気が付けば厄介事に巻き込まれてます
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本日から新章スタートです!
桜の花も散り終わり、木々が新たな若葉を生やす時期になった。この桜のせいで事件に巻き込まれたのは、もう二週間前の話だ。桜に施されていた呪術は、あの時に消滅してしまった。それ以来、桜の木の下で倒れる生徒はいなくなったらしい。
百花は所長さんの話通り、被害者という扱いになり、罪に問われることは無かった。千花さんはあれ以来、時折意識を取り戻しているが、完全に回復するにはまだ時間が必要らしい。俺たちのパーティーに加入して事後処理を行うことで、治療を継続して行ってもらえることになったそうだ。
そして俺たちは、怨敵との再戦を果たしていた。
「ぐわああぁぁ!」
春休みに討伐を失敗して以来、キングブラックベアは誰にも討伐される事無く成長を続けていた。その体長は6メートルを超え、あの洞穴では生活できなくなってしまい、森の中を徘徊して、近隣に被害を続出させていた。
ここまで成長させてしまった理由の一端は、俺たちにある。所長さんから相談された際に、断れなかった。以前の大きさでも俺たちには全く歯が立たなかったが、さらに成長したキングブラックベアとは絶対に戦いたくなかったのに。
「十六夜!」
「ホーリーシールド」
十六夜の発動させたシールドは、突進してきたキングブラックベアを吹き飛ばす。しかし、その反動で白銀の膜にも亀裂が走った。
「これ、次で壊れますよ」
以前に比べて十六夜のシールドの強度も上がっているのだが、同様にキングブラックベアの攻撃力も跳ね上がっていた。一撃でも攻撃が当たれば、即死の可能性もある。特に十六夜は耐久が最も低いので、俺が背負いながら逃げ回っている。
いや、本当は十六夜を後方に置いておきたかったのだが……
「怖い思いをする時も、アタシと九十九さんは一緒ですよ!」
という謎の主張を繰り返し、結局俺たちが折れた。俺としては、危険な時にシールドを展開してもらえれば心強いのだが、回避に失敗すれば、俺ではなく十六夜が死ぬ可能性があるのが最も怖い。
「九十九さん、死ぬ時は一緒ですよ?」
なんて言われても、怖いだけだよ。
そんな訳で、俺は十六夜と共に最前線にいるわけだが、次の攻撃をどうしたものか。シールドが耐えきれないのなら、躱す以外あるまい。
「ぐああぁぁ!」
「よっと」
キングブラックベアが振り下ろした巨腕が、白銀のシールドを叩き割る。その瞬間に俺は後方に飛び退き、攻撃を躱す。
「澪!」
「桜観斬月流剣術……月牙」
「ぎゃああぁぁ」
隙の出来た背後から、澪の突きが炸裂する。以前は通らなかった刃が、今回はその肉に突き刺さり、血が噴き出す。キングブラックベアはゆらりと体を揺らし、悲痛の叫びをあげた。
「雷拳」
悲痛に歪む敵の顔面に、雷の拳を叩きこむ。以前に比べて雷の効果があるようで、キングブラックベアの動きが急激に鈍くなった。敵は澪ではなく俺を見据えたまま、次の攻撃を繰り出すために力を溜めている。
一瞬の後、キングブラックベアは俺に向かって突進する。
「水遁・水縛陣」
キングブラックベアの巨体に、流水が襲い掛かる。もがき苦しみながら必死に振り解こうとするが、それは全身を拘束し、身動きが取れなくなってしまう。
「桜観斬月流剣術・奥義が五……大斬月」
完全に動きを止めたキングブラックベアの首に、巨大な斬撃が襲い掛かる。おそらく頸動脈まで届いたのであろう。首筋からは霧のように血しぶきが噴き上がり、周囲を鮮血で染め上げていく。
「ぐう…ぎゃああぁぁ!」
おそらく長くはもたないだろう。それでも、水流が消えて自由になった体を振り回し、執着に俺を狙って攻撃を続ける。
