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写真で悪いことはしません


 教室に戻ると、すでに他の生徒は帰ってしまったようで、百花が一人で教室の中に立っていた。


「蛇はどうなったです? あれが犯人だったです?」


 よほど先に戻っていろと言われたのが不満だったらしく、物凄い勢いで詰め寄ってくる百花。それは仕方がない。百花は何も見ずに、わけもわからないままに連れ去られたのだから。


「結構大きな蛇だったんだけど、校舎の外に逃げたみたい。もう一度桜の木を見てきたけど、どこにもいなかった」

「そうですか。せめて写真に撮れていれば、記事にできたです」


 仕事熱心なのは結構だが、もう少し自分の体を気遣って欲しいものだ。大蛇が出ると聞いたら、俺ならお願いされても絶対に行かないよ。


「倒れた生徒も、あのサイズの蛇に驚いて気を失ったんじゃない?」

「それでは、今もまだ入院している理由が分からないです」


 どうにか納得してもらい、これ以上あそこに近づかないでもらいたいが、現状では無理だ。事件が解決した確証も無いし、犯人の写真も無い。


 百花を納得させられないのなら、百花を止めておくための方法を考えるしかないだろう。


「あの時見たのは、本当に蛇だったんです?」

「少なくとも、吸血鬼ではなかったよ」

「うぅ。なんでボクは見れなかったです!」

「それは、キス待ち顔で目を瞑ってたからでは?」

「き、ききき、キスなんて待ってないです!」


 百花の顔が真っ赤になるのは、今日で何回目だろうか。澪や十六夜はこんな反応しないから、なんだか楽しくなってきた。ここで、百花をからかいつつ現状を打破できる素敵な方法を思いつく!


 まず、百花の頬に手を当てる。


「な、ななあ、何を……」

「百花、目、瞑ってよ」

「は、はうぅ……」


 言われた通りに目を瞑る百花。こいつ、本当はチョロインじゃないのか?


 百花はそっと顔を上げると、軽く唇を突き出してくる。だから俺は……


『カシャリ』


 スマホでしっかりと百花の表情を写真に収めたのであった。これで俺は切り札を手に入れることができたぞ!


「へ、は、え? な、どうしたです。今、写真撮ったです?」


 突然の出来事にアワアワと慌てだす百花に、先ほど撮った写メを見せる。


「これこそキス待ち顔だな」

「な! 消すです、それを直ちに消すです!」


 スマホを取ろうとする百花を躱しながら、画面に映る百花の表情を眺める。


「これ、情報部の掲示板に投稿したらすごいことになりそうだな」

「や、やめるです! 一度ネットに流れた画像が、完全に世界から抹消できないのは常識です」

「ふっふっふ。こいつを公表されたくなければ、俺の言うことを聞いてもらおうか」

「き、鬼畜です。ボクにい、いやらしいことを……」

「なるほど、それもいいかぼす……」


 言葉の途中で後頭部に謎の激痛が走る。


「誰だ、俺は今からお楽しみ……」

「そうですね、今から一緒に楽しみましょう」

「大丈夫。痛いのは、最初だけだから」


 振り向いたら、修羅がいた。漫画のように手をボキボキと鳴らす十六夜さんは、素敵な笑顔でこちらに近づいてくる。澪さんは、いつもの無表情のままだが、すでに抜刀している。


 これは相当にやばい。二人とも冗談ではなくキレていらっしゃる。


「い、いやだなぁ、二人とも。きっと何か勘違いをしてるよ」

「ふ、ふえぇん、桜山さん、笠間さん。助けてくださぁい」


 ちょっと百花さん!それじゃあ俺が悪者みたいじゃないか。別に俺は悪くない。だがこのままでは、俺は二人に撲殺された後切り刻まれるだろう。


それを回避するには、古来の日本より伝わる必殺技を使うしかあるまい。


「申し訳ありませんでした!」


 俺は慌てて正座をし、頭を床に叩きつける。魂を込めて、ただただ頭を床にこすりつける。


「とりあえず、先に話を聞いてください。お願いします」

「……わかりましたから、頭を上げてください」


 恐る恐る顔を上げると、どうやら澪は刀を収めてくれたらしい。十六夜も、肩の力を抜いているようだ。これなら瞬殺されることはなさそうだ。


「この写真は、百花にエロいことを命令するために使ったりしません!」


 俺はただ、この写真を取引材料にして、百花を吸血鬼事件から遠ざけようとしただけだ。ただ、からかっているうちに楽しくなってきて、ちょっと調子に乗っただけだ。


「つまり、アタシが止めなければ浅間センパイに手を出していたかもしれないと?」

「十六夜さん、とりあえずこの話はここまでにしましょう! いったん落ち着いてから、後日話し合いをする方向にしましょう」

「九十九クン、みんなが落ち着かないのは、みんな九十九クンのせいです」


 はいそうですどうもすいませんでした。


 とりあえず話はうやむやになり、後日改めて話し合う、ということで落ち着いた。



 百花と校門前で別れると、俺たちはお馴染みのハロージョブへと向かう。地下に降りると、最近は何も聞かれずに所長室へ通されるようになってしまったので、他のワーカーからの視線が痛い。


 所長室でしばらく待っていると、所長さんは少し疲れた表情でやってきた。


「お疲れのようですけど、何かありました?」

「4月は部署移動などが多いですからね。一階職員へのフォローもしなければならなくて、少しバタバタしております」


 所長さんは、ワーカーたちへの対応だけでなく、一般市民への対応にも気を使わなければならないらしい。むしろ、本職が一般の利用者への対応で、ワーカー関連についてはおまけなのだ。


「所長さん、もしお忙しいようでしたら、別の人に担当してもらった方が良いんじゃないですか?」

「いえ。闇ギルドについては、極力私が対応しなければなりません。前所長のように、この所内にもまだ闇ギルドの構成員がいるかもしれませんからね」


 確かにその通りだ。呪術という未知の力の件もあるが、身内に敵がいる可能性がないとは言い切れない。所長さんの対応次第では、俺たちの命だって危うくなってしまう。


 俺たちは、蛇の魔獣についての報告を行う。おそらくあの魔獣が呪術によるものだという可能性は高い。逃げられてしまった以上、今後の対応を誤れば多くの人が襲われる危険もある。


「可能であれば、速やかに魔獣の討伐をお願いしたいです」


 とは言っても、あの大蛇がどこに逃げたかがわからない。


「女性が桜の木の下で告白される、という現象が呪術の発動に必要な行為だとすると、もう一度木の下で告白をすれば、現れるかもしれません」


 またあの羞恥プレイをご所望ですか。


「じゃあ、私がする」

「あ、澪さんずるいです! アタシが告白されます」

「よし、それで行こう!」

「「え?」」


 そうだよ。何も俺が告白する必要なんてないのだ。


「ご所望通り、澪が告白して、十六夜が告白される!」

「ちょ、それは誰も所望してないですよ」

「澪は告白をするって言ったし、十六夜は告白されたいんだろ?」


 ふっふっふ。仲間なんだから、恥ずかしい思いも平等に分け合おうではないか。学校関係者に見つかると大変だから、夜にでも敢行してもらおう。


 俺たちは今夜、もう一度大蛇の魔獣を討伐するために集合することに決め、解散することになった。







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