明太子パスタと女子会
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喫茶店から走って来たのだが、十六夜に会うことは無かった。もうすでに教会の中に入っているのか、別のところに行ってまだ帰ってきていないのか。いっそ中に入ってしまった方が良いだろうか?
「どうしたのかね、和泉君」
教会の前でウロウロしていると、背後から声をかけられた。慌てて振り返ると、スーパーの袋を下げた笠間神父の姿があった。
「十六夜はまだ帰ってきませんか?」
「ワシも先ほどまで出ていてね。帰っているかもしれないが、寄っていくかい?」
せっかくなので、中に入れてもらおう。十六夜が居れば良し。居なければ待たせてもらえばいいよな。
そのままいつもの部屋に通されて、いつものコーヒーを淹れてもらう。ここに来るのにも、随分と慣れたものだ。そう言えば、初めてこの部屋に来た時は十六夜にグーパンを喰らって、気を失っていたっけ。
あいつと会ってから、まだ一か月と少ししか経っていない。そう思うには、色々な事がありすぎたな。
最初はいつも俺の事を物理的に殺そうとしていたし、死にそうな思いもさせられた。けど、それがあったから今はちゃんと仲間になれたんだと思う。まあ、今でも社会的には殺されそうなんだけどね。
「和泉君、キミは確か一人暮らしだったね?」
「そうですけど」
「料理とか、できるかい?」
笠間家は、神父と十六夜の二人暮らしだ。家事は二人で分担しているらしいが、料理だけは十六夜の仕事なのだという。どうやら、笠間神父は料理が苦手らしい。
ので、なぜか今夜の笠間家の夕食は、俺が作ることになってしまった。まあ、料理は嫌いではないので、せっかくだから十六夜が好きな物でも作ってやるか。
「十六夜は、イカの塩辛とか、辛子明太子が好きだな」
将来は大酒飲みですね。
それじゃあ、今夜は辛子明太子でパスタでも作るか。
夕食を作り、すでに食べ終わった。しかし、十六夜は帰って来ない。スマホを何度か確認したが、澪からも百花からも連絡は入っていなかった。もしかして、皆に何かあったのではないかと不安になる。
「どうやらあのバカ孫は夜遊びでもしているようだ。まだ待つかね?」
「できれば、今日の内に顔だけは見ておきたいので」
「じゃあ、十六夜の部屋で待っていなさい。ワシは、そろそろ寝る」
「え?」
あんた、孫娘ほっといて寝ちゃうんですか?っていうか、勝手に男を孫娘の部屋に入れるとか、大丈夫ですか?言われるまま入っちゃう俺も俺だけどね。
女の子の部屋に入るなんて、初めてではなかろうか。澪の家には毎日のように連行されていたが、部屋に入ったことは無かったもんな。
部屋に入ると、女の子特有の甘い香りが漂って来る。そんな中、男一人でどうしろというのか。とりあえず机の椅子に腰かけてみるが、落ち着かない。あまり見ない方が良いのだろうが、することが無いのでついつい見渡してしまう。あいつの性格にしては、きれいに片づけられているようだ。
うわ~。箪笥が目に入っちゃったよ。こういう時って、思春期男子は…見ちゃうよね。
おそらく当たりの引き出しに手をかけた時に、スマホが鳴った。画面には『浅間百花』と表示されている。あいつ、どっかで見てるんじゃないよな?
「百花、何かあったのか?」
『ふふふ、十六夜ちゃんは預かったです』
なんだ、何にもなかったのか、良かった。いや、良くないよ。こんな時間までこいつら何やってんの?
