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ミニブタが良い仕事をしています


 日曜日、駅前は家族連れやカップルで溢れ返っていた。こういう時、カップルを疎ましく思う気持ちがあるのに、自分は女子と一緒に出掛けたいと思わない。そんな俺が、今日は女子とお出かけをするんだから不思議な気分だ。


「和泉先輩、お待たせしました」


 やばい、女神様がご降臨なされた。軽く手を振りながら小走りでやって来る赤城さんには、後光が見えた。


「お待ちしておりました。本日はよろしくお願いします」


 俺は軽く頭を下げて、赤城さんにそっと手を差し出す。その手をとって、彼女はにっこりと笑ってくれる。


「ふふ。なんだか硬い挨拶ですね。いつも通りで良いのに」


 そうは言っても、普段俺の周りにいる女子への対応をすると、失礼になってしまう。


「俺の知り合いの女子って、結構変わり者が多いからさ。あいつらと同じ対応をすると、さすがに失礼だから」

「そうなんですね。でも、気を使ってもらえてうれしいです」


 なんかもう、今日は一日ここでしゃべってて良いんじゃない?遊園地行くより楽しいんだけど。



 電車に揺られること一時間。バスに乗り換えて20分。意外と遠いところまでやってきた。


移動時間を利用して、赤城さんがいろいろと教えてくれたのだが、『万葉ハイランドパーク』は、乗り物系のアトラクションも多いが、乗馬や動物ふれあいコーナーなどもあって、家族連れに人気な遊園地らしい。


 俺としては、最近絶叫系アトラクション以上の恐怖体験をしているので、できれば動物をもふもふしていたいな。


「和泉先輩、何か乗ってみたい物ってあります?」

「う~ん。赤城さんはどういうのが好き? 俺は動物がもふもふできれば良いから、混む前に赤城さんが乗りたがってたアトラクション乗っちゃおうよ」

「良いんですか? ありがとうございます」


 うんうん。動物をもふもふするより、赤城さんの笑顔を見ている方が癒されるよ。


 そう思っていた時期が、俺にもありました。


「うぎゃああぁぁ!」


 連続回転をした後に高速でコースターが落下した時、俺は絶叫をあげていた。


このジェットコースターはここの目玉で、最高到達点800メートルから時速100キロで落下するのが最大の絶叫ポイントらしい。まさに今、俺たちが体感しているのがそれである。


確かに俺は、赤城さんが乗りたいアトラクションを先に、と言ったのだが、まさかその全てが絶叫系だとは思わなかった。現在5つ目なのだが、すでに胃液が大変な事になっている。


「せ、先輩、大丈夫ですか? 少しあそこで横になりましょう」


 ジェットコースターから降りてすぐ、俺の悲惨な顔色を見た赤城さんが、俺をベンチまで誘導してくれた。正直助かる。現状、いつリバースしてもおかしくない状況である。


「あ、あの…よろしければ、こちらに、どうぞ」


 先にベンチに座った赤城さんが、頬を染めながら自分の膝を叩いている。ということは、膝枕してくれるってことか?


「えと、じゃあ、失礼します」

「は、はい。少し、休んでください」


 お言葉に甘えて、俺は彼女の膝の上に頭を乗せた。甘い香りと柔らかさに包まれて、意識が徐々に薄くなっていく。そんなまどろみの中、体をぬくもりが包んだ気がした。これはそう……


「十六夜……ありがとう」


 十六夜の回復魔法に包まれた感覚に似ていたせいか、そうつぶやいてしまった。



 どれだけ横になっていたのか、意識が戻ると気分の悪さはすっかり無くなっていた。赤城さんの膝枕、恐るべしである。


「ありがとう。おかげですっかり良くなったよ」

「ふふ。良かったです。それじゃあ今度は、先輩が行きたがっていたふれあいコーナーに行きましょう」


 待ってました。癒しのもふもふ空間。とはいっても、すでに先ほどの膝枕で十分癒されてしまったんだが……


 ふれあいコーナーに着くと、『ミニブタ』と書かれたコーナーが目に入った。豚と言えば3か月程度で出荷されるほど成長が早いと聞いたことがあるが、ここにいるミニブタたちは、頭に乗せられるくらいの小ささだった。手を出すだけですり寄って来る彼らを抱きしめて、もふもふする。最高の癒しだった。


