壬生との決戦 ①
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どうにか転落死を回避することが出来た俺は、翼を生やした澪に手を引かれて上空を移動する。
先ほどから、水柱の発生する回数が減ってきているのは敵の数が減ったからなのか、剣士が疲労しているのか。できれば後者が良いのだが、そんな事は無いのだろう。回数は減っても、威力が衰えてはいないのだ。
「壬生は、私が倒さなきゃいけないの。でも、つっくんを助けるためには、倒しちゃダメなんだよね? 私、つっくんのために我慢するからね」
「う、うん。申し訳ないけど、二人で時間稼ぎをしよう。そんなに長くはかからないはずだから」
「わかった。私、つっくんのために頑張る」
できれば俺のためなんかじゃなくて、澪が生き残るために頑張ってほしいところだ。おそらく、俺たちが殺すつもりで戦ったとしても、対等の勝負にはならないだろうけど。
「俺たちは逃げきれば勝ちだ。バカみたいに正面からぶつかる必要は無い」
「うん。じゃあ、無事逃げきれたらちゅーだね」
出たよ超おバカ理論。そこで、よし分かった。なんて言う奴いたら連れて来いよ。
「ちゅーがダメなら、赤ちゃ……」
「よし、行くぞ!」
この会話に付き合っていてはダメな気がする。それなら、とっとと敵のところへ向かった方が良い。
俺たちは少し距離をとって地面に着地した。思川さんの魔法もずっと続く訳では無いらしく、着地と同時に翼は消えて行った。
炎神の連中も時間稼ぎをしてくれている。彼らが全滅するまでは隠れてやり過ごそう。そう思いながら、水柱が噴き上がっていた場所に到着すると、一人の男が、三人の男に囲まれるように立っていた。囲まれている男だけ風貌が違う。あの男が水の神剣を持つ剣士だろう。
「あれが壬生で間違えないよ」
澪がそう言うのだ。あの男で確定だろう。
壬生は残念ながら、無傷で疲労の様子も窺えない。対する三人の男たちは、全身に切り傷があり、出血量もかなりのものだ。おそらくそう長くはもたないだろう。
「なあなあ、いい加減諦めてくれよ。どんだけねばっても、あんたらじゃ勝てねえぜ」
「ふざけるな! まもなく炎神様が復活される。そうすれば、お前など塵も残さず浄化されるだろう!」
「あのなあ。俺っちが何の神剣を持っていると思ってんだ。水だぞ?昔っから、火は水には敵わねえだろ?」
確かにその通りだ。古くから、水属性は炎属性に対して『こうかはばつぐんだ!』と決まっている。この男なら、きっと炎神を倒してくれることだろう。
「世迷言を! 炎神様に敵わぬ者は無い!」
そう言って、男の一人が斬りかかる。遠目に見てもふらふらした足取り。よれよれの剣筋。これでは、刀を重ねる事も無く斬り殺されてしまうだろう。
「アイシングバレッド」
「なんでい!」
壬生が剣を横に薙ごうとした瞬間、足元が急速に凍結していく。踏み込みが出来なかった壬生は、腕の力だけで相手の剣を払い、その場に跪いた。
それを好機と見た残りの二人は、壬生に一斉に斬りかかる。
「来い! 水壁」
剣が壬生の体に到達する直前、彼の全身を覆うように水の壁が出現する。それに触れてしまった二人の男は、剣と共に弾き飛ばされる。すでに満身創痍だった彼らは、その衝撃で気を失ってしまった。
残るは最初に斬りかかった男だけ。後方から所長さんがナイスアシストをしているようだが、そこまで長くはもたないだろう。
「どこかに魔導士が隠れているみてえだが、勝てやしねえぞ? ここで逃げんなら、命くらいは助けてやるよ」
「この命は炎神様に捧げたのだ。炎神様復活のため、ここで貴様を一秒でも長く足止めしてやる」
「はん。狂信者が」
壬生は神剣を大上段に構え、躊躇う事無くその剣を振り下ろす。自分の剣で防ごうとしたようだが、男の剣はあっさりと砕け散り、斬撃が男の体を引き裂いていった。
