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炎神が復活するために


 どうにか拘束を解いてもらい、俺たちはソファーに座っている。目の前には、山盛りのチャーハンを取り分けた皿が置かれていた。


「和泉君には、てっぺんにこれを置いてあげるっす」


 そう言って、俺のチャーハンの山の頂上に、小さなチャーシューの塊を置いてくれた。


「ほい、おっぱいチャーハンの完成っす!」


 どうしよう。一瞬で食べる気が無くなってしまった。そして何より、隣で顔を手の平に埋めている百花を見ると、食事どころでは無い。


「浅間さん浅間さん。誰も、浅間さんのおっぱいとは言ってないっすよ? サイズ的には、笠間さんのおっぱいっすかね?」

「もう、もう、もう! なんでボクばっかりいじられてるです。やっぱりイジメです?」

「だって、百花さんはもう、立派なエロインじゃないですか!」


 おいおい。俺だって思っても口に出さなかったのに。こんな状況でそれが言えるとは、勇者だな。


「勇者ちゃんはそんなにおっぱい大きくないんすよ?」

「もうおっぱいの話は良いですから! 飯を食うか真面目な話をするかしましょうよ」

「そうっすか? んじゃ、冷めない内に食べるっす!」


 やっと口が塞がって、思川さんは静かになった。どうして男が俺しかいないのに、おっぱいの話になるのだろうか。もしかして、俺がいない時の三人もこんな話ばっかりしてるんだろうか?



「う、うぅ……つっくん……」


 俺の部屋に寝かせていた澪が、ふらふらとした足取りで部屋から出てきた。どうやらまだ寝ぼけているようで、リビングに来るとそのまま俺の膝に腰掛けた。


「大丈夫か?」

「ん~、頭痛いよ~。つっくん撫でて~」


 ベタベタとくっついて、額をこすりつけてくる澪さん。何これ、どうしちゃったの?もしかして、頭打っておかしくなっちゃった?


「違うも~ん。早く頭撫でて~」


 とりあえず頭を撫でてやると、へにょっとした笑顔を浮かべて抱き着いてくる。嬉しそうなのは良いのだが、これでは食事もできない。


「じゃあ、つっくんが私に食べさせて。あ~ん」


 俺の食べかけのチャーハンを一口、レンゲに少し乗せて食べさせてやると、また嬉しそうに笑った。澪はそのままレンゲを奪うと、俺と同じようにチャーハンを一口乗せて俺の口に運んでくる。


「おいしいね。じゃあ、今度はつっくんの番。はい、あ~ん」


 パクリ、もぐもぐ、ごっくん。うん、旨い。ってそうじゃないよ!今回は俺、ケガしていないのに、どこでスイッチ入っちゃったんだ?早くスイッチ切り替えてくれ。


 いつもの口数が少ない澪なら、今さらくっついてきても何とも思わないんだけど、子どもっぽい澪というのは、少し対応に困る。


「つっくん、もっと食べても良い?」

「良いけど、自分で食べろよ」

「や~あ、つっくんに食べさせて欲しい」


 どうしよう。百花がポンコツ状態だというのに、そこに澪まで参戦されては処理に困る。そこに食事を終えた思川さんが加わる事を考えると、控えめに言って混沌だ。


「なあ、何かあったのか?」

「あのね~、私、負けちゃったんだぁ。門下生の人でね、悪い事してるなら、私が止めなきゃいけなかったのにね。負けちゃった」


 そう言って、ぐずぐずと泣き出す澪。完全に幼稚化してしまっているが、それにはちゃんと理由があったのか。


「それが問題その二っすね。件の剣士が、桜山さんと同じ桜観斬月流剣術を使うんす。今桜山さんが言った通り、流派の当主に連なる者は、流派の技を悪行に使う者を取り締まるって言う決まりみたいなのがあるんすよ」

「だけど負けちゃったんだよ~」


 なんで思川さんがそこまで桜山家の事情に詳しいのか疑問なのだが、まあ、思川さんだから、で納得しよう。


 しかし、ここに来て問題が山積みになってしまった。


 炎神の連中は、どうして千花さんを攫って行ったのか。彼女は炎神の討伐には何も関与していない。むしろ、炎神の構成員たちと同じく神楽坂の被害者だ。


 俺をおびき寄せるために、人質として利用するのか?確かに俺ならホイホイおびき出されてしまうだろうが、他人から見れば友人の家族という位置づけだ。そんな相手に命を懸けるとは考えないだろう。


 他に何か利用価値がある?


