カップル専用観覧車 前編
「申し訳ありませんでした」
おバカ三人組を並べて、俺は赤城さんに謝罪をする。俺が悪い訳では無いのだが、申し訳ない気持ちはあるので頭を下げるのは筋だろう。
「すいません、状況が上手く掴めないんですけど」
そうだよね。俺もこの状況を上手く説明できないから、全部すっ飛ばして頭下げちゃったし。澪と百花に関しては、こいつら悪びれる様子もないし。
「そもそも、赤城さんが悪いで…ぐわん」
開口一番、アホな事を言おうとした百花の頭を引っ叩く。
「何するです! 人のファーストキスを奪っておいて、ボクの扱いが雑すぎます」
「お前会話の流れ無視して何言ってくれてんの!」
ほら見ろ、完全に引いてるじゃないか。これから説明責任を果たさなければいけないんだぞ。どうして俺の霊力を根こそぎ吸い出していくんだよ。
「吸い出したのは九十九クンです。ボクはしっかり流し込んであげた…きゃん」
「あ、あのね、赤城さん。こいつは痴女で、下ネタしか言えないんだ」
「ちょ、ちょっとさすがにそれはモゴモゴ」
もう両手で口を塞ぐしかないよね。話が進まないし、俺の評価が地面突き抜けていきそうだもん。
「ねえ、九十九」
そしてもう一人、空気の読めないおバカが動き出す。俺の両手はもうこの痴女を抑えるのでいっぱいだからね。お願いだから、変な事言わないでよ。
「あれ、乗りたい」
説明とか謝罪とか自己紹介とか、それら全てをぶった切って、澪は遊園地の中央にそびえる、巨大観覧車を指差した。
「それじゃあ、じゃんけんで順番を決めるです!」
赤城さんに何も状況を説明しないまま、俺たちは観覧車の前まで来ていた。澪の発案で観覧車に乗ることになったのだが……
「勝った人から順番に、九十九クンとカップルシートに乗るです!」
観覧車に一台しかない、外から見ても気色の悪い、ピンクのハート型カップルシートに全員が乗りたがった。女性同士では乗れないということで、自然と俺が4周も乗る羽目になってしまったのだ。
通常の列とは別に、カップルシートの列は並んでいる。その列の中で、異様な雰囲気を放っているのが俺たちである。女子4人に対して、男子は俺1人。しかも女子を入れ替えて4周するのだから、周囲からの視線も痛い。
一応この待ち時間を使って、赤城さんに改めて三バカを紹介し、謝罪をさせた。着いてきた理由は、赤城さんの前で聞くと面倒そうなので、観覧車の中で聞くことにしよう。
「私が、一番」
そして、恐怖の時間である。最近距離が近くなってきたとは言っても、密室で二人はまずい。過去のトラウマが、俺に逃げろと警鐘を鳴らす。全身から冷や汗が噴き出し、足が震え出す。だけど、ここで逃げるわけにはいかない、よね?
「だ、だだだ、誰か、澪の刀預かっててくれ。わ、わわわわ、脇差とかは、も、持ってないよね?」
「さすがにビビり過ぎです。大丈夫、澪さんの武装は全てこちらで預かってるです」
「九十九、早く」
震える手で、澪の手をとる。震える足を必死に進め、どうにか観覧車に乗り込んだ。そして、絶句した。ゴンドラの中は内装の至る所までピンクに塗装され、ハートに形作られた背もたれの椅子は、座るスペースがめちゃめちゃ狭い。壁に書かれた説明には『男性がしっかり抱きしめてあげましょう』と、アホな事が書かれていた。
「澪、俺床に座ってるから」
「ダメ、抱っこして。お姫様抱っこがいい」
澪は俺を突き飛ばして無理矢理椅子に座らせると、俺の膝の上に座る。
「ぎゅっとしてくれるなら、これでもいいよ?」
「ぎゅっとしないとダメ?」
「ダメ」
俺は渋々澪の腰に手を回し、後ろからぎゅっと抱きしめた。本当に、世間のカップルはこれの何が楽しいんだろうか?
