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その姿は天使のようで


 思川さんの言う事は尤もだと思う。俺だって、必要以上に危険を冒すような事はしたくない。けれど、どうしてまた千花さんの命が、危険に曝されなければならないのか。


「絶対とは言わないっすよ? あたしならそうするってだけの話で、あの剣士がどう考えるかまでは知らねっす」


 もしかしたら、千花さんは殺されないかもしれない。剣士がわざわざ千花さんを殺さないかもしれないし、炎神の構成員たちが決死の覚悟で彼女を護るかもしれない。剣士が追いつく前に、炎神の残滓を取り出せるかもしれない。


 だがそれは、可能性の話だ。千花さんが殺される可能性があるのなら、助けに行かなければならない。


「ダメです! どうしていつもいつも、危険な事ばかりするんです!」


 ポンコツだった百花が、いつの間にか再起動を果たした。あんな状態でも、この状況を正しく理解できているようだった。


 別に俺は、危険な事をしている訳じゃ無い。危険が向こうからやって来るんだから、仕方ないだろう。ただ俺は、危険から逃げるか立ち向かうかを選んでいるだけだ。


 まあ、大抵は逃げ切れずに、立ち向かわざるを得ない状況になるんだけどね。


 でも、今回は違う。自分の意思で立ち向かうことができるだ。だったら、思い切り悔いが残らない様にやってやろうではないか。


「格好つけるのは良いですけど、九十九さんはスキルも魔法も使えないんですよ? どうやって思いっきり戦うんですか?」


 そうでした。今の俺はまともに戦えないんだった。せっかく戦おうと思ったらこれだよ。やっぱり俺は、逃げるしか取り柄が無いな。


「なら、作戦は決まったっすね」

「作戦、ですか?」

「簡単っす。和泉君と桜山さんが剣士の足止め。あたしと浅間さん、笠間さんが千花さんを奪還するっす。炎神が復活したら、剣士に押し付けて即撤収。どうっすか? 完璧な作戦っす」


 確かにシンプルな作戦だ。ただそれは、剣士が千花さんの元にたどり着く前に、追いつかなければならない。居場所さえ特定できていないのに、どうやって追いつけば良いのだろうか。