それを見て、心臓が大きく跳ね上がる。たくさんの死線を潜り抜けてきたつもりでいた。でも、実際に目の前で人が死ぬのを見る事なんてなかった。それが今、目の前で起こっている。
吐きそう、なんていう気分にはならなかった。ただただ、目の前の死に、恐怖を覚えた。死ぬのは、怖い。それだけが、俺の心を支配していた。
「つっくん! 大丈夫。私たちは殺し合いをするわけじゃないでしょ」
「み、澪」
俺の恐怖を察したのか、澪は震える俺の手を、力強く握りしめてくれた。手を通じて、澪の温かさがこちらに伝わって来る。凍り付きそうだった心が、彼女に溶かされていくようだ。
「落ち着いた?」
「ああ、もう大丈夫だ」
澪のおかげで、恐怖に支配されずに済んだ。どれだけ敵が強大であろうと、俺たちはそれを打倒するわけじゃない。逃げ回って、時間を稼ぐだけだ。
水の神剣の力をホイホイ使われては、すぐにこちらがやれれてしまうかもしれない。先ほどの戦闘を見る限り、一対一の戦いでは、あまり神剣の力を行使しないようだ。
それならば、面の割れていない俺が先に出て、一秒でも多く時間を稼ごう。
「先に俺が出るから、危ないと思ったら加勢してくれ」
「大丈夫?」
「ああ。あくまで時間稼ぎだ」
覚悟を決めて、俺は壬生の前に飛び出した。
「あんたがさっきの魔導士かい?」
血糊の付いた神剣を一振りしながら、壬生は俺を睨み付ける。こちらの話も聞かずに俺を敵認定したらしい。
「こりゃまた随分と若いのが出てきたな。そんな若さで、俺っちとやる気かい?」
「あんた、壬生さんだろ? こっちの都合で悪いんだけど、炎神が復活するまでここで待っててくれない? その後だったら、ぜひとも炎神を倒して欲しいんだけど」
あわよくば、このまま体力の回復でもしててくれれば助かるんだけどね。
「あんた、強いんだろ? だったら、炎神が復活するまで待っててくれても良いだろう?」
「あ~、坊主は炎神の仲間じゃねえのか?」
「命を狙われるくらいには、嫌われてるかな?」
俺がそう言うと、壬生は実に楽しそうに笑った。
「もしかして、坊主が炎神を倒したのか?」
「そうだと言ったら?」
「ぜひ、手合わせを願いたいね。水神を倒した俺っちと、炎神を倒した坊主。どっちが強いか、求道者としては試してみてえな」
あちゃあ、どうやらコミュニケーションパート、選択肢間違ったらしい。例え万全の状態でも、平気で人を斬り殺す奴と真剣勝負なんてできっこないよ。
「俺と戦いたいなら、先に炎神を倒してくれない?」
「嫌だね。炎神より強い奴が目の前にいるんだ。そっちとやる方が、楽しいだろうよ」
壬生は躊躇い無く剣を振り下ろしてくる。澪と同門だと聞いていたのに、壬生の剣筋は澪のそれと全く違う。技よりも力でごり押しするタイプって感じの戦い方だ。神剣の力さえ使われなければ、余裕で逃げられそうだ。
さらに壬生は大上段から剣を振り下ろす。その威力は地面を抉る程だが、澪に比べれば避けられない速度ではない。
桜観斬月流の技を出していないところを見ると、まだ本気ではないのか?
「その避け方。坊主、どっかで見たことがあるな」
「そう? 俺は初対面だと思うんだけど」
「もしかして、九十九坊ちゃんかい? お嬢の許嫁の」
「断じて澪の許嫁ではない!」
あ、しまった!とんでもない事言うものだから、思わず正直に答えてしまった。
「許嫁だもん! 私がつっくんと結婚するんだもん」
そして本日の澪さんである。このテンションだから、考えなしに出て来てしまったようだ。澪がこちらに居ると知られれば、神剣の力を使われる可能性がある。だから、俺が限界になるまで隠れていて欲しかったのに。
「なんでえ、どおりであんなところでお嬢と鉢合わせしたわけだ。坊ちゃんも、逃げてばっかの腰抜けだと思ってたが、炎神を倒しちまうとは、随分と勇ましくなったもんだな」
そう言われても、俺は壬生の事なんて全然知らないんだけど。
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