「それで? なんで着いて来ちゃったの?」
そもそも俺が嘘を吐いてここに来たのが悪いのだが、何も尾行までして着いてくる必要はないはずだ。
「だって、九十九、ああいう子、好きでしょ?」
赤城さんの事か?確かに清楚な感じで思いやりのある女神様だからな。一緒に居れば癒される。好みか好みじゃないかと言えば、内角低め一杯の剛速球。手が出せないって感じかな。
「でもその剛速球が、九十九に目掛けて飛んで来たら、どうする?」
そりゃ避けるわ。なんだよ、こいつら俺が赤城さんに手を出すとか思って着いて来たのか?いくら何でも信用なさすぎるわ。
「違う。せっかく一緒に居られるようになったのに、また離れ離れになっちゃうかもって、不安になった」
そう言って澪は、俺の腕を掴む手に力を込めた。そんなに心配しなくても、お前が離してくれないだろうが。
結局俺は澪を膝に座らせたまま、15分の苦行を耐え抜いた。満足そうに観覧車を降りていく澪。ぐったりとしながらそれを見送ると、今度は百花が飛び乗って来た。
「これ、ちょっと恥ずかしいです」
そう言って、百花も俺の膝の上に座る。俺と、向かい合う格好で。
「百花さん。これ、向きおかしくね?」
「ふんだ。どうせボクは痴女ですから、こんな格好がちょうどいいです」
さっきの事を気にしていたようで、そう言ってむくれていたが、すぐに俺の首に手を回して、ギュッと抱き着いてくる。
「お前も俺がどっか行っちゃうと思ってるの?」
「違いますよ? ボクは、十六夜ちゃんのために着いてきたです」
最近の十六夜は確かに変だ。怒っていたかと思えば急に泣き出すし、下手に触れれば爆発しそうで怖いんだよね。それを百花がどうにかしてくれるんなら、こっちとしては助かる。
「どうにかするのは、九十九クンです」
「本当になんでお前着いて来たの?」
「忍びは暗躍するのが仕事ですよ」
肝心な事は何も言わないまま、百花は観覧車から降りていく。結局こいつは、俺に何をさせたいのか。
そして次に乗ってくるのは、赤城さんである。いやいや、赤城さんマジで乗るの?
「わ、私は、お姫様抱っこでお願いします!」
しかもリクエスト付きである。意外とノリノリでびっくりしたよ。
ここで断ると本当に申し訳ないので、俺はあきらめて彼女を膝の上に乗せた。
「ごめんね。こんなのに乗せちゃって」
「いいえ。私もこれに乗ってみたかったんです」
『恋人たちの庭園』の時もそうだったが、カップル専用のアトラクションが好き過ぎません?確かに他のゴンドラと比べれば特別感はあるけど、普通良く知らない相手とこんな格好で観覧車なんか乗りたがらないよ。
俺なんて、赤城さんを膝に乗せるってだけで動揺してるのに。赤城さん、どうしてあなたは平気な顔で俺の首に手を回してこれるの?
最近の女子高生って、こういうのは日常茶飯事なのかな?
「えっと、緊張してますよ。私、こんな事、したことないんです」
そう言って頬を染める赤城さん。転生の女神も彼女を見習った方が良いよ。コミュニケーション能力とかさ。
「聞いても、良いですか? あの人たちとは、どういう関係なんですか?」
その質問の答えが、俺にはすぐに出せなかった。ただの友人というには、付き合いが深いような気がする。かと言って、友人以上の関係って、伝えるのが難しいな。友達以上恋人未満って、言うのは簡単だけど、意味は重いよね。誤解無く伝えるには、必要な言葉が思いつかない。
「誰かと、付き合ってたり? 百花さん、でしたっけ? あの人と、き、キス、したって」
「あれは、人工呼吸、みたいな救命措置だったんだよ。別に誰かと付き合ってるわけじゃないしね」
「そう、ですか」
百花の発言のせいで、俺の思考がぶっ壊された。真面目に答えを探していたのに、もう思考が言い訳方向にしか向かない。もう、百花と俺の関係なんて、痴女とその被害者で良いんじゃないだろうか。
「和泉さんは、あの三人の誰かと、付き合いたいと思ってるんですか?」
「ふぁ?」
変な声が出ちゃったよ。何てこと聞くんだこの子は。あいつらは確かに大切な仲間だけど、そういう目で見たことなんて一度も無い。きっと彼女たちもそうだろう。せっかく俺を信頼してくれているのに、そんな目で見るのは失礼だ。
「あいつらは大切だけど、付き合いたいと思ったことは無いよ」
「じゃあ、私が付き合いたいって言ったら、どうしますか?」
「ふぇ?」
本日二度目の変な声を上げた俺は、頭の中が真っ白になってしまうのであった。
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