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千花さん奪還作戦 ③


 足元に三本の短剣が落ちているので、きっとここに他のみんなが移動してくるんだろう。そう思っていると、そのうちの一本が消え、横たわった少女に姿を変えた。


「千花さん、大丈夫ですか?」


 彼女の体を抱き起こしながら声をかける。千花さんとしゃべるの初めてで、自己紹介すらまだなんだけど、今はそんな状況じゃないよね。


「ありがとうございます。えっと、なんちゃってメインヒロインさん?」


 誰ですか?人の事、なんちゃって、なんて教えた思川さんは!


「えっと、姉様たちからの伝言ですの。炎神にけん制攻撃をしてから離脱するので、二人はその場でシールドを張って待機していて欲しい、とのことです」


 最悪、反撃を受けて車が大破する可能性も考慮しているのだろう。車が落ちてくるかもしれないとなると、短剣がある場所もシールドでカバーしておいたほうが良さそうだ。


「ホーリーシールド」


 広く大きくイメージして、白銀の盾を展開させる。この大きさなら、四人でも余裕で入る事が出来ると思う。こちらの準備は万端だ。


上空を見上げると、車から白い光線のような物が後方に向かって放たれたところだった。放たれた白い光は接近してきた炎の塊に激突すると、掻き消されるように消滅していった。それに対して炎の塊は、車に向かって突撃を敢行する。100メートルは離れていた距離を一瞬で詰めて車に激突すると、大きな爆発を一つ起こして大きな炎の塊に飲み込まれていった。


「百花さん、今までお疲れさまでした。これからは、あなたの分までアタシがメインヒロインとして頑張ります」

「勝手に殺すなです!」


 嫌だな~、ちょっとした冗談ですよ。アタシは百花さんのチョロエロイところ大好きですよ?


「チョロくもエロくもないです。でも、どうにか無事に脱出できて良かったです」

「なっはっは。渾身の魔法も瞬殺されちゃったすよ」


 気が付けば、二人とも無事に脱出できていたようで、先ほどまで短剣のあった位置に立っていた。その代り、車は上空で燃え上がり、小さな爆発を繰り返している。ガソリンや、所長さんの大量の武器が爆発しているのかもしれない。


 確か所長さんから、車は備品だから傷をつけるな、と言われていたけど、跡形も無くなるのは大丈夫なのかな?まあ、思川さんの作戦なんだから、アタシが深く考える事じゃないよね。


「さって。上空で炎神が待機してるっすけど、狙いはやっぱり和泉君っすかね」

「ですけど、どうして真っ直ぐこっちに来たです? 和泉君に報復しようとしていた連中は、こぞって燃えたと思うです」

「それなんすよ。あたしが考えられる可能性は三つっす。一、構成員の誰かが炎神と同化して制御している。二、完全に暴走していてたまたまこちらに来ただけ。三、炎神に自我があって自らの意思で和泉さんを殺しに来た。一番目は可能性が一番低いっす。双剣を器にしたんすからね。できれば、二番目であってくれれば、これ以上和泉さんの命が狙われないから助かるんすけどね」


 そう上手くはいかない。そんな事を考えている表情で、思川さんは上空の炎の塊を見つめていた。上空の炎は、車を飲み込んで不気味に揺らめいていた。


「どうやら、ボクたちは眼中に無いようです。今のうちに九十九クンと合流するです?」


 アタシも早く九十九さんと合流したい。さっき倒れていたのがどうしても気になる。敵の目の前で倒れるなんて、無事な人間のとる行動ではない。特に今は回復魔法が使用できない状態なんだから、大ケガでもしていたら大変だ。


「そうっすね。一緒に居た方が、どんな状況になっても対応できるっす」

「じゃ、千花はボクがおぶっていくです」

「姉様、ありがとうございますの」


 千花さんを背負おうと、百花さんが前にしゃがみ込む。そこに千花さんが体を預けようとするのだが、どうにも体が上手く動かせないようだ。二年以上寝たきりで、筋力なんてほとんど無くなってしまったんだろう。アタシも体を支えながら、どうにか百花さんの背中に千花さんを乗せる。


