再会
本日三度目の半田高校である。正確には、移動の途中で日付が変わってしまったので、本日一度目の登校ということになるのかな?
所長さんの発案で、俺たちは百花が呪術を組み込んだ桜の木までやって来た。百花が術式を確認したところ、問題無く生命力を吸い上げることができるそうだ。
「九十九、九十九。術式は、アレ、しないと、発動しないはず」
「つ、九十九さんが良いのなら、アタシはいつでも……いいんですよ?」
なぜか桜の木の前でもじもじし始める澪と十六夜。どうやら連戦の疲れが出てしまっているようだ。二人から生命力を吸い上げるのは少し厳しいだろうか?
「疲れたなら、休んでていいぞ? 俺と所長さんがいるし、大丈夫だ」
「わ、私ですか!」
心配して二人にそう伝ええたのだが、澪と十六夜だけでなく、なぜか所長さんまで慌て始める。どうした?ここに来てから、皆なんだかおかしいぞ?
「九十九、所長さんと、するつもり?」
「まさか、九十九さんがそっちの方だったなんて!」
「わ、私には妻も娘もいるのですが……」
こいつらはどうしてしまったんだ?困って百花の方を見ると、百花はあきれたように肩をすくめている。
「術式の起動に、キスは必要ないですよ。ボクが桜の木に触れば、自動で術式が起動するようになってるです」
百花の言葉を聞いて、明らかに落胆する二人。そして、明らかに安堵した表情を浮かべる所長さん。どうした?今の話で大変な要素は何も無かったと思うんだが。
「じゃあ、術式を起動させるです。気分が悪くなったら、すぐに言って欲しいです」
俺たちは、無言でうなずく。ここまで来たら、最早否やはあるまい。
百花が幹に触れると、桜は薄っすらと光り出す。それと同時に、自分の体に違和感を覚える。手足の感覚が、ほんの少し鈍感になったような感じだ。それは徐々に全身に広がっていき、軽くめまいを感じた。
「ここまでです」
百花が幹から手を離すと、体から違和感は消えていく。若干のめまいが残っているものの、概ね健康体だ。他のみんなも特に異常は無いようだ。
「九十九、苦しい」
よろよろと、俺にもたれかかってくる澪。苦しいという割に随分と顔色は良さそうなのだが、どこか悪いところでもあるのだろうか。
「生命力が無くなりすぎた。だから、キスして?」
悪かったのは、頭だった。俺の幼馴染はこんなに可哀想な頭な訳がない。大丈夫、きっと疲れすぎているだけだ。ここは無視しよう。
「九十九さん、アタシも…キスしてもらわないとダメそうです」
「さ、千花さんを助けようか」
もたれかかろうとしてきた十六夜の体をひらりと躱し、校舎に体を預けて眠っている千花の下へ向かう。
彼女の体を抱き上げるが、恐ろしく軽かった。筋肉は衰え、頬も痩せこけている。神楽坂に捕まってから、炎神の核を埋め込まれ、ずっと昏睡させられ続けていた代償だろう。
千花の体を抱き抱え、桜の根元に向かう。百花の準備はすでに整っており、彼女の手の中には、桜色の光の塊が、大事そうに握られていた。
「ここでいいのか?」
「はい、大丈夫です」
百花の指示を受けて、千花の体を桜の木の下に、ゆっくりと横たえた。百花は千花の横に膝を折ってしゃがむと、彼女の胸の上にゆっくりと桜色の光の塊を置いた。
百花と千花を照らし出すように、満月は輝いた。まるでその光と溶けあうように、桜色の光は千花の体に吸い込まれていった。
月の光に吸い込まれるように、千花の体はゆっくりと浮かび上がる。星々の輝きを、桜の木の輝きを一身に受け止めて、千花の体が輝きを放つ。
その体が、ゆっくりと百花の下に降りてくる。百花の両腕に納まると、輝きは千花の中へと消えていった。
「百花、ねえ、さま」
どうかすれば聞き漏らしてしまいそうなほど小さな、かすれた声が聞こえる。
「千花!」
百花は力を込めて、その細い体を抱きしめる。
「千花、千花、千花!」
百花は、何度もその名を呼んだ。
ボロボロと大粒の涙を流しながら、ただその名を呼び続けた。
満月に照らし出され、桜吹雪に包まれた二人の姿は、とても美しく見えた。
「では、弁明を聞きましょう」
感動のシーンから一変して、俺は十六夜に正座をさせられている。うん。訳が分からないよね。何これ?どうしてこうなった?
