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理由


 桜の木の下に向かった人物は、木の周りをぐるりと一回りし、舐めまわすように観察している。どうやらその結果はお気に召さなかったようで、さらにもう一周、今度は幹に手を触れながら観察を始めた。


 今朝の百花の事もあったので、無関係だった場合、体調を崩しかねない。突入した方が良いかどうか考えていると、その人物は懐から見覚えのある石を取り出した。


「魔封じの、水晶?」

「突入するぞ。俺が対応するから、澪は俺に合わせてくれ」

「了解」


 うなずき合って、俺と澪は屋上から飛び降りた。このような高さから飛び降りるなんて、昔の俺なら絶対に無理だったが、ステータスによって強化された今の俺なら、ある程度の無理は効く。校舎の各階にあるでっぱり部分に足をかけて速度を落としながら、俺はその人物の後ろに降り立った。


「国家公安委員会です。止まりなさい」


 こういうの、一回言ってみたかったんだよね。身分証なんてないから、迫力で押すしかないけど。


「半田高校校長ですね。その石をこちらに渡してください」

「こ、公安だと? 私が一体何をしたと言うんだ」


 どうやら勢いで行けたらしい。魔封じの水晶を手にした人物。校長先生は驚いたようにこちらを向いて、両手を上げている。


「その石が大変危険な物だというのはご存知ですね?」

「そ、それは……」

「このクレーターのようなくぼみも、その石のせいなのですよ?」

「バカな! これには人を寄せ付けなくする効果しかないと聞いたぞ!」

「まずはその石をこちらに。その後にお話を伺いましょう」


 俺、役者の才能あるんじゃね?校長先生は俺を公安の人間だと疑うこともせず、魔封じの水晶を渡してくれた。


 そこから、校長先生は語り出した。


 この桜の木は校舎の裏にあり、職員の目が行き届きにくかった。そのため、不良のたまり場となることが多く、校長先生は度々見回りを行うように教師たちに伝えていたが、熱心に見回りをするような教師はいなかった。


 仕方なく、校長先生は自身で見回りをすることにしたそうだ。度々不良生徒と衝突があり、指導を行い続けた成果もあり、その数は減っていった。それに安堵して、見回りの頻度を減らしたところ、事件が起こってしまった。


 以前は不良生徒のたまり場だったため、一般生徒の出入りがほとんどなかった。しかし、不良生徒の出入りが減ったことにより、くだらない事を考える生徒が入り浸るようになった。


 それは本当にくだらない、イジメであった。


 気の弱い男子生徒が、クラスカースト上位の生徒たちに呼び出しを受け、日々サンドバッグにされ、金をむしり取られ、髪や服を切り裂かれ、心を壊された。


 校長先生がその事実に気づいた時には、すでに全てが終わっていた。


 男子生徒はイジメに耐えられなくなり、屋上から桜の木に目掛けて飛び降りた。頭から地面へと激突した男子生徒は、顔の原型が残らないほどに悲惨な最期を遂げたらしい。


 あの時、自分が巡回を怠らなければ。教師たちに、徹底して見回りをさせられていれば。こんな悲惨な事件は起こらなかったはずだ。


 校長先生は自分の無力を悔いた。落ち込んだ。呪った。


 そんな時に、ある男と出会ったそうだ。


「この水晶は、特別な力を秘めています。これを桜の木の下で叩き割れば、普通の生徒は近づきにくくなります。もし近づける者があっても、そこで感情を強く揺さぶる人がいなくなります。そうすれば、イジメなどというくだらないことを行う者は、いなくなるでしょう」


 その時の校長先生は、まともな精神状態ではなかった。藁にも縋る気持ちで、男が譲ってくれた水晶を叩き割った。彼には特に変化を感じられなかったそうだが、それ以来、校舎裏に行く生徒が激減した。


 これであの男子生徒に詫びることができる。そう思った校長先生だったが、桜の木の下で、意識不明で発見される女子生徒が複数発見された。


「それはおそらく、あの場所でイジメをしようとしていたのでしょう。感情が強く動いた瞬間に、水晶の力で報いを受けたのです」


 再び出会った男に相談すると、そう言われた。校長先生は、恐怖よりも、喜びが込み上がった。これであの場所では絶対にイジメが起こらない。


そう思っていた矢先、桜の木の周辺に大量のクレーターが出現した。理由はわからないが、それを見るために大量の生徒が殺到した。もしかしたら、水晶の効果が切れてしまったのではないか。


不安になった校長先生は、今、再び水晶をここで割るために現れたそうだ。



「それで、あなたにこの石を譲ったという男は、どのような男でしたか?」

「私と同年代か、少し若い男でした。名前を、笹田、と名乗っていました」


 魔封じの水晶が出てきた時点で嫌な予感はしたが、まさか笹田が関係していたとは。


「わかりました。後日別の者が話を伺いに来る可能性もあります。その時はまたお願いします」

「わ、私を逮捕したりはしないのですか?」


 何だかんだと話していたが、結局この人は生徒のためを思って行動していた。先ほども、体調が悪くなった百花を心配してくれていたし、以前会った時も、不審者に遭遇しなかったかを本気で心配してくれていた。


 今もそうだが、この人は人をすぐに信じてしまう。そんなだから、笹田の何らかの計画に利用されたのだろう。ある意味では被害者なのである。


「あなたには、ここに生徒を近づけないようにする仕事があるでしょう?」

「……わかりました」




 俺たちは魔封じの水晶を手に、ハロージョブへと向かうことにした。


「九十九さんも、人を信じすぎますよ?」

「へ?」

「魔封じの水晶は回収しましたけど、校長先生がウソを言っていた可能性だってありますよ?」


 なるほど。十六夜の言う通りだ。普通に考えたら、魔獣を召喚した犯人であり、身柄を確保しなければいけなかったはずだ。


「なんか、そこまで悪い人だと思えなくて」


 結局そう言うことである。俺は最後まで、あの人を悪人だと思うことができなかったのだ。


「九十九、意外とチョロい?」


 やめてください違います。ちょっと純粋な男の子なだけなんです。人を信じられないよりは信じられた方が良いでしょ?



 お馴染みの所長室に入ると、いつものように情報交換を行う。校長先生から回収した魔封じの水晶を渡し、笹田から譲られた物らしい事を伝えると、所長さんは笑顔を崩さずに告げる。


「和泉さんはチョロいですね」


 あんたもか!しかし、今回は独断が過ぎたかも知れない。せめて校長先生の身柄については、一度所長さんに連絡してから考えた方が良かった。


「校長先生の調査は、一通り済んでいます。経歴を詳細に調べても、今までに転職した可能性は無く、ワーカーと関わったこともありません。そのため、闇ギルドに所属している可能性は低いでしょう。和泉さんがおっしゃられた通り、笹田に利用されたと考えた方が良いでしょう」


 せっかく魔獣を討伐したのに、今度は笹田だ。次々やってくる問題に、謎は深まるばかりである。普段ならば、そう言った小難しい話は専門の人たちに任せてしまいたいのだが、今回は自分の学校の事だ。逃げるに逃げられない問題だし、身内に被害だって出ている。どうにか早期解決に尽力したいところだ。







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