生命力の源は・・・
先ほどから一向に体勢を変えようとしない百花を尻目に、思川さんが実験で得られた情報を開示すべく、一台のノートパソコンを持って現れた。
「機器を通して観測できた情報を、アタシの考察を含めて解説するっす。まずは、この動画を見て欲しいっす」
そう言って見せられた動画には、サーモグラフィーカメラを通したような、人間のシルエットが映っていた。
「これは、身体をめぐる霊力などのエネルギーを視覚化できるようになってるです。まず、最初の状態っす」
横たわっているのは俺だろうか?右腕は全体的に真っ黒になっている。それ以外の部分は、薄い青に染まっていた。
「この青い部分は、霊力が正常に循環しているところっす。黒い部分が、おそらく呪いが塊になっている部分っすね。そんで、次はこっちっす」
そう言って切り替わった画面には、二人のシルエットが映し出される。
「こっから、笠間さんが魔法を使うと、こうなるっす」
動画が再生されると、十六夜の手の辺りが緑に染まっていく。緑は俺の全身を染め上げていくが、黒い部分に触れた瞬間、手の甲辺りが弾けるように黒が増加する。
「ここっす。おそらく、この弾けた部分に呪いの核があるっす」
黒はパチリと弾けた後、一瞬で俺の全身を漆黒に染め上げた。これは、俺が恐怖と苦痛に悶えているところだろう。そんな状態が一分ほど続くと、黒は右腕に収束していく。長く苦しんでいたと思ったが、わずか一分程度の出来事だったのか。
「笠間さんが使用した魔法を食い尽くしたから、核の周辺に戻ったんだと思うんすよ。それで、呪いが収束した後、和泉君の全身が白くなってるのが分かるっすか? この状態は、霊力が枯渇したのと同じ状態っす。そんで、こっからが本番っす」
次の動画には、おそらく百花のシルエットも映っている。俺の手を取った十六夜の手が、桜色に染まる。桜色は、その色を薄くしながらも、左手から徐々に俺の全身にめぐっていく。右腕に到達しても、黒が反発を起こすことは無かった。
「このピンクが、おそらく生命力っす。全身にピンクが巡ったところで、和泉君は動けるようになったっす。そして、問題はここっす」
百花が俺の拘束具を外して、俺の体を抱き上げたところだ。百花の胸の辺りが桜色に染まり、それが急激に俺の体に流れ込んでいく。薄かった色が、百花の胸元と変わらないくらいに濃くなった辺りで、桜色の流れは百花の体にも入り込んでいった。胸元の一部を除いて青く染まっていた百花の体が、俺と同じように桜色に染め上げられた辺りで、二人の胸元の間に、塊のような物が現れた。
「この辺りの会話を聞いて欲しいっす」
『大好きです。もう、離れたくないです。こうしていられるだけで、ボクは、幸せです』
「きゃああぁぁ! やめて、やめてください。恥ずかしいですぅ」
音声と、リアルの百花の声がほぼ同時に聞こえてきた。リアルの声はほぼ絶叫で、そのせいで音声は良く聞こえなかった。
「まだ仮定っすけど、このピンクは、浅間さんが和泉さんに抱く感情なのでは? と考えているっす。その思いが強くなりすぎたので、塊になったんだと思うんす」
感情って、それが俺の体に入ってきたって事?しかも、それが塊になる程の感情となると、どんな気持ちなんだろうか?
「つまりこの塊は、浅間さんの「きゃああぁぁ!」の結晶っす!」
百花の悲鳴のせいで、肝心なところが全く聞き取れなかった。何の結晶ですって?
「だから、「やあぁぁ!」の結晶っすね。って浅間さん、説明の邪魔しないで欲しいっす。これは、大発見なんすよ?」
「……何の結晶かだけは、ぼかして説明して欲しいです。ボク、恥ずかしくて死にそうです」
蹲った状態でぴょんぴょん跳ねながら、百花が訴えている。何とかの結晶っていうのが、そんなに恥ずかしいんだろうか?