『あ、お家に連絡してもらうの忘れてたです。でも、なんで十六夜ちゃんがまだ帰ってないの知ってるです?』
「今、十六夜の部屋にいるんだけど?」
『は? 何してるです。もしかして、下着とか漁ったりしてないですよね?』
「え? う、うん。大丈夫、だよ?」
『十六夜ちゃん、大変です! 九十九クンが十六夜ちゃんの下着漁ってるです!』
いやいや、だからまだ漁って無いって。後ろの方から十六夜の悲鳴と澪の声も聞こえるから、どうやら三人は一緒に居るようだ。
「で? お前ら何やってんの?」
『女子会です』
ふざけんなよ!こっちはどれだけ心配したと思ってるんだよ。せめて神父に連絡くらい入れろよ。
『ごめんです。せっかくだから、美少女三人のパジャマ姿、写メしてあげるです?』
「いいよ。俺は十六夜の下着を抱えて、十六夜のベッドで、十六夜の臭いをクンカクンカしながら寝るから」
『それやったら、本気でぶっ殺しますよ?』
今日初めてちゃんと声を聞いたな。思ったより元気そうで安心したよ。
「もう泣き止んだのか?」
『それはこっちのセリフですよ』
良かった。これで今日は安心して寝られそうだ。
「それじゃ、神父も寝ちゃったし、俺も寝るから。女子会楽しんでね」
『ね、寝るってどこで寝るつもりですか!』
俺は何も答えずに、通話を切った。さてさて、せっかくだから、紳士的に休ませてもらいましょうかね。
「ちょっと一回家に帰って変態をぶち殺してきます!」
なんでよりによってあの人は、アタシの部屋なんかに居るの?しかも、あ、アタシのベッドで寝るとか、本当に何考えてるの!
「ふふ。誰かさんの声を聞いたら、元気が出たみたいです」
「な!」
そんなんじゃないもん!アタシはただ、下着とベッドの心配をしているだけであって、元気が出たわけじゃ……
確かに、あの人と話をしたら、少しだけもやもやした気持ちが晴れたけど。本当にちょっとだけだ。
「そんなことより、赤城さやかの話をしたい」
「流れ! 話の流れを切らないでください」
「斬るのは得意、だよ?」
まさか、さやかさんを斬るって話じゃないですよね?恋愛を物理で解決しないでくださいよ。
「澪さん、九十九クンの好みって、結局どんなタイプなんです?」
「大人しくて、口数の少ない子」
もしかして、この人の口数が少ないのって……
「そう。頑張って、矯正した」
やっぱりこの人の愛の方が重いって。いくらなんでも、好きな人の好みに合わせるために、そこまでできないよ。
「でも、それだけでは情報が足りないです。具体的に、九十九さんが好きだった人とかいないんです?」
「……?」
え?なんできょとんとしちゃったの?だって今、好きなタイプの話してたじゃないですか。あの人が昔好きだった人とか知ってるんじゃないんですか?
「小学校の頃から、私がずっと隣にいたのに、女子を近づけるわけない」
やっぱりアタシのこの気持ちは、愛とは違うのではないだろうか。
「じゃ、じゃあ、なんで九十九クンの好きなタイプを?」
「小学生の時に、九十九に直接聞いた。『木刀で襲い掛かって来ない、物静かで清楚な女の子が好きだ』って」
九十九さんから聞いたことがある。澪さんに毎日道場に連行されて、木刀で襲って来る澪さんから逃げ回っていたって。たぶん、その好きなタイプって、遠回しに『お前じゃない』って言われたんじゃないですか?
「澪さん、こんな事言うのもあれなんですけど……」
「百花さん! それは言っちゃダメです」
澪さんの努力を無にしないで上げてください。いくら何でも、その事実を告げるのは酷だと思います。
「面倒です。直接本人に聞いた方がすっきりするです」
そう言って、百花さんは再び九十九さんに電話をかけた。どうやらまだ起きていたようで、あの人はあっさりと電話に出てしまう。
「今、何してたです?」
『百花、お前、どっかで俺見てるの?』
なんだかすごく嫌な予感がした。こういう時のあの人は、絶対ろくなことをしていない。
『十六夜って、結構可愛い下着着けてんだな』
あいつ、絶対後でぶっ殺す!
「そんなことより九十九クン。女子会への話題提供として、好きな女性のタイプを教えて欲しいです」
『ふ、百花だよ』
「ふぇ!」
百花さん、しっかりしてください。いつもの軽口ですから。絶対からかい目的で言ってますから。だからそんな、真っ赤な顔にならないでください。本当にあの人は、平気でそういう嘘つくんだから。
結局この日の夜は、九十九さんの好きなタイプも聞けず、百花さんが再起不能になってしまい対策会議も進まず、ただのお泊り会になってしまった。
予想以上に長くなってしまったので、特別篇から3へ章のタイトル変更しました。
なので、まだまだ十六夜ちゃん編、続きます!




