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空腹とおにぎりと依頼と


 隣の部屋に秘蔵物を隠し終わった俺は、自室に戻って百花の様子を見る。どうやらしっかり眠っているようだ。俺も一安心して、箪笥から一枚の毛布を取り出した。冬用なので少し熱いかもしれないが、まあ良いだろう。


 俺はもう一度百花の手を掴むと、ベッドにもたれかかる様に眠りについた。




「…きて……起きてください!」

「うお!」


 耳元で聞こえた声に、意識が一気に覚醒する。ベッドにもたれかかって寝たせいか、腰がかなり痛い。


ぐっと伸びをして目を開けると、腰に手を当てて怒っている十六夜の顔が目に入った。


 勝手に部屋に上がって来た事はとりあえず置いておいて、なんで十六夜は怒っているんだ?もしかして、寝坊して遅刻ギリギリなのか?


「違います。これです。こ・れ!」


 そう言って、十六夜は俺にボロボロのパッケージを見せる。そこには、十六夜が写っていた。


「何これ。十六夜の写真?」

「やっぱり! そう思ってこんなの見てたんですね!」


 どうやら、起き抜けでまだ頭が回っていない。十六夜の写真なんて、後頭部が写った写真しか持ってなかった気がするけど、さっきのボロボロの写真はなんだ?十六夜がわざわざそんなボロボロの写真を持ってきたのか?


「十六夜、この写真、髪の色違くね?」

「これ、アタシの写真じゃありません!」

「……」


 そう言われて、やっと理解した。十六夜が持っているのは、昨日百花が踏み砕いたブルーレイだ!


 十六夜の怒りを理解した瞬間、血の気が引いていくのが分かった。


 昨日の夜、無事だったブツだけ隠して、砕かれた物はそのままにしていた。百花と手をつなぐために、座って寝たのが裏目に出た。せめて横になっていれば、寝る邪魔になるから気が付いたのに。


「これ、昨日澪さんが言ってた妹物でも、シスターでもないですよね?」


 それらのブルーレイも、残骸の中である。


「あれ? そう言えば百花は?」

「とっくに起きて、庭で焚書してますよ!」


 本の類は燃やされているってこと?


昨日俺はブルーレイの心配しかしていなかった。本は、元の隠し場所に置いたままだった。つまり、それを持ち出した百花に、焼却処分されているってこと?


「そんな。本だけは無事だと思ったのに」

「これを機に、今後はこういうのは買わないでください!」


 そうだよね。毎回壊され、燃やされるくらいなら、買わない方が経済的にも環境的にも優しいよね。


「わかった。わかりました。それじゃ、朝食にしようぜ」

「ありませんよ?」

「え?」


 澪と一緒にうちに来たんじゃないのか?澪なら、早朝に来れば朝食くらい作ってくれそうなのだが。


「澪さんに、朝食は必要ないって言っておきました。今は、百花さんと一緒に焚書してます」


 マジご近所迷惑だから。ゴミは決められた場所と時間に出してください。


「それでは、朝食の時間を使って、これについて詳しく聞きましょうか」


 そう言って目の前でひらひら揺らされているのは、昨夜百花に真っ先にへし折られたブルーレイのパッケージだった。




 朝から十六夜に長々と説教され、学校では昼休みに、昼食の代わりに百花に説教をされ、朝から何も食べていない状態で放課後を迎えていた。


さすがに空腹で倒れそうだ。牛丼でもハンバーガーでもうどんでもなんでも良い。どこかでエネルギーを摂取したい。


そういう時に限って、急な仕事ってやって来るよね。三人に囲まれながら、ふらふらと駅前を歩いていたら、所長さんから電話が入った。


『申し訳ありません。急なお仕事を依頼したいので、すぐにこちらへ来ていただけませんか』


 そう言われれば、行かなければならない。個人の自由な職業であるはずなのに、これでは社畜のようである。


「なんだか元気が無いみたいですけど、大丈夫ですか?」


 心配してくれるのはありがたいけど、これ、キミのせいだからね?


「九十九、これ、食べて」


 そう言って澪が差し出してくれたのは、小さなおにぎりだった。これ、いつの間に作ったんだろう。お昼にお説教されている俺を心配して作ってくれたのかな?