「きゃ、ちょっと、ダメ……」


 俺が癒しを感じていると、隣から熱の籠った声が聞こえてくる。


「や…先輩、見ないで……ください」


 そう言われて、俺は目が離せなくなってしまう。


 なんということでしょう。小さな天使たちは、女神様のスカートをたくし上げるように群がって、数匹がその中に侵入していく。スカートの裾がめくれることによって、白い太ももがあらわになり、その面積を拡大させていく。別の天使たちは、上着の裾からの侵入を試み、女神様のおへそが顔を出していた。


「赤城さん、今取ってあげるから」

「え、ええぇ。だ、ダメですよ。まだ、はや、すぎますぅ」


 言ってることは良くわからんが、心情は良くわかった。俺がミニブタを取るということは、スカートや上着の中に手を突っ込むということだ。さすがにそれは嫌だろう。しかし、どうにかしてやらんと、服も汚れてしまうだろう。嫌がられるのを覚悟で、手を出すしかないか。


 俺は覚悟を決めて、赤城さんのスカートに手を伸ばす。


「あで!」


 もうちょっとというところで、邪魔が入った。俺の後頭部に、何かが直撃したのである。


「いってて、なんだこれ?」


後頭部を押さえながら後ろを確認すると、『ミニブタのえさ』と書かれた包みが落ちていた。包みを広げると、赤城さんに群がっていたミニブタたちが押し寄せてくる。エサを食べる姿は可愛らしいのだが、すごく残念な気分だ。


「え? せ、先輩。ありがとうございます」


 服装の乱れを正してしまった赤城さんが、頬を染めてやって来る。本当に残念でならない。なんか狙ったタイミングでエサが飛んできたけど、どっかに百花でも潜んでいるんじゃないだろうな?


 周囲を見渡してみるが、それらしい姿は無かった。ただあいつは、影に潜んでたりするからな。


「とりあえず、出ようか。どこかに桃色忍者が潜んでるかもしれないし」

「え? 桃色忍者、ですか?」


 ああ、余計な事言っちゃったよ。赤城さん、困ってるというより、若干引かれた顔しちゃったよ。話を逸らすためにも、とっととここから離れよう。


 俺は赤城さんの手を軽く引いて、ふれあいコーナーを後にした。これでお互いの行きたい場所には行ったので、後は適当に目に入ったものに乗るだけかな。などと思いながらパンフレットを眺めていると、俺の服を赤城さんが軽く引っ張った。


「少し早いですけど、お昼にしませんか?」

「じゃあ、フードコートに行く? レストラン施設もあるみたいだけど」

「実は、お弁当を作って来てるんです」


 なんと、手作りのお弁当である。これではまるで、本当のデートのようだ。少し浮かれた気分で、お弁当が食べられそうな場所を探すと、『恋人たちの庭園』と書かれている場所が目に入った。説明によると、お弁当を食べたり、休憩ができる場所になっているそうだ。名前だけ聞くと、なかなか立ち入りたくはない場所だね。


「じゃ、じゃあ、ここの庭園に行ってみようか」

「はい」


 ふれあいコーナーからはそれほど離れていなかったので、すぐに到着はできた。できたけど、すぐに逃げ出したくなった。だって、いちゃついてるカップルばっかりだったんだもの。いくら男女の二人組だからといって、恋人でもない俺たちが入るにはハードルが高い。


「あ、あそこ空いてますよ」


 逃げ出そうとした俺の手を引いて、赤城さんは白いベンチへと駆けて行った。






いつも読んでいただいてありがとうございます。

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