「こいつらに尋問するんですか?」

「そんな時間ねえっす」


 思川さんは、先ほどのおっさんに向き直る。そして、彼と視線を合わせると、ぼそりと一言つぶやいた。


「マインドコントロール」


 そう言った瞬間、おっさんの目は赤く光を放ち、縛られたまますっと立ち上がった。


「何なりと、お命じください」

「んじゃ、浅間千花を連れ去った場所。詳細に教えて欲しいっす」

「北柴山の山頂に我々が寺院を作りました。炎神様の祭壇は、そこにあります。聖母様も、そこへお連れする手筈になっています」

「了解っす。そんじゃ、あんたは研究所の人間が来るまで、こいつらを監視してるっすよ」

「かしこまりました。監視、いたします」


 おっさんはそう言って、他の仲間たちのところまで歩くと、彼らと向き合うようにして腰を下ろした。


「い、今のは?」

「精神系の魔法っす」


 思川さん、マジで万能の魔法使いだった。本当は俺も、こんな風に魔法が使いたかったんだけどな。


「九十九さんがあんな魔法覚えたら大問題ですよ」


 なんでか怒られてしまった。前衛で拳を振るうより、後衛で大魔法とか連発するのがロマンだと思うんだけどな。


「さてさて、時間が惜しいんでとっとと行きましょう。車はもう到着してるっすよ」


 思川さんがそう言うのと同時に、外でクラクションが鳴らされる。本当に迎えの車が来たらしい。


 俺たちは思川さんの後に着いて外に出ると、見覚えのある黒塗りのワゴン車が止まっていた。この車、もしかして……


「みなさん、ご無沙汰しております」


 身を乗り出すように運転席から顔を出したのは、ハロージョブの所長さんだった。今更だけど、どうしてトップが、いつも一番危険な最前線に飛び込んでくるのだろうか。




 車が走り出して15分ほど。景色は徐々に緑が多くなってきた。相手がどのような移動手段を使用しているか分からないのだが、追いつく事ができるのかと不安になってしまう。


「どうやら、彼らはここで乗り物を捨てたようですね」


 窓から外を見ると、『登山道入り口』と書かれた看板の前に、無造作に止められた3台の乗用車と、大型のバイクが1台乗り捨てられていた。


「じゃあ、ここからは徒歩ですね」


 そう言って車を降りようとした俺の肩を、思川さんが掴んで制止を促した。


「こっからは、あたしたちのターンっすよ。ウインドフェザー」


 思川さんの言葉で、制止した車がガタガタと動き出す。上空にだ。突然浮かび上がった車は、先ほどと変わらない速度で上空を飛行する。


「お、思川さん。これ、どうなってるんですか!」


 整備された道路を走るのとは訳が違う。上下にガタガタと揺れながら、高速で移動する車は、乗り心地が最悪だった。


「つっくん怖いよ~」


 乗車時からずっと俺にしがみついていた澪だが、この揺れでとうとう俺に抱き着いて来た。こいつ、こんな状態で水の神剣を持った剣士と戦うことができるのか?


「大丈夫。私、今つっくんエネルギー補給してるから。満タンになれば壬生になんて負けないよ」


 マジかよすげーなつっくんエネルギー。そのエネルギー、いつになったら満タンになるの?


「つっくんがちゅーしてくれたらすぐだよ」


 本当に、こんな状態で大丈夫なの?しかし、ここまで来たら澪を信じるしかない。ちゅーはしてやれないので、代わりに頭を撫でてやる。幸せそうに微笑む澪は、どこかで見覚えがあった。ずっとずっと昔、俺がまだ、澪にトラウマを植え付けられる前、こいつはこんな風にいつも甘えてきていたような気がする。


「澪、あんまり甘えてばっかいると、十六夜みたいになっちゃうぞ」

「う~ん、わかった」

「澪さん、今何が分かったんですか?」

「最初メインヒロインぽく登場して、気が付いたらぽっと出のエロインに人気を攫われていく不人気キャラ?」


 十六夜さん、俺はそんなつもりで言ったわけじゃないよ?確かに重要性は薄いけど、不人気だなんて思ってないよ?だから、俺の脇腹を無言でつねるのを止めてくれ。


「どうするんです! アタシ、これからそのエロインと一緒に行動するんですよ? 忍者のくせに全然忍べて無い人とずっと一緒なんですけど?」

「十六夜ちゃん、本当はボクの事、嫌いなんです?」


 この二人に思川さんを含めた三人がパーティーって言うんだから、不安になってきたぞ。


「まあ、そこんとこはお姉さんに任せとくっすよ。きっちり千花さんは奪還してきますから。それより和泉君。そろそろお別れの時間っすよ」


 そう言って思川さんが指差した方には、巨大な水柱が上空へ向かって噴出していた。あれが水の神剣の力だというのだろうか。恐ろしいほどの水量に、夜間だというのに鳥たちが慌てて飛び立っていくのが分かった。


「では、私は和泉さんたちにご一緒します。車はお預けしますが、備品ですので欠損の無いようくれぐれもお願いしますよ」


 所長さんは、どうやら俺たちと一緒に来てくれるようだ。肩には以前見た狙撃銃が、両手にはサブマシンガンが一丁ずつ握られていた。


「んじゃ、魔法でゆっくり降ろすんで、飛んでもらって良いっすか?」


 いやいやいや。全然宜しくないですけど?軽く上空400メートルとかありそうな高さで、ホイホイ飛び降りられるわけないでしょ。


「では、狙撃ポイントを確保しますので、お先に」


 所長さん、躊躇無く飛んでいった。それを見た思川さんは、車を浮かせた時と同じ魔法を所長さんに使用する。背中に羽の生えた所長さんは、ふわりと上空に飛び上がって、水柱が上がった方へと飛んで行った。


「すご~い、じゃあつっくん。私たちも行こう」

「え? ちょ、ま~~!」


 澪に手を引かれて、俺の体も車から引きずり出される。


「あ、和泉君は呪いがかかってるから、魔法使えないっす」

「先に言っとけよ~~!」


 これ、俺死ぬんじゃないの?死因は転落死、動機は心中か?とか新聞にでも載ったら、死んでも死にきれないよ。


 そう思っていた俺の体が、ふわりと浮かび上がる。


「ふふ、お空のデートだね」


 そう言ったのは、背中に白い翼をはためかせた澪だった。月を背にした彼女は、もはや死神では無く、天使のようだった。






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