ただのおにぎりだったが、今の俺にとっては、高級料理にも等しいごちそうだった。ハロージョブに向かう道すがら、俺はゆっくりとおにぎりを齧るのだった。



「急にお呼びして申し訳ありません。実は、先日お話した炎神との戦闘跡地で、少し問題がありまして」


 いつもの所長室に入ると、早々に所長さんが話始めた。かなり急を要する案件のようだ。


 所長さんによると、先日の跡地で、大規模な戦闘が行われたらしい。それも、魔獣を相手にしたのではなく、人間同士の戦闘だったらしい。


 片方は以前から報告のあった集団であろうが、相手が不明だそうだ。たまたまその場に居合わせたワーカーが襲われたのか、集団と敵対する勢力が現れたのかわからない。


 そのため、現場に赴いて状況を確認して来て欲しい、というのが今回の依頼だった。


「それは、いつ頃行えば良いでしょうか?」


 現場は車で2時間もかかる場所だ。高校生でもある俺たちでは、自由にできる移動手段が無い。仮に今から行こうとすれば、電車とバスを乗り継いで、調査を行ったとすると帰って来られなくなってしまう。


「こちらで往復のタクシーを手配します。明日朝にでも出発していただきたいのですが」


 とは言われても、明日は普通に学校だ。休むにしたって、4人全員で休むといろいろ面倒な事になりそうで嫌だな。調査だけなら、危険も無いだろうから俺1人でも十分だろうか?


「その辺はご安心ください。高校の方はこちらで手を回して、公休扱いにしてもらいますから」


 すげえな、所長さんの権力。敵に回さないようにしよう。


 しかし、もう一つ問題がある。百花は、あんな場所に行きたくないのではないか。いくら事件が解決していても、千花さんはいまだ目覚めていない。状態も良くわからないのだ。そんな中で、彼女たちが二年も苦しんだ場所に、百花を連れて行くのは気が引けた。


「ボクの事なら大丈夫です。九十九クンが、一緒に居てくれるんでしょ?」

「そりゃもちろん」


 百花が自分の意思で行くというのなら、止めることはできない。


「澪と十六夜はどうだ?」

「どうだって、アタシと九十九さんは一心同体ですよ? 当然一緒に行きます!」

「私も、九十九と一緒」


 何の躊躇も無くそう言った二人は、実に漢らしかった。


「それでは、翌朝タクシーを手配しますが、どこに迎えに出しましょう?」


 集合場所か。できればうちから近いところが良いけど、意外と俺たちの家、離れているんだよね。毎朝皆がうちに来るから感覚おかしくなってたけど。


「九十九クンの家で」

「九十九さんの家で」

「九十九の家」

「ふふふ。かしこまりました。それでは明日、朝7時に和泉さんの家にタクシーを手配しておきます」


 俺はいいけど、皆はそれで良いの?本当に、俺はありがたいんだけどね。



 打ち合わせを終えた俺たちは、各々帰路に着いた。明日は朝早いけど、夕食はしっかり取ろう。何せ今日は澪がくれたおにぎり一個しか食ってない。腹が減りすぎて気持ち悪くなってきた。


スーパーで適当に材料を買い込んで帰宅した俺は、再び絶望を味わうことになる。


「おかえりです。もう皆帰って来てるです」


 なぜか玄関を開けたら、百花が居た。しかも手には、昨晩こいつが砕いたブルーレイのパッケージが入った袋を持っていた。


「何してるの?」

「掃除? そんな事より、澪さんが食材を待ってますよ。早く持って行ってあげてください」

「澪も居んの?」

「皆帰って来てるって言ったです」


 つまり、十六夜も居るということだ。帰って来てるって、お邪魔してるの間違えだろ?ここは俺の家で、お前らの家じゃないんだよ?


「あ、お帰りなさい。遅かったですね?」

「お帰り。材料、預かるよ」


 リビングに着くと、普通にお出迎えされたし。澪は制服にエプロン姿だけど、十六夜はすでにパジャマ姿で、頭にはタオルが乗っている。


「あ、先にお風呂いただきましたよ」


 人の家で風呂まで勝手に使ってんじゃないよ!


「て言うか、なんでパジャマ?」

「それ、答えが分かってて聞いてるでしょ? 百花さんだけずるいんで、せっかくだから今日は皆でお泊り会ですよ!」


 空腹が限界のせいか、なんだか眩暈がしてきたよ。







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