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和泉九十九を殺せ


 九十九を殺す。そう言われても、三人の少女は反応する事が出来なかった。少なくとも研究所で共同生活を始めた理由は、彼を護る事だ。決して殺させないつもりで、彼女たちは九十九と一緒に居た。


 今、その元凶は消滅した。もう彼の命を狙う者はいないはずだ。彼が殺されるという不安は、取り除かれたはずだった。


 全部終わったはずだった。それなのに、最後の最後で彼を殺せ?


 そんな事、到底許容できる話では無かった。


「選択肢はあるっすよ。自己修復が不可能なくらいに高威力の攻撃を続けて、死体も残らない様に消滅させるか。純粋に体力を0にして死亡状態にさせるか。まあそれ以前に、我々で対処するか、もっとベテランのパーティーに対処してもらうかっていう選択肢があるっすね」

「結局、九十九クンを殺すしかないってことですか? た、助ける事は?」

「体力を0にできれば、和泉君から経験値を奪えるっす。狂戦士の職業を消失するまで死亡と蘇生を繰り返せば、助ける事が出来るっす。ただ、いくつか問題があるんよ」

「ぐわああぁぁぁぁ!」


 その問題を聞く前に、九十九の咆哮が響き渡る。その叫び声と共に、九十九が百花に向かって拳を振るう。その拳を前に、百花は動く事が出来なかった。


 反応出来なかった訳では無い。拳を振るう九十九の顔が、あまりにも苦しそうだったから、それを見た瞬間に体が硬直してしまった。


九十九の拳は、そのまま百花の腹を撃ち抜いた。スキルを使用したわけでは無い純粋な打撃であったが、百花の体は上空へと打ち上げられてしまう。


「ほ、ホーリーシールド」


 直後に十六夜に向けて拳が打ち下ろされる。それを寸前のところでシールドを張って防御する。九十九はそれを狂ったように殴りつける。突如発動させたシールドでは、その拳をいつまでも防ぎきる事が出来ず、すぐに全体に亀裂が走る。


「九十九さん、もう止めて! 正気に戻って!」

「ぐううぅ」


 十六夜の声を聞いて、九十九の拳が一瞬止まる。しかしそれは、本当に一瞬の事で、すぐに攻撃が再開される。十六夜のシールドはその直後に打ち砕かれ、九十九の拳は十六夜に向けて打ち下ろされる。


「九十九さん!」


 悲鳴にも似た声で、十六夜は九十九の名を呼んだ。しかし、それは九十九の動きを止めるには至らない。九十九の拳は振り抜かれ、十六夜の眼前に打ち下ろされる。


「はず……れた?」


 偶然外れる事は無い距離で、九十九の拳は十六夜には当たらなかった。その後も数度拳が振るわれるが、その全てがギリギリの距離で外れていく。


 そこで十六夜は気が付いた。この拳は、外されているんだ。自分の呼びかけは、無駄ではなかったのだと。


「九十九さん、アタシが…アタシがわかりますか?」


 その質問に、九十九は拳を震わせながら動きを止めた。強く握られた拳からは血が滲み出し、噛みしめられ歯ぐきからも、血が溢れ出している。そしてその瞳からは、涙が溢れ出していた。


「いざや……ころして………いまのうちに…おれがだれもころさないうちに……おれを……ころしてくれ」


 それは数日前にも聞いたセリフだった。あの時即座に拒否したそのセリフを、今は即断する事が出来なかった。


 彼を殺せば、彼を助ける事が出来る。蘇生させれば、無事に助ける事が出来るのに……


 涙を流して苦しんでいる彼を、これ以上このままにしておきたくないのに……


「ずるい……そんなのずるい! 自分が人を殺したくないから、アタシに九十九さんを殺せって言うんですか。九十九さんがアタシたちを殺したくないって思ってるのと同じだけ……ううん。それ以上に、アタシたちはあなたを殺したくないんですよ!」

