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襲撃者 ①


 実験が終わってから、特に何事も無く二日が経っていた。


 思川さんはデータの分析を行っているそうで、あれ以来こちらに来てはいない。予想以上のデータが得られたと喜んでいたので、研究が楽しくて仕方ないのかもしれない。その研究が、俺や千花さんの治療に役立つと良いのだが、まだまだ不明な事ばかりのようだ。


 不明と言えば、実験から帰ってきて以来、百花がまともに姿を見せてくれないのはなぜだろうか?十六夜や澪に聞いても、ため息を吐かれるばかりである。


 今夜は百花が夕食の当番なので、手伝いをしながら話でもしてみようかな?


そう思ってキッチンで待機をしていると、程無くして百花がやって来た。


「げ!」


 人の顔を見るなり、随分と失礼な反応である。百花はくるりと半回転して俺に背を見せる。逃げ出さないだけ、まだマシなのかな?


「どうしてここにいるです?」

「いや、夕食の準備でも手伝おうかと思って」

「チェンジです」


 お客さん、当店ではそう言ったサービスはやっていませんよ。せめて顔くらい見せてくださいませんか?


「うぅ。まだ、少しだけ恥ずかしいんです」

「いつもは必要以上にくっついてくるくせに。実験の時だって、そんなに恥ずかしい事なんてしてないじゃん。むしろ、パンイチだった俺の方が恥ずかしかったよ」

「……」


 百花が恨めしそうな顔で、俺を見上げてくる。なんだか、随分と久しぶりに百花の顔を見たような気がする。


「あの時の事、なんで覚えてないんです? それとも、覚えてて忘れたふりをしてるんです?」


 あの時、動けなかった俺を、百花が抱きしめてくれたのは覚えている。それがすごく心地良くて、離れたくなかった。


「そ、その後、ボクに、なんて言ったか、覚えてる、です?」

「う~ん、そこら辺が『ズドオォォン』んだよ」

「え? え? どっちです?」


 いやいや、そんな事言ってる場合じゃないよ。今、窓ガラスが震えるほどの爆発音が聞こえたんですけど?しかも、電気まで消えちゃってるんですけど?


「そんなのはどうでも良いです!」

「バカ! 敵だったらどうするんだよ」

「へ? て、敵です?」


 本当にこいつは有能な忍者なのか?ここに来て一気に心配になったぞ。


「九十九さん! 百花さん! いますか!」

「いるよ。そっちは? 澪もいるか?」

「いる」


 まだ暗闇に目が慣れていないので、二人の位置が正確に把握できない。


「とりあえず、リビングに移動できるか? ソファーのところ」

「は、はい。スマホがポケットに……」

「ダメ。敵がいるとしたら、見つかる可能性がある」


 確かに、この研究所が襲撃されている可能性は十分ある。最初の爆発音を皮切りに、何度も大きな爆発音が鳴っている。それも、徐々にこちらに近づいているようだ。


 このタイミングで研究所を襲撃するのは、炎神の連中である可能性が高い。となれば、目的は二つしかない。炎神の双剣と、俺だ。


「百花、私と一緒に外に出て。襲撃者がこちらに向かっているかだけでも確認したい」

「わ、わかったです。それじゃあ、十六夜ちゃんは九十九クンを護って欲しいです」

「了解ですけど、九十九さん、今どこですか?」

「たぶん、百花のスカートの中」

「うきゃあ!」


 いやいや。お前今日スカートなんて穿いて無いじゃん。


「も~、戻ってきたら、覚悟しとくです」

「はいはい。気をつけて行って来いよ。澪もな」

「うん」


 そう言って、二人は窓から飛び出して行った。本当は俺も一緒に出たいところだが、スキルも魔法も使えないのでは、足手まとい以外の何物でもない。大人しく、十六夜と一緒に二人の帰りを待つことにしよう。


「つ、九十九さん。どこですか? アタシ、まだ良く周りが見えないんですけど」


 十六夜が、ふらふらと手探りでリビングを歩いている。どうにも危なっかしい足取りだ。俺は足音を立てない様に移動すると、背後から静かに声をかける。


「十六夜」

「いにゃあ!」


 変な悲鳴と共に十六夜は飛び上がり、後ろに尻餅をつくような形で倒れ込む。背後に立っていた俺は、それに巻き込まれて一緒に倒れてしまう。


「いってて。十六夜、しー!」

「しー、じゃないですよ。驚かせないでください!」


 敵に気付かれない様に気を使ったつもりだったんだけど、十六夜にも気を使うべきだったようだ。


「悪かったって。だから、早く降りて」

「……きゃあ、こっわぁい、九十九さん、たすけてえ!」


 なんだよその棒読みな悲鳴。俺はお前の方が怖いわ。


「ぶ~、ちょっとは心配してくださいよ」


 心配してるよ、お前の頭を。甘えるのは別に構わないけど、時と場所くらい弁えてくれ。


「そうです。弁えないと、ボクがお説教するです」

「ほら、怖いお姉ちゃんが帰ってきたぐへ!」


なんで俺の顔踏んずけたの?悪いのは十六夜だよね?


