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報復なんて言わないで!


 町に戻ってくると、ハロージョブではなく、先日訪れたばかりの総合病院へ連行された。移動時間である程度体が動かせるようになったが、右腕の激痛は一向に和らぐことは無い。早急に診察を受けて欲しいという、所長さんの配慮だった。


「症状から判断すると、霊力封印の呪いを施されたようです。これは、外部からの霊力干渉だけではなく、自身の霊力に反応して呪いが発動します」


 診察を担当してくれた医師によると、俺の体内に霊力がある限り、右腕の痛みは治まらないという。しかも、スキルや魔法を使用すると、十六夜に回復魔法をかけてもらった時と同様、もしくはそれ以上の痛みや恐怖が全身を駆け巡るらしい。


 以前にも、闇ギルドの構成員に同様の呪いをかけられたワーカーが数人いたらしいのだが……


「根本的な治療方法は、我々ではわからないのです。呪術については、闇ギルドの人間以外その理論や法則がわかりませんので。幸い、呪術を使用した人間を捕縛してくださいましたので、当院でごうも……情報収集してみたいと思います」


 ぜひとも早急に、治療方法を吐かせていただきたいものである。よりによって利き腕が使用できないのだ。仕事だけではなく、日常生活に支障が出まくる。


 結局、病院では睡眠薬を処方されただけで、所長さんが待つハロージョブへと向かうことになった。



 俺が病院で治療を受けている間、百花と所長さんによる尋問大会が行われていたようで、所長室に通されてすぐ、大筋の説明を聞かせてもらえることになった。澪はまだ眠ったまま意識が戻らないようで、十六夜に付き添われて病院に残っている。そのため、説明は俺と百花だけで聞くことになった。


「みなさんのおかげで、あの場所で調査を行っていた者たちの所属と目的が判明しました。所属は『炎神(あぐに)』。以前、神楽坂がその象徴である炎神を奪った、闇ギルドだそうです。目的は、炎神の双剣と、核の残滓の回収」


 核の残滓っていうのは、具体的にどんな物なんだろう。核がどういう物だったか分からないのだから、その残りカスなんて余計に想像できない。


「双剣は、炎神の構成員の排除が終わるまで研究所で保管いたします。上級職パーティーを複数雇って、24時間の警備態勢を敷いているのでご安心ください」

「炎神の連中に双剣が渡ると、どうなるんですか?」

「炎神が復活するそうです」


 あの化け物が復活して、闇ギルドがその力を手に入れるとなると、また百花たちのような被害者が出るかもしれない。神楽坂は個人で動いており、生命力を集めることに苦労していたから、頻繁に炎神を使用できなかった。


それが、組織立って生命力を集め始めれば、それだけでも被害が多く出そうだ。そして、大量に集めた生命力を用いて炎神を使用されれば、日本などすぐに火の海になってしまうのではないか。


「それから、和泉さんの保護も考えております」

「俺の保護?」

「炎神の構成員は、九十九クンの命を狙っているそうです」


 いやいや。なんで俺、命狙われなきゃいけないの?


 あのおじさん、俺の顔と名前を知ってたのは、俺を殺すつもりで調べていたということか?もしかして、この前キングブラックベア討伐の時にこそこそしてた連中って、あいつらの仲間だったりするのかな。


俺の瞬動を躱したり、隙をついて呪いをかけられたのは、事前に俺のスキルを研究されていたからか?


「でも、理由が分からないんですけど?」

「報復です。『炎神様を殺した者に、炎神様の炎で報復を』。捕らえた敵の一人がそう言っていたです」

「炎神の構成員は、炎神を復活させ、和泉さんをその炎で消滅させるつもりです」


 俺にこんな呪いをかけたのは、炎神を打倒したスキルを使えなくするのが目的。あの時、俺を殺そうと思えば殺せたのにそうしなかったのは、炎神に俺を殺させるため、か。


 何それ怖い。子ども一人殺すのに、なんでそんな手間をかけるんだよ。


「闇ギルドには、それぞれ思想がありますからね。おそらく、炎神は彼らにとっての信仰の対象なのでしょう」

「だから、九十九クンにはしばらく、研究所で生活して欲しいんです」


 まあ、上級職のワーカーが24時間警備しているところなら安全だろう。呪いもあるし、自分で戦えない以上、保護してもらうのが一番だ。


「わかりました。お世話になります」




 研究所には、今日中に移動して欲しいということで、俺は自宅に戻って荷造りをすることになった。荷造りと言われても、着替えと暇つぶし用のゲーム機器を持っていくくらいかな?


