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教会での死闘 ①


 教会の中から、百花とは別の少女の悲鳴が聞こえてきた。炎神の核が引き抜かれたのだろう。俺は木製の入り口を蹴り破り、教会の中に突入する。


 周囲を見渡すと、腹を押さえてうずくまる百花と、横たわる痩せこけた少女。その横で桜色の球体と、燃え盛る炎の塊を両手に浮かべている男の姿があった。


「瞬動」

「んだ、てめえ!」


 俺は千花と男の間に瞬動で移動する。突然俺が目の前に現れたというのに、男に焦った様子は無く、不機嫌そうに俺を見下ろした。


 こいつが神楽坂か。この男のせいで、百花は二年も苦しみ続けたんだ。そう思うだけで、俺の拳にも熱が籠るのが分かる。


「炎拳!」


 俺は、渾身の怒りを込めて神楽坂の顔面に炎の拳を叩きこむ。それは炎を噴き上げて神楽坂の全身を包みこんだ。


 これで倒せるなら何の苦労もしない。俺は神楽坂の安否を確認することもせずに、床に横たわっている千花を抱き上げた。


「百花、今だ!」

「は、はいです! ―――!」


 百花が千花の手を握って一つのスキルを発動する。二人が小さく光ったのを見た俺は、百花の手をそっと握る。


「いくぞ。瞬動」


 俺は二人を引き連れて瞬動を使用し、入り口まで移動した。これで第一段階は成功だ。このまま逃げても良いだろうか?


「良くないです! 早くこちらへ」

「やらすわきゃねえだろ、あほか?」


 十六夜に少女の体を渡そうとした瞬間、突然現れた神楽坂が、桜色の球体と炎の塊の両方を少女の体に叩きこんだ。


「目覚めろ、炎神」

「ぶおおぉぉぉ!」


 その瞬間に少女の体は燃え上がり、一瞬でその姿を変容させる。


 その中核には、少女の姿は存在せず。その姿は最早、人と言える姿ではなかった。それは轟轟と燃え盛る炎そのものだった。


「千花……」


 その炎を前に、百花は膝を折る。


「そんな……」


 その炎を前に、十六夜は恐怖して後退る。


 そして俺は……


「氷拳!」


 冷気を纏った拳でその炎を殴りつける。


拳から放たれた冷気は、轟轟と燃え盛る炎を包み込む。しかしそれは、全てを凍り付かせるには至らない。


「ぶおおぉぉ」


 教会中に響き渡る重低音の叫びは、俺の冷気を吹き飛ばす。俺程度の魔力では、炎神の足止めもできないようだ。


「この小娘が! 裏切りやがった。これはもう許せねえよなあ。全部浄化するしか、ねえよなあ!」


 神楽坂は百花に振り返ると、彼女を睨み付ける。視線の先にいる百花は、ゆっくりと立ち上がって神楽坂から距離をとった。


「てめえは人質の娘が使えなくなった後の燃料にしてやる。仲間が浄化されるのを、そこで眺めてな」


 神楽坂は炎神の体に触れると、その一部を引き千切った。引き千切られた炎は意思を持ったようにうごめき、その姿を燃え盛る剣へと変えていった。


「浄化だ。穢れたワーカー共。この炎神と俺の手によって、てめえらまとめて燃やし尽くしてやるよお!」


 炎の剣を一振りすると、神楽坂はそれを振りかぶって俺に突撃する。その一撃を見定めて、俺は後方に飛び去る。澪のように洗練された太刀筋ではない。ただ乱暴に振るわれるそれは、威力こそ強力だが、躱すことは難しくない。


