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九十九を救うための実験


 二人の様子を見て、十六夜は状況が理解できなかった。なぜこんなところに父親がいるのかは置いておいても、後は九十九の蘇生が済めば全てが終わるはずなのに。どうして彼女たちはこれほどまでに落ち込んでいるのだろうか。


 その理由は、筑波神父が蘇生魔法を使用した時に理解できた。


「リバイブ」


 筑波神父の手から、白銀の光が九十九の体に降り注ぐ。九十九の体に光の粒子が触れた瞬間に、彼の全身から黒い霧が発生する。それは、筑波神父の手から降り注がれる白銀の光を全て漆黒に染め上げ、九十九の体内へと戻って行った。


「こ、これは何だ! 僕の魔法が、食われた?」

「やっぱりこうなったっすね」


 そう言いながら、思川は九十九の右手をそっと掴み上げる。


「パワーブースト」


 思川がそう告げると、九十九の右腕がそっと光を放つ。その光を、九十九の全身から噴き出した黒い霧が、一瞬で食らい尽くした。


「さっき十六夜さんが回復魔法を使った時までは、間違いなく呪いの核は右手にあったっす。でも、今は呪いが全身に巡ってる。炎神に右腕をふっ飛ばされたせいか、狂戦士になって無理矢理スキルを使ったせいか。仮説はいくらでも考えられるっすけど、結論から言えば、現状ではどんな魔法もすぐ呪いに食われてしまうっす」

「一部の闇ギルドで使用されると聞いた事はありましたが、魔法の効果が無いのでは、彼はもう……」


 筑波神父は、悲痛な視線を十六夜に向ける。友人が目の前で死んだという事実を、十六夜が直面できるのか心配したのだが、彼女は恐ろしいほど冷静に、九十九の遺体を眺めていた。


「思川さん。どうすれば、九十九さんは生き返るんですか?」


 この場に居る全ての人間が、九十九の死に絶望していた。その中で、十六夜だけがあきらめていなかった。この状況においてなお、九十九であれば必ずどうにかすると思っていた。どんな時でも逃げ切って来たんだ。呪い如きで、素直に死んでしまうわけが無い。


「そうっすね。とっとと実験を始めましょう」


 そう言って、思川はにやりと笑った。彼女は放心した状態の少女二人の肩に手を置くと、軽く後ろに引き倒した。


「え?」

「きゃ!」


 二人の少女は、そのまま夜空を見上げるように仰向けで倒されてしまう。何がどうなったのかわからないまま、二人はそのまま動けないでいたが、そんな彼女たちの顔を、思川が覗き込んだ。


「笠間さんはまだあきらめて無いっすけど、先輩二人はもうあきらめたんすか? どうするんすか? 笠間さんに和泉君取られちゃうっすよ?」

「九十九クンは……生き返るんです?」

「わかんねえっす」

「……つっくんが助かる可能性は、どれくらいなの?」

「あたし、確率って嫌いなんすよ。失敗するかもしれないと思ってびくびくすると、それだけで失敗するっす。最初っから失敗の心配はしない。それが一番の成功の秘訣っす。だから、二人も笠間さんのように、成功だけを信じてれば良いんすよ」


 思川の自信に満ちた表情を見て、少女二人は立ち上がる。


 そして少女たちは、先に待つ十六夜の横に並び立った。


「それで、これからどうするんですか?」

「この前の実験で、和泉君と浅間さんが抱き合った時の事、覚えてるっすか?」


 それを聞いて、せっかく立ち上がった百花は、両手で顔と覆って蹲ってしまう。


「い、いい、今はそんな話する必要……」

「あるっすよ? 今から三人で、同じ事やってもらうっす」

「さ、三人で、あんな事するんです!」


 恥ずかしがって蹲っている百花を尻目に、十六夜と澪は、得物を見るような視線を九十九に向けた。


「澪さん、ここはアタシに任せてください。大丈夫ですよ、ちゃんとやりますから」

「今度は絶対私の番だよ。さっきは私に嫌な役目を押し付けたんだから、それくらいの権利はあると思う」

「う……そう言われると、言い返せないです。それじゃあ、今回は澪さんに……」

「いやいや、さっき言ったじゃないっすか。三人で同じことをするって」


 思川の言葉に、疑問の表情を浮かべる澪と十六夜。それに対して、耳まで赤くした百花は、涙目で思川を見上げた。その表情は、拒否を現したものでは無く、ただただ羞恥に悶えたものであった。


