謝罪と実験
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砂糖ミルクマシマシのカフェオレと、粉末メガ盛りのココアを作ると、再び俺はトレーに乗せてリビングまで運ぶ。
ソファーには、澪と百花が間に一人分のスペースを空けて座り、そのスペースの前に十六夜が立っていた。この配置の意味を察した俺は、十六夜にトレーを渡してテーブルを挟んで向かいのソファーに腰をかけた。
「九十九さん、どうしてそっちに行っちゃうんですか?」
「いやいや。真面目な話をするのに、十六夜を膝の上に乗せてって、絵面的にアウトだろ?」
っていうか、高校生にもなって抱っことか、どんだけ甘えん坊なの?こんなところで幼少期の反動が出ちゃったの?そう思うと少し心苦しいのだが、やはり時と場合は弁えさせないとな。
で、だ。みんな揃ったけど、やはりここは、俺が謝罪をした方が良いだろう。
「二人とも、ごめん。二人の気持ちをちゃんと考えないで、ひどい事を言った」
そう言って頭を下げると、二人は微妙な顔でこちらを見ている。しまった。何か失敗したか?
「このカフェオレ、甘過ぎるです」
「このココアも、甘すぎて飲めません」
失敗したのは、甘さの調整だった。サービスと思って、甘くしすぎちゃったみたいだ。
「九十九クンだけが謝るのは違うです。ボクもごめんなさい。九十九クンはボクの事を考えてくれたのに……気持ちが昂って、怒っちゃったです」
お互いがお互いを気遣ったのに、その気持ちだけがすれ違ってしまった。もっとしっかり話せば良かったな。
「アタシは謝りませんよ。今でも怒ってますし、気分は最悪です」
それは本当に申し訳無い。十六夜の気持ちを軽く見過ぎていた。
「本当ですよ。でも、アタシと九十九さんは、辛い事は分け合うって決まってます。だから、明日は一緒に苦しみましょう」
嫌な言い回しだが、納得してくれたのなら良かった。本当は俺も、見ず知らずのおっさんよりは、十六夜に近くに居て欲しい。
「辛いと思うけど、みんなが一緒に居てくれると、安心するんだ。だから、明日はみんなで一緒に行ってくれるか?」
「うん」
「もちろんです」
「当たり前ですよ」
どうにか仲直りが出来たので、安心して明日の実験に挑める。俺は胸を撫で下ろす気分で、自室のベッドに潜りこむことができた。
翌朝は、予定通りの時間に迎えの車がやって来た。みんなのおかげでそれほど不安は無いが、あの痛みと恐怖に立ち向かうことを考えると、体は少し身構えてしまう。
「おはよう。キミが和泉君だね。思川君が無理を言ったようで、申し訳ないね」
そう言って車から顔を出したのは、高齢の男性だった。この人も研究員だろうか、思川さんと同じように白衣を着ていた。
俺たちは簡単に挨拶を交わすと、車に乗り込んだ。車が走り出すと、程無くして目的地へ到着。建物の前には、思川さんが待っていた。
「おはようっす、みなさん。あ、所長もお迎えありがとうございましたっす」
そう言って、俺たちと一緒に車を降りた男性に、思川さんが軽く手を振った。
え?所長って、このおじいさんがここの最高責任者って事?
