砕けた宝とリボンの少女
しゃぶしゃぶ店から泣きながら帰ってきた後、俺は部屋の模様替えをしていた。特に本棚の裏と、勉強机の中身を中心に移動させる。今は両親がいないから、リビングに隠すか、それとも、あいつの部屋に隠しておくか……
「何々? 『くノ一調教120分』、『忍法でイカせてあ・げ・る』、『ボクっ娘美乳同級生の秘密』後は……」
「百花さん、いつの間に?」
背後から、ガサガサという物音と共に聞きなれた声が聞こえた。最早振り向くまでも無いので、彼女の手にしていないブツだけを必死に抱き抱える。
「なんでボクっ娘は巨乳じゃないんです? 悪意しか感じないです」
それはたまたまですよ~。他意は決して無いから、これ以上俺を辱めないでくださいね。
せめて抱えているブツだけは見られないようにと、俺は百花と距離をとろうとした。が、百花はそれを許してくれなかった。
背後から飛びついて来た百花は、両手を回してぎゅっと回して俺を抱きしめた。その衝撃で、俺が抱えていたブツは、バラバラと音を立てて床に落ちていく。
「今日は、ありがとうです。おかげで、ちょっと元気出ました」
わざわざそんな事を伝えに来たのか。律儀な奴め。
「今まで人に甘えたことが無かったから、こういう時、どうしたら良いかわからなくて」
幼少の頃から厳しい修業の毎日だった。以前百花がそんな事を言っていた。きっと百花は、誰かに甘えた事が無いのだろう。だからいつだって、一人で物事を解決しようとしてしまうのだ。
俺だったら、そんな生き方は絶対に無理だが、百花にとっては当たり前の事なんだろう。その考えの差が、俺と百花の日常に距離を感じさせた。俺は、どうすれば百花を幸せにしてやれるだろうか。
「少しずつだな」
「何がです?」
「少しずつ、お互いを理解すればお前を幸せにできるかなって」
「ぷ、プロポーズ、ですか」
どうしてそうなった?こういうところも、少しずつ理解していかなければならないな。
「今日は遅いから、早く帰れよ。送っていくか?」
「いいえ。まだ帰れないんです」
まだ寂しいのかな?もう少し話に付き合って欲しいのかな?
「だって、まだ焚書してないです!」
ぎゃああぁぁ!本当の目的はそっちか。っていうか、俺がさっきまで抱えていたブツが無くなってる。あれだけはまずい。澪にも見つかっていなかった、一番の危険物だ。よりによって、百花に見られては……
「あの、九十九クン?」
「はい」
「この女優さん、ボクに似てません?」
「そ、そうかなぁ。俺には良くわからないなぁ」
「こっちは髪の色が少し違うだけで、十六夜ちゃんにそっくりです!」
「に、似てないよぉ。十六夜はもっとこう、あれだろ?」
たまたまだ。本当にたまたま見つけて、ネット通販で買ってしまっただけだ。でも、百花の手で処分されるのなら、それが彼女たちの運命だったのかもしれない。甘んじて、受け入れよう。
「……これは、赤城さんにそっくりです」
い、いつの間に、それは百花が来た時点で服の中に仕舞ったはずだ!
「そ、それだけは……その子だけは勘弁してください!」
土下座である。深く深く、誠心誠意の土下座である。本当に、その子だけは勘弁してください。
「えい!」
「いやああぁぁ」
ぱっきりと、パッケージごと真っ二つにされてしまった。どうして、これほど真摯に頼んだというのに。
「ごめんなさい。ボクも、これだけは許容できなかったです」
「返せよぉ。俺の、たった一つのお宝なんだぁ」
涙ながらに、床を何度も叩いた。ちくしょう!俺の腕でも足でもくれてやる。だから、返してくれよぉ。
「そんな名作パクったようなセリフで言われても、無理なものは無理です。さ、赤城さん似の女の人が写ってるのは全部出すです」
渾身のボケもスルーされた。もう、言い逃れで残りのブツを救うしかない。このまま、涙を流し続けるしかない。
「もうお前が割っちゃったよぉ。澪に処分されたから、その一つしか残ってないから、止めてくれって言ったのにぃ」
「それを信じるほど、ボクは甘くないです」
「……信じてくれなきゃ、今ここで、百花似の女優さんのブルーレイを再生する」
「す、好きにすると良いです」
「あ、でもこの子、百花より胸がかなり大きいんだよなぁ」
「……」
無言で、百花は俺のブルーレイたちを踏み割り始める。や、止めてくれ!それを揃えるのに、どれだけワーカーの収入を注ぎ込んだと思っているんだ。
「大体、こんなの見なくたって、言ってくれれば、いつだってボクの体を見せてあげるです」
はい?今なんて?
