襲撃者 ②
侵入者の情報を得るために、百花と共に外へと飛び出した。この区画は入り口からかなり離れた位置にあるが、侵入者がわざわざ正門を通ってやって来るわけが無い。来るとすれば、最も警備の薄いところだろう。
そう思っていたのだが、爆発が起こっているのはどうやら正門の方向だ。侵入者は、堂々と正門を通って中に入ろうとしているのだろうか?
「澪さん、もう少し近くに行ってみるです」
あまり九十九から離れたくないけど、仕方ない。百花と一緒に正門へ向かって走り出す。車で移動をするだけあって施設内は広大だが、幸い、中央棟まで走れば正門までを見渡すことができた。
「まだ正門は突破されていないみたいです」
先ほどから聞こえてきた爆発音は、警備のワーカーが使用している爆発系統の魔法らしく、正門の外に向けて放たれている。では、敵はどこにいるのか?
魔法の軌跡を追うと、攻撃の対象になっているのは一人のようだ。その人物に複数の方向から攻撃魔法が襲い掛かるが、その全てが直前で斬撃によって切り裂かれている。その斬撃に、見覚えがあった。
「大斬月?」
あの剣筋は、私と同じ桜観斬月流に似ている。もしかすると、同門であるかもしれない。
「百花、侵入者に知り合いがいる。私はこのまま正門に向かうから、百花は九十九を護って」
「知り合いです? 敵に?」
「うん」
確信は持てないが、同門であった場合、私が処理しなければならない。
私は百花と別れて正門に向かう。徐々に爆発音の数が減ってきているのは、警備の人数が減ってきているからだろう。急がなければ、正門が破られるかもしれない。
「ファイアブラスト」
正門の前で、魔法を行使しているワーカーが一人。すでに仲間はおらず、その人も肩には深い切り傷が刻まれている。足元には血だまりができるほどの出血。急いで治療をしなければ、命に関わる。
「ふっははは! なんでい、上級の魔導士様の魔法ってのは、随分と薄っぺれえんだなあ。これなら、そこいらの壁でも斬ってるほうが手応えあるってえの」
魔導士に相対している男は、水色の刀身を持つ刀をひらひらと振りながら軽口を叩いている。残念ながら、見覚えのある男だった。
「壬生乱道」
五年ほど前まで、道場で修行をしていた門下生だ。別に問題を起こして破門された訳では無い。武者修行に出ると言って、それ以降帰ってくることは無かったが、今でも道場に籍は残っている。
「さあさあさあ。俺っちはとっとと炎の神剣を手に入れてえんだ。邪魔しねえでどいてくれや」
「ふ、ふざけるな! こんな事をして、無事で済むと思ってるのか!」
「残念だがねえ。五年前に水龍をぶっ殺してからずっと追われてはいるが、この通り、ピンピンしてんだあね」
「す、水龍だと! じゃあ、お前は…お前が持っているその剣は」
壬生はにやりと笑って、刀を振り上げる。桜観斬月流剣術では、あのような大上段での構えはしない。何をするつもりなの?