「十六夜さん? 俺はなんの弁明をしたら良いの?」
「ふふふ。弁明の余地も無いってやつですか?」
いやいや。余地も何も、意味が分からないんだってば。もしかして、女神様を半ば脅迫して新しいスキルと魔法をもらったことがばれた?
「あ、あれは皆を助けるために仕方なくて」
「ほほう。みんなを助けるために、二回も?」
二回?二つの言い間違いかな?
「でも、おかげであんなすごいのを……」
「あんな、す、すごい?」
炎神を倒せるくらい強力なスキルと魔法だ。所長さんの魔弾より破壊力がある。
「ああ、おかげでクタクタだよ」
「く、クタクタになるまで?」
霊力も体力も大量に消費したんだ。全身疲労で倒れそうだった。
「最後の最後はやばかったよ。どうにか貫いて……」
「つ、貫くって! き、キスだけだったんじゃ?」
炎神の核を破壊した…って、キスってなんだ?あんな化け物とキスしたら、頭が溶け落ちるわ!
「ひどいです九十九さん! アタシたちが心配している時に、百花さんとそこまで!」
「ああ、悪かったとは思ってるよ。でも、百花と一緒じゃなきゃダメだったんだ」
最後は百花の力を借りなければ、倒すことはできなかったはずだ。
俺が熱く語ると、十六夜はなぜか膝から崩れ落ちる。
「十六夜、どうやってあいつを貫いたのか詳しく教えてやるから、機嫌直せよ」
「く、詳しく説明って…なんでそんな……自慢ですか!」
「そりゃそうだ。あんなに頑張ったんだからな」
「頑張ったって、そんな……ふぅ、うぐ…ふえぇん」
ちょ、ちょっと!なんでそこで泣き出しちゃうの?そんなに一緒に炎神を倒したかったのか?
どうやってなだめたものかと考えていると、真っ赤な顔をした百花が猛ダッシュでやってくる。先ほど眠ってしまった千花を車に寝かせに行っていたのだが、どうやら戻ってきたようだ。
「ま、待つです! 十六夜さん、どう考えても勘違いですよ! いくら何でも、あんなところで…す、するわけないです!」
膝を折って泣いている十六夜のところへ駆け寄った百花は、十六夜の肩を掴んですごい勢いで揺らしている。
「百花、十六夜を任せても大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃないです! 十六夜さん、とんでもない勘違いをしてるです。このままでは、ボクがすごい軽い女になっちゃうです」
そこまで事態が分かっているなら、百花に任せて大丈夫だろう。俺はいい加減帰って寝たいのだ。
「浅間さん、炎神を倒した感動と高揚感で……九十九さんと、あんなところで、せ、せっ……」
「落ち着いて欲しいです! 話の前半部分ですでに噛みあってなかったです」
話、噛みあってなかったかな?まあいいや。十六夜も、今日は疲れたから情緒不安定なだけだろう。一晩ゆっくり休めば落ち着くはずだ。
「九十九、百花と二人っきりの時、何してたの?」
今度は澪がやってくる。どうしてそれほど気になるのだろうか?炎神は無事に倒せたんだからもういいじゃないか。
「澪、百花は凄かったぞ」
こう言えば、澪も百花に話が聞きたくなるに違いない。二人まとめて百花に任せてしまおう。感動の再会も済ませたんだし、あまり静かすぎるよりはにぎやかな方が百花にも良いはずだ。
「百花は、何が凄かった?」
う~ん。やっぱり分身で大量に作り出した短剣の量だろう。
「百花は、手数が凄かったな」
「手数……技が凄かったの?」
「そうだな。百花に聞いてみると良いよ」
「どうしてそんな誤解を招く言い方をするんです。わざとですか? わざとですね?」
百花は、朝まで十六夜と澪の誤解を解くために奔走したらしい……
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