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教会での死闘 ⑤


 最高に格好つけられる場所で、格好がつかないのが和泉九十九である。後一手で勝てるという場面で、切り札が使えなくなってしまった。


 霊力が全快するのを待つのと、炎神の活動限界はほぼ同時刻。つまり、この状態で『崩拳』を放てなければ俺たちはきっと死ぬ。


「つ、九十九クン」


 どうしたものかと腕を組んで首をかしげる21人の俺に、百花は若干引きながら声をかけてくる。


「どうしたです? 何か問題があったです?」

「霊力がすっからかんで、さっきの攻撃が出来ないんだ。この状態でさっきの攻撃が出来れば倒せると思うんだけど」

「霊力…ですか」


 一言そうつぶやいて、百花は俺(本体)のところに寄ってくる。


「回復、させてあげるです。だから、あの分身で少し時間を稼ぐです」


 そう言われれば、やるしかない。俺は分身の半分が時間稼ぎするように考えると、10人の分身が飛び出して炎神と交戦を開始する。


「少し、しゃがんでほしいです」


 百花に言われるまま、俺は百花と目が合う位置まで体を低くする。すると、百花は俺の頬に手を添えて、そっと唇を重ねた。


 百花の唇から、温かい何かが流れ込んでくる。その温かさは体の中心に集まり、少し早くなった鼓動と共に、末端まで熱が広がっていった。


「ボクの霊力、わけた、です」


 百花は頬を真っ赤に染めて、視線を逸らしながらそう言った。


「今回は舌入ってこなかったけど?」

「あ、あれは…麻痺の丸薬を飲ませるために必要で……あんなの、ボクも初めてだったんです」


 初めて、と言われれば悪い気はしない。百花は耳まで真っ赤に染めて俯いてしまった。どうやら霊力は半分以上に回復したようだ。これ以上炎神に分身が倒される前に勝負を決めてしまおう。


 百花の頭をポンと叩いて、俺は再び炎神に向き直る。


「百花、あれを一瞬足止めさせるだけの霊力、残ってる?」

「一瞬で良いのなら」

「頼んだ」


 俺はそう言い残して炎神に突撃する。残りの分身10人も、炎神を取り囲むように動き出した。


「百花!」

「水遁・水縛陣」


 百花の体から、再び水流が噴き出して炎神に襲い掛かる。まとわりつかれるのを嫌がる様に炎神が暴れ、足を止めた。


 その瞬間に、俺は必殺のスキルを叩きこむ。


「崩拳!」


 四方八方に散った分身と共に、超振動する拳が炎神を貫いた。腕を飛ばし、首を飛ばし、そして、胸の中心にある核を破壊した。


「ぶ…ぶぶ…ぶ……」


 一瞬上空に炎の柱が上がったかと思うと、炎神はさらさらと砂のように体を崩壊させていった。その後には、全身を焼きただらせた神楽坂の遺体が残っていた。


「うへぇ。やっと終わったよ。どうにかなったな、百花」


 二度目の『崩拳』によって、体力は残り三分の一。霊力は、今度こそすっからかんだ。全身の疲労を感じながら、俺はその場で仰向けになって寝転がる。


「ぐへ」


 疲労困憊の俺の上に、突如重みが圧し掛かる。


「九十九ぐ~ん。ありがどうでず~」


 百花は俺の体の上に覆い被さって泣き始めた。嬉しいのはわかるんだけど、せめて俺から離れて感動してください。それに、感動の涙は千花と再会した時に取っておいてやれよ。


 そんな余計なことを考えながら、俺は百花の頭を撫でるのであった。



 森を焼き続けていた炎は、炎神の消滅と共に消えてしまった。焼かれていた木々は炭となって灰色の煙を上げ、大地は黒く焦げていた。


「もう俺動けないんだけど、今夜はここで一泊する?」

「ぐす…しないです。もうすぐ…ひっく…皆さんが来ます」


 百花の話では、皆は炎の海によって足止めされていたが、教会から動かずに待っていたらしい。炎が治まったので、ワゴン車でこちらに向かって来ているそうだ。


 澪と十六夜、怒ってないと良いんだけど、そこんとこどうなんでしょうか?