「それは、こいつらに聞けばすぐわかるっす」


 そう言って、俺たちが倒した炎神の構成員の一人を引きずって来る思川さん。男は全身グルグル巻きのうえ、百花特製の猿轡を咥えさせられていた。


 こんなの平気で咥えさせるから、十六夜にエロインとか言われるんだと思うんだよね。


「おっさんにこんなの咥えさせるから、エロネタでいじられるんすね」


 ここにも居たよ。空気読まない勇者様が。百花イジリはもう良いですから、話を進めましょうよ。


 思川さんは、引きずって来た男の後ろに回ると、猿轡のひもをほどいて、口からそれを取り外す。男は軽く数度むせると、思川さんを睨み付けた。


「話は聞いてたっすね? 素直に答えてくれれば、これ以上エロい目に合わなくて済むっすよ?」

「うぅ、そこはちゃんと痛い目って言って欲しいです。猿轡は、別にエロくなんて無いです」


 この人に任せてたら、百花のために情報収集したいのに、間接的に百花をいじり倒して終わりそうな気がする。お願いですから、真面目にやってくださいよ。


「え~! もっと浅間さんをいじり倒したいっす。格好つけてこいつらに聞けば~なんて言ったっすけど、浅間千花さんを攫った理由は、狙われた時点でわかってるっす」

「な、なんだと!」


 この言葉に驚いたのは、猿轡を外されたおっさんだった。おっさんは後ろで捕らわれている連中に目を向けるが、その連中は必死で首を振っている。


「炎神の残滓、でしたっけ? 彼女が目を覚まさないのは、体内の生命力が残滓に奪われているからなんすよね? あたしが聞きたいのは、残滓を取り出すことで、千花さんの身に危険が及ばないのかってことっす」

「……彼女は、新たな炎神様を育んだ聖母だ。御身に危険など及ぼすはずが無い。炎神様の双剣が手に入ったのであれば、体内の残滓を危険無く取り出せるはずだ」

「ふむふむ。つまり、千花さんの体内の炎神の残滓は、千花さんの生命力を吸って新たな核に成りかけている。それを炎神の双剣に移し替えて、新たな炎神を生み出すってことっすね」


 それはつまり、千花さんが助かるという事なのか?炎神の双剣は無くなってしまうかもしれないが、千花さんの目を覚ますのなら安いものだろう。


「百花、良かったな」


 そう言って喜んだのは、俺だけだった。なぜか皆は、難しい顔をして俺を見つめている。


「炎神の双剣と残滓が揃えば、千花さんの命は助かるかもしれないっすけど、もれなく炎神も復活するっすよ。そうなると、どうなると思いますか?」

「え? 困る?」


 なぜか可哀想な人を見るような目で俺を見つめてくる思川さん。嘘でしょ?この人にだけはそんな目で見られたくないのに。


「それじゃおっさん? この可哀想な人に教えてあげて欲しいっす。炎神が復活したら、まず何をするのか」

「……怨敵、和泉九十九への報復だ。お前の魂を炎神様の炎で浄化し、贄とする」


 千花さんが助かるかもしれないとわかって、この人たちの目的が頭の中からすっ飛んでいた。そりゃ皆がこんな顔をするはずだ。自分を殺しに来る相手が復活するのを喜んでいたのだから。


 でも、千花さんの意識が戻り、無事が保障されているのであれば、それほど悪い話ではないはずだ。


「大ありっすよ。消滅後にあれだけ高位の神剣を残せる化け物っすよ? さすがのあたしでも、足止めにもなんないっす。きっと、この周辺地域で炎神を倒せる可能性があるのは、和泉君と水の神剣を持った剣士しかいねえっす」


 なら、その剣士に倒してもらえば良いんじゃないの?っていうか、勝手に潰し合ってもらえば、こっちは痛い思いをしなくて良いじゃない。


「はぁ。和泉君は意外と頭が回らないんすね。その剣士が、炎神の復活前に千花さんを殺したらどうするんすか」

「千花さんを、殺す?」

「だってそうっすよね? 神剣だけが目当てなら、わざわざ化け物を復活させたくはないはずっす。一番楽なのは、千花さんを殺して残滓を消し去ることっすよ」






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