「ごめん……これいじょう…じぶんをおさえられない……すきるをつかいはじめれば…みんながあとかたもなくなるかも…しれない………そのまえにおれを…ころして……」


 それだけ告げると、九十九は後方に大きく飛び退いた。おそらく、彼が自分の意思で自由に動く事が出来たのは、これが最後だったのだろう。


「ごろぜえええええ! おれを、ごろじでぐれええええ!」


 九十九は涙を流しながら絶叫すると、今までが嘘のように不気味な笑みを浮かべる。全身から噴き出す殺意は、ここにいる全員を殺しても治まらないほどに禍々しく感じられた。


「十六夜、百花、いける?」


 澪は九十九の様子に視線を向けながら、十六夜の元まで駆けてくる。両手には、水の神剣と、先ほどまで炎神が握っていた刀が握られていた。


「げほ…げほ…九十九クン、十六夜ちゃんは殴らなかったのに、ボクだけ殴ったです。一発ぶっ殺して、目を覚まさせてやるです」


 いつの間にか十六夜の背後に立っていた百花は、腹を押さえながらそう言った。九十九に殴られはしたが、深刻なダメージにはならなかったようで、すぐに戦闘態勢に移行する。


「百花、これ使ってみる? 百花なら、使いこなせると思うよ」


 そう言って澪が差し出したのは、水の神剣だった。百花はそれを握ると、軽く一振りする。


「これ、ちょっと大きすぎです。せめて小太刀くらいの大きさじゃないと……」


 百花がそう言った瞬間に、水の神剣は輝きだした。輝きの中で、刀身は徐々に変化していき、百花が理想とした小太刀程の大きさへと姿を変えた。


「す、すごいです。神剣って、とっても便利アイテムです!」

「そんな機能聞いた事ないっす。後でゆっくり調べさせて欲しいっす!」

「それは、無事に九十九クンをぶっ殺せたらです。でも、炎神を瞬殺するような相手です。本当にボクたちだけでどうにか出来るです?」


 当然の疑問だった。四人がかりでも腕一つ落とすのが精一杯だった相手を、九十九は苦も無く消滅させた。さらに、どれだけ傷を与えても自動で回復してしまう。即死級のダメージを与えられなければ、確実に殺す事は出来ないだろう。


「狂戦士は、霊力がある限り自動修復が発動します。確実に殺す方法は二つ。霊力を生成する器官である心臓を潰すか、頭を潰すかです」


 よろよろとした足取りで、所長がみんなの元にやって来る。手には、最初に手にしていたライフルが握られている。


「最も簡単で、確実なのは頭を潰す方法です。私なら、撃ち込んだ弾丸を爆発させる事が出来るので、今すぐにでも実行可能です」

「じゃ、じゃあ、お願いしま……」

「ですが、頭部を爆発させた場合、蘇生は不可能です」


 回復魔法は、欠損部位まで再生させる事が出来る。しかし、死亡状態で回復魔法を行使する事は出来ない。蘇生魔法を行使しても、頭部が跡形も無い状態ではすぐに死亡してしまう。


 唯一の例外は、心臓の欠損だけだ。蘇生魔法とは、止まってしまった心臓を再び動き出させる事が目的となっている。そのため、心臓だけはどのような状態になっていても、最初に修復されるようになっている。


「じゃあ、実際には心臓を潰す以外の選択肢は無いって事です?」

「ですが、そう簡単にはいかないでしょう。狂戦士は人間の限界を超えた速度と威力で、際限なく攻撃を行います。その状態で心臓潰すのは非常に困難です。それに、レベル低下による上級職業の消失が目的であれば、私は手出しが出来ません」


 人同士の戦闘の場合、経験値は敗北か死亡で低下する。しかし、レベル差がありすぎる場合には、下位の者を倒してもほとんど経験値の移動が行われない様になっている。


「私は上級職でレベルが50を超えています。皆さんと共に戦闘を行ってしまうと、私と和泉さんのレベル差が反映されてほとんど経験値が減少しないでしょう。それこそ、何十回も蘇生を繰り返さなければならなくなります」


 それはつまり、何十回も九十九に死の苦痛を与えなければならないという事だ。たった一度の死を与える事にすら抵抗がある少女たちにとって、それは許容できなかった。


「私たちだけでやる。つっくんを殺すなんて、これが最初で最後なんだから」


 そう言って、澪は新しく生まれた炎の神剣を構えた。






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