「澪さんは炎に飛び込む勢いで追って来ようとしたらしいです。『つっくん私凄く心配したんだよ~』らしいです。十六夜さんは『とりあえず踏んずけますので、そこで寝ててください』と怒ってます。所長さんは『ご無事で良かったです。ですが、今後は単独で危険な行動は決してしないでください』と言ってます」


 ところどころ声が変わったのは何事かと思い、どうにか頭を上げると、百花がスマホを手にしていた。通話状態のようで、画面には『笠間十六夜』と表示されている。


「えっと…九十九クンは気を失ったみたいですぅ~」


 百花の口真似をして、裏声で伝えてみるのだが……


「お元気そうで何よりですね。アタシの魔法も必要なさそうで良かったです」


 と、生々しい声が背後から聞こえてくる。声の方に視線だけ向けると、そこにはすらりと伸びた二本の白い幹の先に、桜が咲いていた。


「こんなところに桜の木が……ぐへ」


 桜の木の一本が俺の顔を踏みつける。そのせいで、桜の木は満開である。っていうかいい加減足どけて。お前はいつからSに目覚めちゃったの?


「つっくんひどいよ! 一人で行っちゃうから私凄く怖かったんだよ~」


 どすんと腹部に衝撃が走る。俺の腹の上で頬ずりをする澪はなぜか急に泣き出した。


「あんな怪我をしたばかりなのに、どうしてこんな無茶したの? またつっくんが怪我するんじゃないかって、心配したんだから」

「わ、悪かったって」


 澪の頭を撫でてやると、頭上からぽたぽたと温かい滴が落ちてくる。今度はこっちかと視線を向けると、十六夜も蹲って泣き出してしまった。


「アタシも、九十九さん…心配、したんですよ。みんなでって、言ったのに……うえぇん」


 十六夜が声を出して泣き出したことにより、澪と百花も釣られるように泣き出してしまった。これ、俺がどうにかしなくちゃいけないの?炎神と戦うより辛いんだけど。




 ひとしきり泣いた後、三人はやっと落ち着きを取り戻してくれた。俺も歩けるくらいは体力が回復したので、どうにか所長さんが待つワゴン車までたどり着けた。


「おかえりなさい、和泉さん。本当に無事で良かったです」


 所長さんはにこりと微笑んで迎えてくれた。これでやっと今日の仕事はお終いだ。一晩で二回も死闘を演じることになるとは思わなかったのだが、目的を達成できて本当に良かった。


 そう思って百花を見ると、どこか浮かない表情をしている。


「百花?」

「まだ、千花の目が覚めないのです」


 百花の横には、瞳を閉じたままの千花の姿があった。十六夜の治療魔法によって、神楽坂からつけられた傷は完治している。なら、どうして意識が戻らないのか。


「千花の体内には、二年近く炎神の核が入ってたです。だから、生命力が枯渇しかけているのかもしれないです」


 自分の体を触媒にして、炎神の力を使用した神楽坂は死んでいた。千花は炎神の力を引き出すために使用されることは無かったらしいが、少なからず生命力は吸い上げられていたはずだ。枯渇しかかった生命力は、どうすれば回復させられるのだろうか。


「時間をかけて回復させるしかないんじゃないですか? アタシの魔法にも、生命力を回復させるものはありませんし」

「自己回復できるだけの、生命力が残ってないかもしれないです。もしそうなら、このまま目を覚まさないかもしれないです」


 そんなことになったら、今までの百花の苦労も、今日の俺たちの頑張りも無駄になってしまう。


「俺たちの生命力を少しずつ分けられないか? さっきキスしてやったみたいに」

「キスってなんですか? さっきって、夕方じゃなくてついさっきってことですよね?」


 十六夜さん、食いつくところがおかしい。今はまじめな話をしているんだよ。


「き、口づけで分け与えられるのは霊力だけです。生命力を吸収する呪術の構成方法を知っているのは、神楽坂だけです。ボクは呪術の組み込まれた魔石を使用していただけで…今はもう魔石も残ってないのです」


 神楽坂が死んでしまった以上、呪術の構成方法はわからない。知るためには、笹田のような闇ギルドの構成員を捕まえる他無いのだろうか。


「桜の木に行けば、術式が残っているんじゃないでしょうか?」


 ぽつりと所長さんがつぶやいた。





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