「そんなに嫌なんすか?」

「い、嫌と言うか……あの時の気持ちになった後、九十九クンの顔がまともに見れないんです。は、恥ずかし過ぎて」

「なら大丈夫っすよ。成功しても、しばらく和泉君は検査入院っすから、顔を合わせる心配は無いっす」


 そう言った思川は、九十九の頭部まで軽く移動すると、三人を手招きした。三人は招かれるままに思川の横に移動して、九十九の体を見下ろした。


「さってと、それじゃあ、右半身、左半身、上、好きに選んで抱き着いて欲しいっす」

「ちょちょちょ~い! 抱き着くって何ですか? 十六夜が、男に抱き着くって言うんですか? そんなの、認められるわけ…ぐっは」


 思川に詰め寄る筑波神父を、十六夜のボディーブローが沈黙させた。鳩尾に深く突き刺さった十六夜の拳は、筑波神父の意識を容易く刈り取ってしまった。


「笠間さん。彼は、私がお預かりしますよ」

「いいえ、こんな人、そこら辺に捨てといてください」


 九十九に向けた視線とは対照的な、嫌悪感に満ちた視線で筑波神父を睨み付けた十六夜は、崩れ落ちた筑波神父の体を地面に放り出した。


 その様子を苦笑交じりに眺めた所長は、それでも筑波神父の体を担ぎ上げて、少女たちの元から離れて行った。


「それじゃあ、私がつっくんの上で決まりだね」


 全員の隙をついて、澪が九十九の体に馬乗りになった。


「ぶ~、それじゃあアタシは、こっち側で我慢します!」


 頬を膨らませながら、十六夜は九十九の右側に横たわると、右腕にぎゅっとしがみついた。それを見た思川は、にんやりと微笑んで百花の肩を叩いた。百花は渋々といった様子で、九十九の左側に横たわり、十六夜と同じように九十九の左腕にしがみついた。


「良いっすか、今和泉君の全身には呪いが循環してるっす。それを、三人の愛で体内から追い出すっす」

「「「愛!」」」


 珍しく三人が揃って驚愕の声を上げる。仮にも研究所の職員が、科学から一番遠い事を言い始めたのだから仕方が無いのかもしれない。


「あの時の実験で、和泉君と浅間さんの二人の間に、球体が現れたのを覚えてるっすか? あれは、浅間さんの愛が和泉君の呪いを包み込んで、外に排出した物だと考えているっす。その証拠に、呪いの総量がほんの少し減ってたっす。あの時、浅間さんは何を考えてたっすか?」

「あ、あの時は、九十九クンを助けたいと思って……」

「みんな、聞いたっすね? 和泉君を助けたいと思えば呪いは外に出るっす。そうすれば、きっと和泉君に蘇生魔法が効くようになるっす」


 一見簡単な事に聞こえたが、それはつまり、強い気持ちが無ければ九十九を助ける事は出来ないという事だ。


 ステータスやスキルはウィンドウに表示されるが、気持ちだけはその強さがわからない。果たして自分の気持ちは、九十九を救うだけの強さを持っているのか。そんな不安が、少女たちに過った。


「まあ、これではっきりわかるっすね。誰が一番、和泉君の事を大事に思っているかが」


 少女たちの不安は、その言葉で一瞬で消え去って行った。そして新たに、対抗心が芽生え始めていた。


 自分が一番九十九の事を思っている。その証明が出来る場所なのだと、少女たちは九十九にしがみつく力を、そっと強くした。


「たぶん、呪いが結晶になって出てくるはずなんで、一番大きな結晶を作った人が、和泉君の事を一番思ってるって事っすね」


 その一言で、九十九を救う実験が、少女たちの争いへと姿を変えてしまったのである。







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