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教会での死闘 ③


 百花の言葉を、俺は承認することができなかった。不思議なもので、自分がやろうとするのは良いのだが、他人がやろうとするのは嫌なのだ。それは別に百花の事が信じられないわけではない。自分の目の届かないところで、身内が危険な目に遭うのが嫌なのだと思う。


「俺が残る。お前は、千花ちゃんに着いていてあげなきゃ」

「なら、私も残る」

「当然、アタシもです!」


 こういう時、どうしてうちのパーティーはこんなにも融通が利かないのだろう。こんな危ない奴相手にしてるんだぞ。普通逃げるだろう。


「これは……これはボクの問題です! だからみんなは、千花と一緒に逃げて欲しいです」


 あ~、どうしてこういう時間の無い時に限ってすぐ結論の出ない話をしたがるんだ。めんどくさいな。


「だったらもう、みんなで足止めしよう! 追う相手を一人に絞らせないように、四方へ散って挑発し続ける」

「ま、待って欲しいです。みんなには……」

「「「関係ある!」」」


 ここにきてやっと息があった。これでやっと格好がついたと思う。


「今さら百花は見捨てない。今はそんな話より、もっと実りのある話だ。百花、あれは後どれだけ動けばガス欠になる?」

「へ?」


 俺の言葉に、どうやら百花は置いてきぼりのようだ。だがこれだけは、正確に把握しておかなければならない。


「浅間さん、もうすぐ魔法が切れます!」

「ひ、人一人分の生命力で5分も動かない、と聞いたことはあるです」


 百花が渡した生命力は15人分。神楽坂の生命力と合わせれば16人分だ。合計80分は最長でも稼働すると考えなければならない。


 戦闘開始からまだ20分も経っていないので、後1時間は逃げなければならないとなると、かなりの重労働である。


「ギリギリまでシールドの中で粘って、壊れたら一気に外に飛び出すぞ」

「って、もうダメそうです!」


 十六夜の悲鳴と共に、白銀の膜は粒子となって散っていった。それを合図に、俺たちは教会の外へ飛び出す。炎神は最後に振り下ろした双剣を床から引き抜くと、俺たちの後を追って来る。


「最初は俺が引きつける。その間に皆は散開!」


 俺の言葉を聞いて、三人がバラバラの方向に走り出す。


「氷拳!」


 俺は氷の拳を放つが、炎神に触れる前に氷が解けきってしまう。慌てて飛び退くが、拳を完全に振り抜いていたら、澪の刀のように溶けてしまったかもしれない。


 これ、相性最悪じゃね?俺の攻撃も全てが無効化される上に、攻撃する度に俺がダメージを受けるというおまけ付きだ。


「スタンボール」


 雷撃の玉は高速で炎神に突っ込んで行くが、ピリっと一瞬だけ光って消えていく。つまり、全く効いていない。


 だが、これでいい。これで俺に注意が向いた。後は俺が、一人で逃げるだけだ!


「瞬動」


 俺は皆からさらに離れるために瞬動を使用する。ここまで来れば、百花のサークルチェンジも範囲外だろう。さらにスタンボールを連続で放って炎神の注意を惹きながら、森の中に突入する。


「九十九、騙した!」

「九十九さんのエロアホボケ~!」


 後方で女性陣の怒声が聞こえるが、知ったこっちゃない。こっちゃないが、一人だけ俺をディスった奴いたよね?


「俺は逃げるから、お前らも千花ちゃん連れて逃げてくれ~!」


 澪は刀を無くしているし、近距離戦闘では自傷行為を繰り返すようなものだ。それに、遠距離からの攻撃が出来なければ時間稼ぎの役には立たない。


 十六夜の回復や防御は長期戦において必要となるが、常に強者から逃げ回っている戦場では、足を止めて補給を受けるのは自殺行為だ。それに、一対一で対峙した時に一番危険なのは攻撃手段を持たない十六夜だ。