「姉様、迷惑かけてすいませんですの」

「千花、せっかく意識が戻ったんです。もっとたくさん、迷惑かけて欲しいです」


 うぅ、良い話です。まるでアタシと九十九さんみたいな関係ですね。アタシも、早く九十九さんに甘えたいので、とっとと合流しましょう。


「大丈夫っすよ。もうそこまで来てるっす」


 思川さんがそう言った瞬間、駆け足で横を通り過ぎていく所長さんと澪さんの姿が目に入った。


「大丈夫ですよ。車には思川さんも浅間さんも乗っています。警戒していれば、一撃でやられる事は無いでしょう」


 誰に話しかけているのか、所長さんがそんな事を言っている。そこになぜアタシの名前が入っていないのか。


「そうです。ボクは優秀なのです!」

「なんすか? 今のはあたしの功績じゃないんすか?」


 二人が自分の活躍をアピールしてくるのだが、アタシは脱出時に何もしていないので、アピールできない。


「ぶ~、アタシは九十九さんのピンチを救えたからそれで良いんです!」


仕方が無いので、九十九さんを護れたことをアピールすることにした。そこでアタシは、絶句してしまう。所長さんと澪さんに抱えられた、九十九さんを目にしたからだ。救えた?この状態の彼を見て、アタシは何を言ってるんだ。


「これ、俺が死の間際に聞こえる、幻聴とかじゃないよな」


 そう言った九十九さんの声に、ひどく力が無かった。見た目もかなり重症に見えるけど、本当はそれ以上に危険な状態なんじゃないだろうか。


「んじゃ、浅間さんのおっぱいでも揉んでみるっすか?」

「な、なんでボクなんです!」

「百花さんが、ヒロインじゃなくてエロインだからですよ」

「も~、やっぱりイジメです~!」


 どうして二人は、この状態の九十九さんを目にしても平然としていられるの?思川さんは元々こういう性格だから、どんな状態でも慌てないのかもしれない。でも、百花さんは?千花さんが無事に目を覚ましたから、もう九十九さんはどうでも良いって事?


「十六夜ちゃん、あの出血ならまだ大丈夫です。今は、九十九クンの気力が先に尽きないよう、元気付けるです」


 小声でそう百花さんが忠告してくれるけど、そんなの無理だ。目の前で九十九さんがあれだけの大ケガをして、死にかけているんだ。冷静でいられるわけが無いよ。


「待ってください。ここで、九十九さんの治療をさせてください」


 そう言ってアタシが足を止めても、所長さんと澪さんは止まらない。代わりに、思川さんと百花さんが止まってこちらを向いた。


「絶対にダメっす。呪いのせいで、回復魔法はまともに機能しないっす。それどころか、苦しませて暴れさせて、近場の病院までもたなくなるっす」

「十六夜ちゃん。心配なのはボクも一緒です。今は、少しでも早く病院へ連れていってあげよう?」

「そんなの……そんなの、やってみないとわからないじゃない!」


 きっと、思川さんの言っていることは正しい。データを集めて、丸二日も解析していたんだから。


 でも、アタシは怖かった。何もしないまま、九十九さんが死んじゃうんじゃないかって。


 アタシはあの人と約束したんだ。ケガをしたらすぐに治してあげるって。


 それなのに、今のアタシは、九十九さんに何もしてあげられない。


 またあの時みたいに、邪魔者になってしまうんじゃないか。


 それがとても悔しくて、辛くて、怖かった。


「十六夜ちゃん。この状態で何もできないのは、ボクも澪さんも一緒です。悔しいのも、心配なのも、みんな一緒です。だから、今は一刻も早く山を下りて、病院に連れて行ってあげるです」


 どうしてアタシは、こんなにも弱いんだろう。きっとアタシは、自分の事しか考えていない。


 あの人は、いつだって弱腰で、逃げ回ってばかり。おまけにセクハラを平然とやってのける変態だ。だけど、いつだって自分を犠牲にしてでもアタシたちを護ってくれる。


 あんな強さが、アタシも欲しいんだ。


 だったら今は、あの人が助かる最善を尽くさないといけない。我儘を言っている場合じゃない。


「……すいませんでした」


 そう言った瞬間、アタシたちの周囲は、炎で包まれてしまった。







たくさんのブックマークをつけてくださって方々、ありがとうございます。

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