「炎神、やれ!」

「ぶおおぉぉ」


 神楽坂の言葉を受けて、炎神は体の一部を弾丸に変えて俺目掛けて降り注ぐ。その速度は、俺の動体視力では到底見極めることはできない。


「瞬動」


 ただそれは、狙いが分かっていれば当たることはない。炎の弾丸は、俺が先ほどまで立っていた場所に降り注ぎ、炎の柱が立ち上る。


「んだてめえは! ちょろちょろして目障りだ。早く燃えちまえよ」


 苛立ちを隠さぬ物言いで、神楽坂は言った。嫌なこった。俺の仕事はいつだって逃げ回る事なんだから。


「澪!」

「桜観斬月流剣術……月牙」


 神楽坂の背後から、澪の猛烈な突きが襲い掛かる。意識の外から放たれた突きは、神楽坂の肩を穿った。


「ぐっ……まだ仲間が居やがったか。クソガキ共があ!」


 肩に傷を負ったことがお気に召さなかったのか、神楽坂は怒りに任せて炎の剣を振り回す。その動きに合わせるように、炎神も神楽坂の周囲を覆い隠すように炎の渦へと姿を変えた。


「桜観斬月流剣術……桜突風」


 澪は突風を纏いながら高速で炎の渦に突きを放つが、炎は勢いを増して澪の剣を吹き飛ばした。


「ふははははあ! 炎神の炎が易々と抜けるかあ!」

「では、こちらはどうでしょうか?」


ズバンという乾いた炸裂音と共に、所長さんの声が教会に響き渡る。その瞬間に、炎神の渦の一部が弾けるが、すぐに元に戻ってしまう。


「おや、マクミランでも貫通はしませんか」


 意外そうな声を上げた所長さんは、スキルで姿を完全に隠している。


 彼は現在『魔銃師』の職業に転職している。この職業は、銃から魔法を籠めた銃弾を放つことができるらしい。


「では、こちらはどうですか? アイシングバレット」


 もう一度炸裂音が響くと、炎神の渦の一部が凍り付く。それを溶かすように炎が集まるが、氷は溶ける様子はない。


「ライトニングバレット」

「ぐがああぁぁ!」


 さらにもう一度炸裂音が響いた瞬間に、凍り付いた炎が弾け、渦の中心から神楽坂の悲鳴が響く。どこに当たったかは不明だが、神楽坂にダメージを与えることはできたようだ。


 所長さん、本当にすごかった。澪ですら弾き飛ばされた炎の渦を容易に砕き、貫通して神楽坂にダメージを与えたのだ。使用する銃火器によって威力が異なると言っていたが、対物ライフルと魔銃師の組み合わせは凶悪だった。


「クソ共があ! 次から次へとふざけた真似をしやがって!」


 神楽坂は渦の中で吠えるが、所長さんは銃撃の手を休めない。渦の一部を氷結させ、その部分を光速で射出される雷の弾丸が打ち抜く。打ち抜いた弾丸の全てが神楽坂に命中しているわけでは無いようだが、対物ライフルの一撃を受ければ体など吹き飛んでしまうはずだ。炎の渦が消えた時、バラバラになった神楽坂が出てこないか心配である。


「神楽坂さん、まだご存命ですか?」


 所長さんの問いを、神楽坂は答えない。その代りと言わんばかりに炎の渦が弾け飛び、神楽坂が姿を現した。


 神楽坂は右手に炎の塊を、左手で少女の頭をそれぞれ掴んでいる。どうやら少女の体を盾に使って、狙撃から自分を護るつもりらしい。


「てめえら、こっちには人質がいるんだぞ! わかってるんだろうなあ!」


 神楽坂は余裕の笑みを浮かべている。これで狙撃が収まると、本気でそう思っているようだ。残念ながら、世間はそんなに甘くない。


「アイシングバレット」

「ぐうああぁぁ!」


 所長さんの放った銃弾が、神楽坂の右腕を吹き飛ばし、欠損部から肩までを凍り付かせた。放り出された右腕は、炎の塊と一緒に床に転がった。


「ふ、ふざけんなよ。お前らはこいつが助けてえんだろうが! 助けるつもりがあんのかよ」


 今さらこの男は何を言っているのだろうか?


「千花なら一番最初に、百花が助けたぞ」


 俺がそう言うと、俺の隣に移動してきた百花は、神楽坂に向かって舌を出した。






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