「なんとなく? それより、まずい状況です。警備の上級職パーティーが半壊したです。このままだと、研究所内部まで、敵が侵入してくるです」

「澪は?」

「ボクに九十九クンの護衛を任せて、警備の救援に向かったです」


 随分とまずい状況のようだ。まだ侵入されていないにしても、その可能性があるのなら警戒しなければ。


しかし、どうして澪は援軍に向かったんだ?いつもなら、危険な状況で俺の隣を離れるなんて事、絶対にしないのに。


「侵入者が、知り合いらしいです」


 もしかして、俺にこの呪いをかけたおじさんか?あの人が来ているとなると、俺も狙いの一つだな。


「詳しい話は分からないです。でも、まずいです」


 そう言って、百花は短剣を両手に構えて窓の外に目を向けた。その雰囲気から察するに、どうやら敵がいるらしい。


「囲まれてるのか?」

「いいえ。窓の前に二人だけです。これなら、ボクだけで対処できると思うです」

「じゃあ、アタシはここで九十九さんを護ります」


 十六夜の言葉を聞いて頷くと、百花は窓に向かって短剣を二本投げつける。


「分身」


 百花のスキルによって数十本に分裂した短剣が、窓を突き破って外へ飛んでいく。


「ボクは外に出るです。十六夜ちゃん、九十九クンをお願いするです」

「わかりました。お気をつけて」


 百花はそれだけ言い残して、外へと飛び出して行った。何もできない事が、これほど歯痒いとは思わなかった。


「九十九さんはアタシが絶対護り抜きます。だから、無理はしないでください」


 十六夜は、俺の前に立って拳を構える。以前に比べて、筋力や俊敏にステータスを振っていないので戦闘はできないはずだ。それなのに、十六夜は拳で戦ってでも俺を護ろうとしてくれているのか。


「十六夜、無理に戦うなよ。お前には、お前にしかできない事があるだろ?」

「わかってますよ。でも、この方が格好良いでしょ?」

「ああ、すっげえ格好良いよ。俺が女なら、惚れちゃうかもね」

「えっと、男のままでほれ「ガシャァァン!」ですよ」


 ガラスの割れる音に、十六夜の言葉が阻まれる。


 窓を突き破って吹き飛ばされてきたのは、百花だった。片膝をついて蹲る彼女の腹部は赤黒く染まり、苦悶の表情を浮かべている。


「十六夜、百花を!」

「だ、ダメです! 九十九クンを護って!」


 ふざけるなよ。そんな状態の百花を見捨てて、自分だけ護られていられるほど、俺は大人じゃないぞ。俺は十六夜の手を取って、百花に駆け寄る。腹部には深い切り傷があり、出血もかなりの量だった。


「俺が引きつける。その間に百花を治療してくれ」

「で、でも」

「頼む!」


 百花を十六夜に任せて、俺は外に飛び出した。魔法やスキルが使えないとは言っても、ステータスは減少していない。百花が回復するまでなら、逃げ切る事が出来るはずだ。


「どこだ!」


 俺が声を上げると、空気が揺らめき、ローブを被った二人の男が姿を現した。


「和泉九十九だな」

「拘束させてもらう」


 どうやら俺が狙いで正解らしい。拘束、というくらいだ。致命傷になる攻撃はしてこないだろう。それならば、攻撃を躱すことも出来るはずだ。


 男の一人が長剣を片手に踏み込んでくる。横に薙いだそれを、最低限の動きで躱し切る。さらに男は剣で斬りかかって来るが、この程度の剣筋、躱し切るのは難しくなかった。


「スラッシュ」


 後方に控えていた男が、剣を抜いてスキルを使用する。一瞬で俺と男の距離を詰めて、横薙ぎが振るわれる。


「あっぶね」


 驚異の速度であったが、後方に大きく飛び退くことで、ダメージを受けずに躱し切る。


「九十九クン、もう大丈夫です!」


 どうにか時間稼ぎは出来たらしい。血まみれの服だが、顔色が随分と良くなった百花が俺の横に飛んできた。


「さっきは不覚をとったです。でも、これだけしっかり姿が見えてれば……水遁・双水龍、分身!」


 百花の体から水流が発生し、双頭を持つ水の龍が生成される。その水龍を、さらにスキルを使用して四体にまで数を増やした。四体の龍は、激流となって敵に襲い掛かる。


「ぐ、ぐわあぁ!」

「な、なあぁぁ」


 二人の敵は、激流に押し潰され、流され、飲み込まれていった。渦を巻くように空へと駆け昇った龍たちは、遥か上空ではじけて消滅し、意識を失った男たちだけが空へと放り出された。


 二本の短剣を軽く上空へ放り投げた百花は、高速で落下してくる男たちの様子を見ながら、スキルを発動する。


「サークルチェンジ」


 一メートルほどの高さにあった二本の短剣が姿を消し、代わりに意識を完全に失った二人の男が姿を現した。


「終わったです」


 額の汗を拭いながら、安堵した表情で百花がそう言った。






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