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第12話 初めての出会い

私の家はウンガル地方の片田舎、メゾにありました。小さな家に、両親と祖母、兄が二人、姉が一人、弟が一人、妹が一人。九人がぎゅうぎゅう詰めになって暮らしていたのです。

当然貧しい。一日に蒸かした小さなジャガイモが一つなんてこともよくありました。


そんな家族を養うために両親は朝早くから畑仕事に精を出し、兄弟たちもそれを手伝っていたのです。祖母は小さな弟と妹を子守しながら家事をしていました。


私も兄の後を追いかけて手伝いをしてました。みんなからよく筋がよいと誉められたのを憶えています。

貧しいながらも気楽な生活。仲の良い家族。狭いながらも楽しい我が家。


ですが夜に目を覚ましました。両親が誰もいないはずの隣の真っ暗なリビング中で小声で話しているのが聞こえたのです。貧しくて子ども達が不憫でならない。誰か一人でも奉公に出せば食い扶持も減り、謝礼が貰えて生活が楽になるとの父の声。母はどの子も自分の子供で誰を出すなんて選べないと泣いている。そんな声──。


「気付いたのかルミナス──」


そう声をかけてきたのは一つ上の兄でした。

兄はぼろぼろの毛布から身を起こしてこちらを向いていたのです。


「なにも心配いらないよ。ルミナス。この家にはカル兄さんもいる。お前もいる。父さんと母さんの手伝いをしっかりしてくれよ。ロッテやファーの面倒は見てやってくれ。アイツら小さいからな」

「ウィル兄ちゃん」


「お前はなにも心配いらないんだ。なぁに。オレは次男だしいつかは家を出なくちゃならないんだ。牛や馬の世話だって上手い。牧場にでも奉公にいくさ」


ウィル兄ちゃんはそう言ってぼろ毛布に潜り込みました。そして眠ってしまったんです。私は下唇を噛んで涙をこらえておりました。

兄ちゃんは家のことを考えて自分だけ犠牲になろうとしている。

それがヒドくかっこ良く、男というものを感じたのです。そう、まさにジン様のような。


次の日、ウィル兄ちゃんは両親に牧場に奉公に行きたいと告げたのです。両親は泣きましたが、ありがたがってそれに甘えることになりました。

すぐさま村長に言いますと、請け人に連絡して引き受けに来るのに一週間かかると言うことだったので、その間、兄と別れを惜しんだのです。


私は請け人と兄が牧場まで行く前日、見送れる高い木を探しました。子どもだったんですよね。一番高い木からどこまでも見送れる木を探したんです。

そこに上って遠くを見ると、ああこれはいい。王様のお城まで見れるかも知れないと思いました。

ですが、ふと目を下ろすと豪華な馬車が轍にはまって抜け出せないではありませんか。

最初はただ眺めていましたが、あんな人の寄らない場所では助けも呼べないだろうと思い、手助けしようとそこに向かったのです。


それは一頭だての馬車で狭い道でも入れるように選ばれたモノだったのでしょう。人数の割には少ない馬数でした。

御者と騎馬でついてきた護衛が力任せに大きな車輪を押していましたがぬかるみにハマって抜けられません。私が近づくと、外に立っている旦那さまとライラと目が合いました。

私はライラから目が離せませんでした。近所にも女の子はいましたが、これほど美しいものは見たことがなかったのです。

ポーとして立ち止まっていると旦那さまに声をかけられました。


「これ。そこな童。そなたはこの辺のモノか? 馬車の車輪が刺さって難儀をしておる。誰か大人のものを呼んでまいれ。小遣いははずむぞ」


それがこの領地のご領主、ランドン様との出会いでした。しかし私は人を呼ぶ必要はないと言いました。


「なぜか?」

「馬の足の力のいれどころが悪いのでございます。私が轡をとります」


そういって、轡をとって左側に馬の首を向けると、簡単に馬車は動きました。家臣たちの歓声を聞いて、私もホッとしたのを憶えています。ライラはとっても嬉しそうにウヒウヒと笑っていました。


「すごいわぁ。お父様。まるでこの方、神話に出てくる若い英雄のようですわ」


おそらく、その時からライラの気持ちは始まったのかも知れません。お屋敷には私よりも優れた人たちがたくさんおります。しかし、困ったときに突然やってきたスーパーマン。そう思ったのかも知れませんね。


旦那さまは、私の両親に面会して、私を奉公に出しなさいと仰られました。どこかの農場の奉公ではありません。華々しい都のお屋敷の下男。両親は私は食いっぱぐれはないだろうと、旦那さまによろしくお願いしますと言いました。

そしてたくさんの金貨。ウィル兄ちゃんも奉公にでなくて済みます。それを元手に土地を買って、牛もたくさん買ったと聞きました。

旦那さまのお陰で私の家は助かったのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ランドンも見る目はあったけど、芸は身を助けるでしょう。
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