 百花には、一秒でも早く、こんなふざけた奴との関わりを絶ってもらいたい。せっかく助けたんだ。千花ちゃんの側にいて欲しいしな。


 だから、中距離から炎神の注意を惹き、高速で回避行動がとれる俺だけが適任だ。


「ぶおおぉぉ」


 炎神は後方から双剣で木を薙ぎ倒しながらこちらへ向かって来る。これなら少し速度を落としても追いつかれることは無い。1時間、逃げ切れるはずだ。




「うぎゃあぁぁ、焼ける焼ける焼けるうぅぅ!」


 余裕で逃げ切れる。そう思っていた時期が、俺にもありました。炎神は、木々を伐採しながら進んでいた。そのせいで移動速度は落ちていたのだが、切り倒した木が軒並み発火した。そしてその炎は周囲に広がり、後方はすでに火の海と化していた。


 それはまだいい。前にさえ進んでいれば、炎神からも火の海からも逃れられる。問題は、前に逃げられる場所が無くなったということだ。


 みんなから別れて早30分。順調に逃げていると思っていた俺の目の前に、まさに断崖絶壁と言わんばかりの崖が現れた。このご時世に、普通の山の中に下の様子が分からないくらいの高さの崖とかあるのかよ!


 左右に移動しようにも、すでに火の海に囲まれている。ここから逃れるには、どこまで続いているとも知れない火の海に飛び込むか、どれだけ深いとも知れない崖を飛び降りるかを選ばなければならない。簡単に言うと、焼け死ぬか転落死するか、という二択を迫られている。


 できれば死なない選択肢が欲しいところだが、それを手に入れるためには、この半径10メートル程度の狭い場所で、後30分この化け物と戦い抜かなければならない。


 まあ、俺がどうなろうと、他の皆は逃げ切れただろうからな。後はせいぜい、少しでも森林破壊が広がらないよう、ここで足止めでもしてやるか。


「ぶおおぉぉ」


 炎神は炎を纏った双剣を振り回す。それは炎を鞭のように変質させながら、不規則な攻撃となって襲い来る。規則性の無くなった攻撃は、俺でも全てを視認して躱すことは不可能だ。


 わずか数回の攻撃を躱したところで、炎の鞭は俺を捉える。軽く触れただけだというのに、鞭は俺の服を焼き、皮膚までも焼きただれる。激痛が走るが、足を止めることはできない。少しでも動きを止めてしまえば、一瞬で消し炭になってしまう。


 どれだけみっともなくても。どれだけ泥にまみれても。生きてさえいれば可能性はある。痛みは捨てる。恐怖も捨てる。全ての感覚を、敵の攻撃に集中するんだ。


「ぶおおぉぉ」

「うっそ!」


 躱し続けていた鞭が、突然数を増やして襲い掛かる。反則だ。躱した先にさらに新しい鞭がある。数度回避をしたところで、とうとう炎の鞭が俺の足を捉えた。


 この一撃はまずい。かなり深くまで打ち据えられた鞭は、足の腱に届いていた。これでは足を動かすことも、立つこともできない。俺はただただ、その場に蹲ることしかできなくなった。


 俺が動けなくなったことを悟った炎神は、鞭を元の双剣の形状に戻し、こちらに歩み寄ってくる。


 ここでさらに10分は稼げたはずだ。順調に車で逃げてくれていれば、皆には決して追いつけないだろう。逃げてばかりの人生だったが、逃げ回ることで最後に人が救えたんだから、まあ良かったんじゃないかな。


 心残りがあるとすれば……


「もう一回くらい、百花の胸を揉んでみたかったな」

「それだけは断固拒否するです」


 迫りくる炎神と俺の間に、百花が突如として姿を現した。


「お前、何やってるの?」

「ずっと九十九クンの影の中に隠れてたです」


 なにそれ怖い。知らぬ間にストーカー被害に遭ってたよ。影の中って、ずっと後ろについてきてたってことでしょ?


「こ、これは、『影同化』というスキルです。九十九クンの影に同化していただけで、後を追ってきたわけではないです」


 この期に及んでとんでもない言い訳である。どう考えても俺の後を追うつもりでスキルを使っただろう。


「とにかく! 後はボクに任せるです」


 百花は両手に短剣を携えて構えをとる。


「浅間中忍、浅間百花。行くです」


 そう言って、彼女は月夜の空に舞い上がった。







昨日日別PV数が久々に新記録を更新しました。いつも読んでくださっている皆さま、ありがとうございます!

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