「そうっす。ここの所長、上野先生っす」
「全く。上司をパシリに使うなと、何度言えばわかってくれるかな?」
「まあまあ。上野先生も興味ある研究でしょ? あたしが交渉したんすから、送迎くらいやってくださいよ」
思川さん、思った以上に大物だったよ。それとも、研究者って言うのは、みんなこういう性格なのだろうか。
「思川君は特別変な子だよ。実績があるから文句は言わないがね」
苦笑いの上野先生の後に続き、俺たちは建物に足を踏み入れた。建物の中にはガラス張りの部屋がいくつもあり、その中には、様々な機材が配置されている。まさに実験専門の建物って感じだ。
しかし、どの実験室も明かりが落とされており、この建物の中には誰もいないようだった。
「あ、今日はこの棟をまるまる貸し切ってるんで、あたしたち以外は誰もいないっす」
「全く。キミが実験する時はいつもそうだね」
「周りでごちゃごちゃやられると、集中できねっす。あ、ここの部屋っす」
そう言って部屋の電気を点けて、思川さんは俺を引き入れた。
「それじゃあ和泉君? 裸になって、このベッドに横になって欲しいっす」
「は、裸ですか? うちの女性陣が見てるのに?」
「みんな見慣れてるんじゃないんすか?」
んな訳ないだろ!俺はストリーキングじゃないんだぞ。
「あ~、じゃあパンツは残して良いっす。そこらは別の機材で観測するっす」
俺は言われるままに服を脱ぎ、部屋の中心にある、ガラスでできたベッドの上に横になった。最初は少しひやりとしたが、すぐに体温で温まってくれたらしい。
「じゃ、ちょっと電極貼る前にジェルをぬるっす。我慢してくださいね」
どうやら電極は全身に張り付けるらしく、額や足の先にまでジェルが塗られていく。ひんやりとベタつく感覚が気持ち悪い。その上にペタペタと電極を張り付けられ、胴体と手首に拘束具を着けられてベッドに拘束されれば俺の準備は完了のようだ。
さらに俺の周囲を様々な観測機らしきものが設置され、思川さんの準備も完了したらしい。彼女は部屋から外に出て、代わりに十六夜が部屋に入ってきた。
「九十九さん、その、すごくダサいです。しかも、パンイチでベッドに縛りつけられるとか、ひどすぎますよ」
うっさいわ。俺だって好きでこんな格好してないよ。もうちょっと何か言うことがあるんじゃないの?
「だって、アタシは今でも嫌なんですよ? それなのに、こんな格好を間近で見せられたら、ちょっとはバカにしたくなるじゃないですか」
まあ、それで十六夜の気持ちが落ち着くなら良いかもしれないな。正直、俺もかなり緊張していたので、十六夜の軽口に多少なりと救われる。
「アタシはヒールをかけたらすぐ部屋から出るように言われてます。姿が見えなくても、アタシたちは近くに居ますからね?」
「わかってるよ」
不安そうな表情を浮かべる十六夜は、じっと俺の目を見つめると、大きく息を吸い込んで魔法を発動させる。
「ヒール」
その言葉と共に、全身を温かい空気が包み込む。その心地良さは、一瞬で反転する。バチンと何かが弾ける感覚と共に、全身に激痛が駆け巡る。
「ぐわああぁぁ!」
痛い、痛い、痛い!全身を何かが貫いていく。全身が何かに押し潰されていく。全身が何かに締め付けられていく。
怖い、怖い、怖い!頭の中が、恐怖に支配されていく。どうしてこんなに怖いのか、不安が、焦りが、苛立ちが、一瞬のうちに思考の中をめぐり続ける。
どうしてこんなにも痛いんだ、苦しいんだ。腕が、足が、内臓が、複雑な痛みに壊されていくようだ。
何が起こってる?怖いよ、苦しいよ、痛いんだよ。どうして腕があるんだ?どうして足があるんだ?そんなもの、とっくに壊れてしまったはずだ。
心臓が高鳴る。ドクン、ドクンとうるさいほど大きな音を上げる。黙れ、うるさいよ!早く心臓が止まれば、こんな思いしなくても良いのに。
「殺せぇ! 殺してくれぇ!」
死にたい、死んで楽になりたい!なんでこんなに苦しいのに、なんでこんなに痛いのに、どうして俺はまだ生きているんだ。
早く俺を引き千切ってくれ!早く俺を押し潰してくれ!早く俺を刺殺してくれ!
早く俺を、楽にしてくれ!
「早く、殺してくれよぉ」
俺の望みを聞き届けてくれる者は誰もいない。一人でいる事がこんなに辛いとは思わなかった。
澪がいて、百花がいて、十六夜がいて。それが当たり前だった。
その当たり前が、今ここに無い事がすごく怖い。
もうこのまま、みんなに会えないのではないかと思うのが怖い。
みんなに心配をかけているんじゃないかと思うのが、すごく怖かった。
「みんな……助けて……」
この章で出す予定ではない設定を出してしまっていたので、76話をまるまる変更しました。
申し訳ありません。




