしくは友人としか思ってなかった。当然と言えば当然だが。




