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助けるためには


 黒塗りのワゴン車は、どこか犯罪の香りがする。その車の中に、美少女3人と一緒に収容されるとなると、かなり緊張するものがあった。


「私が運転できる車で、一番大きい車を用意してきました」


 10人乗りは大きすぎるのでは、と思ったのだが、後部座席を見て納得した。おそらくおもちゃだろうと思いたい銃火器の類が、大量に陳列されていたのだ。状況に応じて武器と職業を切り替えて使うのに必要なのだそうだ。


 色々と話を聞きたいところだが、それでもまず、所長さんに伝えておかなければならないことがあった。


「所長さん。俺は、百花を助けたいんです。こいつは、神楽坂ってやつに脅迫されていただけで、闇ギルドの構成員じゃないんです」

「大丈夫ですよ。我々も、浅間百花さんは被害者だと考えております。多少の聴取は行いますが、罪には問わないとお約束します」


 意外にあっさりとした返答だった。本当にこの人は懐が深い。社会がこんな人ばかりだったら、幸せな職場であふれるだろう。


「しかし、千花さんに関しては、現状では何とも言えません」

「ど、どういうことです!」

「炎の化け物、炎神の核が体内にある以上、我々は彼女と戦闘する可能性があります。場合によっては、処分、という判断を下さなければならない、ということだけは心に留めておいてください」


 処分、という言葉を聞いて、百花の体がピクリと動く。二年以上苦汁を舐めてまで守って来た少女を、最後に殺さなければならないと思えば、その恐怖は計り知れないだろう。


 きっと、ここにいる全員が、そんな結末は望んでいないはずだ。


 だからこそ、炎神の核についての情報が欲しいのだが……


「二年以上一緒に居たですが、炎神についてはボクもよくわからないです。ただ、あの男に生命力を渡す時は、必ず千花の体から核を取り出していたです」

「ということは、百花が生命力を持って神楽坂のところに行ければ、チャンスはあるってことか」

「でも、その生命力は九十九さんの治療で使ってしまいましたよね?」

「いいえ。まだ余ってるです」


 そう言って百花が手を翳すと、ふわりと桜色の光が浮かび上がる。俺の腹の中から。


「ちょ、え? なんてとこから取り出してるの!」

「こうやって、生命の中でしか保存がきかないのです」


 なるほど。だから桜の木に生命力を溜めていたのか。でもね、いくら何でも俺のお腹を貯金箱にしないでよ。いきなり取り出されたら引くって。


「九十九クンの治療には、集めた生命力の三分の一を使用したです。そのせいで、あの男の望む量には足りなくなってしまったです」


 そうそう上手く話は進まないようだ。俺を助けるために、本当に申し訳無い。


「それで、不足分はどのくらいなんだ?」

「人間5人分といったところです」


 ここには5人しかいない。5人分を補おうとすれば、全員が消えることになってしまう。どうにかごまかすことはできないだろうか?


「いつもボクが持っていく量の10倍はあるので、気づかれない可能性もあるです。それに、少し足りなくても必ず炎神の核に生命力を注ぐです。これだけは、絶対に間違いないです」


 しかし、量が足りないと気づいた神楽坂が、先に千花の生命力を全て奪う可能性もある。こればかりは、出たとこ勝負になりそうだ。曖昧な可能性で勝負するのって嫌なんだよな。


結局炎神の核についてはわからないまま、その後の移動時間を使って、俺たちは作戦会議をすることになった。




 おおよそ二時間をかけて到着した場所は、人里離れた山中にある小さな教会だった。手入れはほとんどされておらず、壁はあちこちひび割れ、蔦がはっていた。


 百花は俺の腹の中から生命力を取り出すと、自分の中に収めて教会の中へ入って行った。どうか彼女たちを無事に助けることができますように。今日ばかりは、女神様にそう祈らずにはいられなかった。



 礼拝堂の中に置かれた椅子の一つに、神楽坂は座っていた。百花は周囲を見渡したが、千花の姿はどこにもなかった。


「なんだよ、随分早かったじゃねえか。まだ二時間もあると思って、こっちは何も準備してねえぜ」

「千花はどこです」

「だからよぉ。こんなに早く戻ってくるとは思わねえからよお、まだアレの中だ」


 神楽坂は、礼拝堂の最奥に適当に置かれた一つの棺を指差した。百花は慌ててそれに駆け寄ると、棺の蓋に手をかけた。


 蓋には埃が溜まっており、以前百花がここを訪れてから、一度も開けられていないようだった。埃を払って重い蓋をゆっくりと持ち上げると、中には、頬が痩せこけ、手足は筋力がほとんど無くなってしまった千花の姿があった。


 百花は彼女の体を大事そうに起き上がらせると、そっと抱きしめた。ほのかな暖かさと鼓動を感じ、生きた彼女と再会できたことに安堵した。


「そろそろいいか? まだ時間はあるが、てめえがちゃんと仕事をしたか確認しねえと、今夜の仕事に支障が出る」


 神楽坂は面倒臭そうに二人に近づいてくると、千花の頭を掴むと、その体を軽々持ち上げて百花から奪い去った。


「も、もっと優しく扱って欲しいです」

「あぁ? 生かしておいてやってるだろぉが。これ以上の扱いなんかねえよ」


 神楽坂はそう言って、千花の体を放り投げる。朽ちかけた木製の椅子は、宙から落ちてきた千花の重さに耐えきれず、ガラガラと崩れていった。百花は慌てて千花の下へ駆け寄る。


「や、やめて欲しいです」

「んだぁ? 口答えしやがるからだろうが。こんなの気にしてねえで、とっとと出すもん出しやがれ!」


 崩れた椅子の上に横たわる千花の体を抱きながら、百花は生命力を己の中から取り出した。桜色に輝く球体を、手を震わせながら神楽坂に差し出す。


「に、20人分の生命力です」


 神楽坂は百花から桜色の光の玉を受け取ると、それをじっと眺める。


「なんだよ。一か月でこれだけ集められたのか。二年かけててめえがちまちま集めてきた量より、随分多いじゃねえか」


 20人分に満たないことに気付いていないのか。そもそも最初からそれだけ集まると思っていなかったのか。神楽坂は満足そうにそう言った。


「だけどよお。これじゃあちょっと量が足りねえなあ。てめえ、それが分かってて俺をだまそうとしたのか?」

「そ、それは……」


 神楽坂は、百花の返答も聞かずに彼女を蹴り飛ばす。


「まあ、これだけあればてめえが通ってる学校の周りを浄化してやれるだろうさ」

「な、どうして!」

「足がつくと困るだろぉが。てめえが散々生命力を集めたんだ。探りを入れられる前に、あそこら辺を浄化して拠点を移すのさ」


 神楽坂はそう言って、もう一度百花の腹を蹴り飛ばす。


「う、ぐぅ……」

「今日のところはそれで許してやる。次ちゃんとできなきゃ、てめえら二人とも炎神の燃料にするからな!」


 さらに百花を蹴りながら、神楽坂は叫び散らした。


「じゃあ、燃料補給の時間といくか」


そう言って、床に放り出された千花の横でしゃがむと、彼女の胸に手を突き刺し、そこから燃え盛る炎の塊を引きずり出した。


「ぐわあぁぁ」


 炎の塊を引きずり出された痛みに、意識の無かった千花が絶叫する。


その瞬間、教会の入り口が蹴り破られ、一人の少年が突入してきた。






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