「重い物があれば、ボクが持ってあげるです」


 百花が後ろで見張っていなければ、例のブツも隠し持っていきたいのだが、常時俺の右側に控えてくれている。下手な動きは見せられないな。


「九十九クン」


 俺の名を呼んだ百花を見ると、これまた随分と暗い顔をしている。最近、皆を泣かせたり暗い顔をさせたり、最悪な気分だ。


「ボクのせいです、とか言ったら怒るからな」

「で、でも……これは明らかにボクが原因です」


 百花は被害者で、悪いのは神楽坂と炎神とかいう闇ギルドの連中だ。


「もし責任があるとしたら、勝手に首を突っ込んだ俺が悪い」

「それは、結局ボクを助けるために……」


 いつまでも沈んだ顔の百花の頬に、そっと左手を当てる。


「まあ、百花のべろちゅーが衝撃的で、ゆっくり寝てられなかったのは原因かな?」


 そう言って笑った俺の顔を見て、やっと百花の表情が柔らかくなった。


「必要だったら、いつでもしてあげるです」

「中間試験前にでもお願いするかな」

「じゃあ、それまでに今回の件、片付けるです」


 今回の件が片付かなければ、中間試験は受けなくても良いのかな?勉強は苦手じゃないけど、試験勉強は面倒だからな。所長さんの権力で、試験結果だけ好成績で処理しておいてくれないかな。


「所長さんならやりかねないです」

「だよな」


 それが可能なら、卒業まで研究所で引き籠っていても良いかもしれんな。そうすれば、少なくとも俺の事で、百花にこんな顔をさせることも無い。


あんな顔、と言えば、何かを忘れている気がするのだが……


「俺は何か大事な事を忘れている気がする」

「なんです?」

「アタシたちの事です!」


 あ~あ。十六夜さん、激おこである。


 所長さんに言われるまま、家に帰って来て準備してたので、十六夜たちに連絡するのをすっかり忘れてた。そもそも、これから研究所に引き籠るって話もしてない。


「は? この後すぐ研究所に移動するんですか? 女の子は準備に時間がかかるんですよ?」


いやいや。炎神の連中に狙われてるのは俺だけだから、行くのも俺だけだよ?


「ちなみに、ボクの荷物はリビングに置いてあります!」

「どうせそうだと思いましたよ! アタシも急いで準備してきます」


 バタバタと音を立てて階段を駆け下りていく十六夜と入れ替えに、澪が部屋に入って来た。これほどしゅんとした顔の澪は、初めて見るかもしれない。


「九十九、護れなくて、ごめんね」


もし、澪が奮戦してくれなければ、俺はあの時連れ去られていた可能性だってあるのだ。どう考えても、しっかりと護ってもらえた。


「澪、護ってくれてありがとう」

「違う。私は九十九を護れなかった。病院で聞いたよ。その右手、呪いがかかってるって」

「それは澪のせいじゃないだろ? あの時、俺の判断で動いてた。俺は判断を誤って、澪まで危険な目にあわせた。だから、謝るのは俺だよ。ごめんな、澪」


 どうにも納得できないという表情の澪。困ったな。澪とはこれ以上拗れたくないのに。


「じゃあさ、右手が治ったら、澪の胸をさわら…ぐへ!」

「言わせないです!」


 百花さん、せめて最後まで……


「言わせないです。冗談で済む人と、冗談で終わらない人がいるんです!」

「大丈夫。本気で触らせてあげる」

「あ~あ、ですよ」


 いつもの冗談なんだけど、何か問題があっただろうか?別に、本気で触ろうとか思っていないのにな。


「澪も準備して来いよ。一緒に来るんだろ?」

「大丈夫。私は、いつもお泊りセットを置いてある」


 こいつ、そんな物いつの間に隠していたんだか。






気が付いたら連載1か月超えてました!

これからも連載続けていきますので、応援お願いします!

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