「は、恥ずかしいから、後ろ向いてて、欲しいです」
「は、はいぃ!」
言われるまま、俺はぐるりと体ごと後ろを向く。なんだ、どうしてこうなったんだ?
後ろを向いた俺の耳に、しゅるしゅると何かが擦れる音がする。これが、制服を脱ぐ音だとでもいうのか!ドキドキを通り越して、心臓がバクバクと高鳴っている。落ち着け、深呼吸だ。
そうやって気持ちを落ち着けようとした瞬間に、俺の頭に何かほんのりと温かい物が乗る。ふんわりと甘い匂いのするこれは、百花のスカートだった。
百花の奴、本気で脱いでいやがるのか!そしたら俺、この後どうしたら良いの?
「もう、良いです。こっち、向いてください」
俺はごくりと唾を飲み込み、ゆっくりと振り返る。その視線の先には、一糸纏わぬ百花の姿が……
「ふっふっふ。残念でした」
「ちっくしょー」
一糸纏わぬどころか、パジャマを着ていやがった。制服の時よりも露出度下がってるし。俺の純心を弄びやがって!
「ていうか、なんでパジャマ?」
「もう寝るからですよ?」
「じゃあ、なんでパジャマなんだよ?」
「だから、もうここで寝るんです」
どうしよう、意味が分からない。いや、言っている意味は分かる。つまりこいつは今夜うちに泊まるということだ。だが、理由が分からない。なんで?
「さっき、一緒に辛い思いをしてくれるって、言ってくれたです」
どれだけ明るく振る舞っても、寂しいって事か。百花も一人暮らしだし、家に一人でいるのが不安なのかもしれないな。だったら、今日ぐらいは泊めてやっても良いか。
「じゃ、早く一緒に寝るです」
「それはつまり、一緒にエロエロで気持ち良い事をしたいってこと…がは!」
そこでボディーブローはおかしいよね。結構マジなやつが結構やばい位置にめり込んでんですけど。
「そ、そんな事するつもりはないです! でも、できれば、手、つないで欲しいんです」
「じゃあ、百花が寝るまで、手、つないでてやるよ」
「はい!」
嬉しそうにそう言った百花の頭を軽く撫でると、彼女の手を軽く握った。
「おやすみ、百花」
「九十九クン、おやすみです」
百花がベッドに入ったのを見て、そう告げる。彼女も返事をして、そっと目を閉じた。
なんか良い感じに終わりそうだったのだが、俺には重要な使命がある。百花の手を逃れたこいつたちを、俺は逃がしてやらなければならない。
百花が寝たのを確認し、俺は行動を開始する。あの時、全部引っ張り出してなくて本当に良かった。こいつらは、俺にとっての最高戦力だ。失う訳には、いかないんだ。
俺の部屋はダメだ。すでに澪は俺がどこに隠すのか、ある程度当たりをつけているはずだ。両親の部屋は?いやいや、いくら何でも思春期男子が親の部屋にこういった高尚な物を隠せるわけが無い。そうなれば、後はあいつの部屋しかないか。
俺はこっそりと自分の部屋から出ると、隣の部屋へ移動する。
その部屋には、主であるあいつ、『八雲』の名前が書かれたネームプレートがぶら下がっている。この部屋には、澪ですら遠慮して近づかない。ならば、この部屋に隠すしかあるまい。
部屋に入ると、少し埃が舞った。そう言えば、ここの主から定期的に窓を開けて換気するように言われていた気がする。
電気を点けて周囲を見渡す。一番に目に入って来たのは、机の上に置かれた写真立て。その写真の中には、おそらく幼稚園の頃の俺と、ここの主。そして、フリフリのドレスを着て、頭に大きなリボンを着けた、澪の姿があった。
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