しゃぶしゃぶ食べ放題事情聴取付き
食べ放題。時間内であれば決められたメニューを好きなだけ食べられる、育ち盛りの高校生男子にとって、夢のような場所だ。
しゃぶしゃぶはその最たるものだ。注文した肉をすぐに口に入れられる。お腹の限界まで、肉を胃に流し込める。そのはずなのに、開始から20分、俺の取り皿には、未だ肉が入ってこない。
「おいしい」
「次は牛肉にするです」
「すいませ~ん。牛肉8皿追加でお願いしま~す!」
初期セットで野菜を食わされて以降、俺の手には、灰汁取りが握らされており、延々と灰汁を掬わされている。これは、誰かが俺に食べさせてくれているという、甘い感じでは断じて無い。俺の口に、一切れさえ肉が入ってきていないのだ。
「十六夜さん。全て分け合うって話は?」
「九十九さん知らないんですか? 高校生にとって食べ放題とは、戦争なのです!」
キングブラックベアとの戦闘でさえ、離れたくないと豪語したくせに、食べ放題は別なんですね。食べ放題が戦争って、体育会系男子の発想だと思うんですけど?
「九十九クン…もぐもぐ。ピンポン…もぐもぐ」
こちらに目を向ける事無く、百花が言う。しゃべるのも勿体無いとでも言わんばかりに、必要最低限の単語しか言わない。元気が出たのは良いが、女子としてそれで良いの?
「……」
そして、無言で食べ続ける澪。本当に、女子としてそれで良いの?女子同士で食べ放題に来ると、これくらい普通なのか?一応、男子がいるんですけど?
「普通、女の子同士でしゃぶしゃぶの食べ放題になんて来ませんよ。ケーキバイキングがせいぜいです」
「俺とちゃんとしゃべってくれるのは、十六夜だけだよ」
「じゃあ、おつまみメニューも注文してください」
そうだね。お肉以外にも、サイドメニュー頼めるもんね。お口直しも大切だよね。
このまま女子たちの暴食は続き、俺が肉を食べられたのは、オーダーストップの10分前だった。もうね、ラストオーダーって言われた時は限界まで肉頼んだよ。
灰汁取りも十六夜が代わってくれたので、俺は無心で肉を食べ続ける。
「澪さん。この前九十九さんの好みの女性を教えてくれましたけど、外見的にはどんな女の子が好みなんですか?」
お口が暇になった女性陣は、俺の事を気にせず世間話に花を咲かせていた。
「昔は、黒髪ロングのストレートヘアーが好きだった。身長は、5センチから10センチ低くて、体型は普通から細身くらいが丁度良いって言ってた」
無心で食べる。お肉うまぁ。
「後、おっぱいは、大きすぎず小さすぎずの手頃なサイズが好き」
もぐもぐ。豚しゃぶポン酢うまあ。
「でも、この前本棚の裏で、『いけないロリ巨乳シスター』とか、『エッチなくノ一忍法帳』とかって本を見つけた」
「……」
「……」
「……」
こういう時は、ツッコんだら負けだ。無心だ。無心で肉を食うんだ。
「剣道少女特集が無かったから、買い足しておいた」
「澪さん、エロ本の話はもう良いです。九十九クンは、後でぶっ殺すです」
いやいや、百花は一度だって忍び装束着てたことなんてなかったじゃん。スキル以外、忍びの要素皆無じゃん。それに、何もエロ本の話なんてしてないよね。タイトルがエロいだけの、高尚な参考書だった気がするな。
「エロ本は後で燃やすとして、澪さんの外見、昔の九十九さんの好みのまんまですね」
「雰囲気も、昔の九十九クンの好みです」
ふぅむ。言われてみれば、昔からそんなタイプの女の子が好きだったな。清楚なお嬢様で、物静かな世話焼きタイプ。
「でも、九十九は、一度もちゃんと私を見てくれなかった」
寂しそうに俯いた澪を見て、十六夜と百花は俺を睨み付ける。待て待て、こっちにだって理由がある。当時の澪の恐ろしさを知らないから、キミたちはそんな顔ができるんですよ。
大体、6年間も毎日木刀で殴り殺される恐怖と戦い続けて見てください。振り下ろされる木刀の音が耳から離れなくなったり、自分の喉を穿とうとする剣先の軌道を夢に見たり。
気が付けば、澪を見たら逃げるという条件付けがなされていたんだよ。
道場で対面しても、木刀の切っ先ばかり見ていたので、澪個人を見つめるなんてしたことは無かったと思う。
「できれば、今夜は剣道少女特集を使って欲しい」
「使わないよ! こんなところで何さらっと話ぶった切ってバカな事言ってんの?」
「じゃあ、も、もしかして、巨乳シスターを使うんですか?」
「くノ一忍法帳は早急に燃やすです!」
なんで女子とエロ本の話しないといけないの?使うとか使わないとか、こんなところで大声で言わないでくれよ。これ、俺に対するセクハラとモラハラのコンボ攻撃だからね?