「はぁ、わかったっす。っていうか、この状態でわかってないのは和泉君だけっす。とりあえず、ピンクが二人の体を循環してるのはわかるっすよね。つまり、浅間さんの強い気持ちが、和泉君の全身にめぐって、お互いに同じ気持ちになったっす。そして、一つの結晶になろうとしたってことっすね。桜山さんがぶった切ってくれなければ、今頃どうなってたか分からないっす」
お互いに同じ気持ちって、あの時俺はどんな気持ちだったか……
澪にぶった切られた時、気持ちにぽっかりと穴が開いてしまった感じで、時間が経つごとにあの時の気持ちが記憶から抜け落ちていく。今では、全く思い出せない。
「澪さん、グッジョブです!」
「危なかった」
十六夜と澪は何かわかっているようだ。俺だけが分かっていないのだろうか?
「あたしとしては、あの結晶を回収したかったんすけど。砕けた後は、どうやら浅間さんの中に戻ってしまったようっすね。この半分でも和泉君に残れば良かったっすね、浅間さん?」
「違うんです! あ、別に違わないですけど、違うです!」
でも、生命力を吸い上げるのは、特別な呪術の術式が無いと出来ないって百花が言っていた。あれが生命力だと言うのなら、どうして俺は百花から吸い上げる事が出来たんだろうか?
「そこら辺は、もう少し別のデータも見ながら考察したいっす。でも、ヒールをかけられた後、和泉君は生命力も枯渇しかけていたと考えた方が良いです。だから、その呪いが完全に無くなるまで、スキルや魔法を使用してはダメっす。最悪、死ぬっすよ?」
最後に脅し文句を聞かされて、俺たちはコテージへと帰ってきた。帰路に着いても、百花は蹲ったまま両手で顔を隠しており、まともに姿が見られない。
それに対して、十六夜と澪はずっと俺に抱き着いたままだ。十六夜はいつもの事なのだが、澪がここまでくっついているのは珍しい。
「どうです? アタシの生命力、流れていきます?」
仮に流れ込んできていても、判断ができない。先ほどの百花との一件で、右腕以外はほぼ復調している。二人の香りとか柔らかさとか温かみは感じるけど、これが生命力によるものか、ただ抱き着いているせいなのか、違いが全く分からないのだ。
「九十九、九十九。私の事、愛おしく感じない? 結婚したくならない?」
「何の話?」
「やめて~! せっかく九十九クンが忘れたのに、思い出させないで欲しいです~!」
澪の言ってることも分からないが、百花が何をそんなに苦しんでいるのかも分からない。実験が終わってから様子が変過ぎる。
「百花、何かあったんなら言ってくれよ? お前だけ辛いなんて、やっぱり何か問題があったんじゃないか?」
「ボクも、九十九クンみたいに気持ちにぽっかりと穴が空けば良かったです。なんで九十九クンだけあの時の気持ちを忘れられたんです? ずるいです!」
なんだか、蹲ったままぴょんぴょん飛び跳ねている姿が、可愛く見えてきたぞ。
「い、いいい、今は可愛いとか言っちゃダメです!」
「百花、可愛い」
「百花さん、可愛いです」
「くぅ~~~、影同化」
十六夜と澪の攻撃に耐えられなくなったのか、百花は影の中に隠れてしまった。一応影の中に声は届くらしいんだけど、今はそっとしておいた方が良いかな?
「どうしましょう九十九さん。アタシ、今の百花さんをいじり倒したくて仕方ないです!」
いやいや。すでにさっきの攻撃でノックアウトしてんじゃん。
「今、絶対九十九の影に隠れた。百花、今夜は九十九と一緒に寝るつもり?」
「な、今日そんな事したら、赤ちゃんできちゃいますよ!」
なんでそんな話になっちゃうの?大体、男女が二人で一緒に寝るだけで赤ちゃんはできないからね?
「それくらいわかってますよ! だから、このまま九十九さんを一人にしたら、百花さんにお…もがもが!」
再び姿を現した百花は、真っ赤な顔になりながら十六夜の口を塞いだ。
「べ、別に、たまたま入ったのが九十九クンの影だっただけです!」
「やっぱり、九十九の影だった」
「……澪さんまで、どうしてボクをいじめるです」
随分と慌てているようだ。俺は赤くなった百花の頬に、そっと手を当てて顔を覗き込む。特に変わったところはないかな?
「まあまあ。とりあえず落ち着けよ」
「きゅぅ~~」
それだけ言い残して、全身を真っ赤に染め上げた百花は、意識を失ってしまった。
ブックマーク・評価をいただけると嬉しいです。