このまま出血で死ぬまで躱し続けることもできただろう。しかし、それまでもがき苦しむさまを見ていられない。俺はキングブラックベアを見つめ、大きく息を吐く。
「崩拳」
俺の拳はキングブラックベアの頭部に突き刺さり、そこからその体はボロボロと崩れ落ちていった。遺体は残らずに、風と共に消えていくのだった。
「ふへぇ。終わったぁ。前より全然楽勝だったな」
だって、今回は無傷だったもんね。痛い思いをしなくて良かったよ。だから十六夜さん、そろそろ降りてくださいます?お兄ちゃん、もう疲れちゃったよ。
「誰?」
気を抜いて腰を下ろしていた俺の後ろに向かって、澪が叫んだ。刀の柄に手をかけているということは、臨戦態勢だということだ。俺も慌てて立ち上がり、構えを取る。
藪の中からガサガサという音が聞こえてくるが、何かが飛び出してくる様子は無い。できれば魔獣が飛び出してくるのは勘弁願いたいところだ。
「逃げたみたい」
「何がいたと思う?」
「たぶん、人間。少なくとも、5人はいた」
近くでたまたま狩りをしていたワーカーのパーティーだろうか?ここの周辺は、キングブラックベア―が徘徊しているので、立ち入りが規制されているはずなのだが。
「追うです?」
何者がいたのかは気になるが、わざわざ危険に首を突っ込む必要は無いだろう。今日の仕事は完璧にこなしたのだ。
「帰ろう? 疲れたよ」
「アタシ、重かったですか?」
「それ、なんて答えるのが正解?」
なぜか無言で俺の首を締め上げる十六夜。答えないのも不正解って、この問題難し過ぎるでしょうが。そんな事より、とっとと仕事の報告を終えて帰りたいな。
「皆さま、キングブラックベアの討伐、お疲れさまでした」
そう言って労ってくれる所長さんの手には、何枚かの書類が握られている。もしかして、もう次の仕事を紹介してくれるのだろうか。
「いえいえ。こちらは、炎神を討伐した際に、私が回収した『炎神の双剣』の写真です。ある研究施設で解析を依頼していたのですが、わずか二週間で報告が上がってきました」
そう言いながら見せられた書類には、紅蓮の柄に煌めく銀色の刃を持つ、二対の剣の写真が添付されていた。
「これは炎神の体の一部だったと伺いましたが、現在これは、実態のある本物の剣になっているそうです。それも、現存するどんな鉱石にも該当しない金属。強度はダイヤモンド以上。そして、霊力を込めると炎が発生するそうです」
それを聞いただけでも、物凄い性能だということが分かる。この世界で最も硬い炎の剣。ゲームで言うと炎の魔剣とでも言うのだろうか?
「分類としては、『神剣』と定義付けられています。過去にも、これに匹敵する強度と性能を持つ神剣が発見されています」
ちょっとワクワクしてきたぞ。神剣なんて、最強の武器みたいで格好良いな。俺がこっそり持ち帰ってくれば良かったと、ちょっと後悔してしまう。とは言っても、俺は剣が使えないから、宝の持ち腐れなんだけどね。
「国内では、これ以外に二振りの神剣が確認されています。一つは、勇者が最上級の雷の魔人を討伐した際に得た『雷の神剣』。もう一つが、水神と言われる水龍が守護していた『水の神剣』です。これが三つ目の『炎の神剣』となるでしょう」
国内に三振りしかない神剣、か。発見者として名前が残ったりして。
「現在、『炎の神剣』の所有権は発見者の和泉さんにあります」
「は?」
「ただ、問題が一つあるのですが……」
こっそり持ち帰ってくれば、なんて思ってしまったばっかりに、どうやら俺は神剣の所有権を得てしまったようである。厄介事と一緒に。
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