まあ、おかげで雰囲気が変わったから良かった?いやいや、周囲のお客さんからなぜか俺が変態みたいな目で見られてんだけど。
「そう言えば、最近『妹シスターの口説き方』っていうブルーレ……」
「澪さん! 澪さんそれ以上はダメです」
「じゃあ、『ちょっとエッチな同級生、放課後の教室で秘密の忍法レッスン』っていう……」
「違います! それは祐樹が勝手に置いていったんです!」
「幼馴染ものが無かったから、勉強机の……」
「なんで正確に隠し場所まで把握してんの? 鍵だってしっかりかけてあったはずなんですけど?」
「それは秘密」
百花以上に忍者のスキルでも習得してるんじゃないだろうな?一応、母親にも見つかったことないんだけど。
「九十九クン九十九クン、もしかしてボクの事、エッチな女の子だと思ってますか?」
やめてやめて!それじゃあまるで、俺がそのブルーレイ見ながら百花の事考えてるみたいじゃん!
「九十九さんは、アタシは別に、今さら口説かれなくても……」
なんで十六夜が赤い顔してんの?羞恥で死にそうなのは俺の方だよ?
「澪、これどうすんだよ。これじゃあ、俺がブルーレイ見ながら二人を……みたいじゃないか!」
「でも、最近追加された『地味で清楚な隠れ美少女~先輩、もっと教えて』というブルーレイだけは許容できなかった。ごめんね」
それ、まだ見て無いやつじゃん!許容できなくて、どうしちゃったの?
「見つけた瞬間に、手が勝手に……」
もうこの世には無いというのか。せめて一目だけでも拝見したかったのに。
「それ、誰の事です?」
「九十九さんの可愛い後輩は、アタシだけで十分なはずですよね?」
どうすんのこれ。店員のお姉さんたちまで、こっち見てひそひそ話してるんですけど。もうこの店来れないじゃんか。
「百花さん。これは、検閲が必要じゃないですか?」
「ボクは検閲ではなく焚書が妥当だと思うです」
俺、これから女子3人に自室を荒らされるんですか?そのうえで、私物を燃やされてしまうんですかね?
「できれば、私が買い足した、幼馴染ものだけは残して欲しい」
「必要ありません! 大体、九十九さんはアタシたちにちょくちょくエッチなことするくせに、まだ足りないんですか?」
堂々と嘘吐くのは止めて!俺がいつ皆にエッチな事したというのか。
「私、してもらったこと、無い」
ほらね、してないじゃん!
「十六夜は、いつも九十九に抱き着いておっぱい押し付けてるし、この前パンツも見せてた。百花は、3回もキスしたし、いつもおっぱい触られてるのに」
「あ、アタシはお、胸なんて押し付けてません!」
「ぼ、ボクだって、いつもは触らせてないです!」
「あの、お客様?」
この三バカが!とうとう店員さん来ちゃったじゃん。
「警察、呼びましょうか?」
憐みの表情で、女性陣を見る店員さん。そして、いつの間にか増員された男性店員さんに囲まれている俺。
この後俺は、店員さんたちが納得するまで、スタッフルームで釈明を続けた。保護者代理として来てくれた笠間神父と桜山師範が弁明してくれた事で、何とか解放されたのだが、言葉の端々で、『うちの孫の婿』という言葉が乱用されていたのは、どういう意味だったのだろうか。
ブックマーク・評価をいただけると励みになります。
今後もよろしくお願いします。
最近、前半部分をちょっとずつ書き直してます。出来次第再アップしていきます。