「水龍刃!」
振り下ろされた刀から、分厚い水の刃が放たれる。
「桜観斬月流剣術・奥義が五…大斬月」
水の刃に目掛けてこちらも斬撃を放つ。斬撃は魔導士の男の目の前でぶつかり合い、相殺される。その衝撃により男は吹き飛ばされるが、死ぬよりはマシだろう。
「ふっははは! おいおいおいおい、こんなところで同門に会うとはなあ。どこのどいつだ」
「壬生」
「随分と若い……あんた、もしかしてお嬢ですかい?」
先ほどまでの軽口を止め、こちらに鋭い視線を向けてくる。こちらも壬生から視線を外さず、じりじりと距離を詰めていく。
「どうしてこんな事を?」
「ご無沙汰しております、澪お嬢。どうして、と言われやしても、俺っちは、強さを求めただけでさあ」
「強さ?」
「そうですよ。師匠に勝てるような、絶対的な強さ。それは、桜観斬月流だけでは得られない。だから俺っちは、この神剣を手に入れた。でもねえ、これだけじゃあダメなんでさあ。勇者とかって奴と五度立ち会ったけど、一度も勝てねえ。そんなんで、師匠に勝てるわけがねえ。俺っちは、強い力が、新しい神剣が欲しいんですよ」
神剣があれば力が手に入ると思っているの?そんな物は自分の力では無い。強くなったとは言わない。こんなくだらない事のために、これだけの犠牲者を出したというのか。
同門として、この男はここで止めなければならない。
「俺っちとやりますか? ここにいるってえ事は、お嬢もワーカーになったんでしょう?」
「壬生、あなたはここで止める」
「ふっははは! さすがお嬢だ。では、お相手仕る!」
お互いに下段の構えを取り、にらみ合う。一呼吸の後、壬生の喉目掛けて突きを放つ。壬生もそれを見抜いており、私の刀の切っ先に自分の刀の切っ先をぶつけた。
その衝撃で後方へ飛び退くと、さらに高速の突きを放つ。
「「桜観斬月流剣術…月牙」」
ほぼ同時に、同じ技が激突する。私の放った月牙は完全に躱されたが、奴の放った月牙は、私の頬をかすめた。
「へん、さすがはお嬢だ。肩に入ったと思ったのに、寸前で躱されたか」
私は殺すつもりで喉を狙っていたというのに、壬生の奴、この状況で致命傷を避けたというのか。どうやら単純な力量差だけでも、向こうが大きく有利なようだ。
「桜観斬月流剣術…桜突風」
「水神剣…激流突」
私が高速の突きの連撃を放つタイミングで、壬生の剣から複数の水の槍が出現する。槍は私が放つ突きにあわせて突撃し、相殺されていく。
「お嬢、出し惜しみしてる余裕があるんですかい?」
「出し惜しみ?」
「いやいや、お嬢も転職したんなら、それらしい戦いがあるでしょうよ。本来、桜観斬月流はスキルや魔法と組み合わせる事も想定されてるんですぜ?」
転職して以来、私はスキルをほとんど取得していない。それは、長い年月をかけて取得した、桜観斬月流剣術の技があるからだ。
それでも、九十九を護るために取得したスキルもある。以前九十九が使っていた、速度強化の魔法。
「ハイクロック」
移動速度を向上させて、壬生の背後に回り込む。そこから高速の突きを叩きこむ。
「ふっははは、おもしれえ! 来い、水壁!」
突如発生した水の壁によって、私の突きは阻まれる。さらに三度突きを放つが、壁を突き破ることは出来なかった。
「どうですかい? これが俺っちの新しい力です」
「剣の力は、あなたの力じゃない」
「ふっははは! 厳しいねえ。ですが、この神剣を手に入れたのは俺っちの力ですぜ」
水流の如く循環を続けている水の壁は、いくら突きを放っても貫く事が出来ない。ならば、広範囲の斬撃で吹き飛ばす。
「桜観斬月流剣術・奥義が二…桜花乱撃」
渾身の力を込めて、複数の斬撃を叩きつける。壁から飛び散った水は元に戻ることは無い。徐々にその総量を減らしていく。
「お嬢。残念ですが、水の神剣は護りの剣。いくら斬り飛ばそうと、破れやしやせんぜ」
壬生がそう言った瞬間、水の壁はその総量を倍以上に膨れ上がらせる。
「神剣は、自身の霊力を使用すると聞いた。なら、あなたの霊力が無くなるまで斬れば良い」
「残念ですが、そこまで時間はかけやせんぜ。出でよ、水龍!」
壁の向こう側から、新たに巨大な水柱が上がる。それは上空で渦を巻き、まるで巨大な龍のように姿を変えた。
「ぐおおぉぉ!」
上空から、巨大な咆哮が響き渡る。それは私の鼓膜を揺らし、肌を震わせ、心を挫いた。
あれには勝てない。あれは、人が抗える存在では無い。
「まだまだ、お嬢はワーカーの戦いをわかってねえですぜ」
遥か上空から私を見下ろすそれは、天に向かって咆哮すると、激流の如く私の体に降り注いだ。
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