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朝食は卵かけご飯が鉄板です


 みんなの話から得られた情報だけだが、所長さんに吸血鬼事件の報告をすることにした。事前に何の調査もしないのは、別に危ないところに行きたくないとか、怪我したくないとか、そんなことを考えたからじゃないよ?


「闇ギルドの構成員の可能性がある者の調査は大変危険です。そちらの調査は我々が行います。和泉さんは、桜の木の調査をお願いします。危険を感じたらすぐに中止してこちらに報告をして下さい」

「桜の木の調査、ですか?」

「笹田が使った呪術。それに似たような物が桜の木にかけられている可能性もあります。しかし、現状その発動方法などもわかっていないので、調査というより監視と言った方が良いでしょうか」


 ということで、明日から昼休みと放課後は、桜の木を監視することになった。昼休みに仕事が入れば、今日のようにカオスな状況にはならないだろう。


 呪術というものが、どうやって発動するかわからない以上、ある程度距離をとって監視をする方が良い。桜の木は校舎の裏にあるから、屋上ででも監視しよう。




『ピンポ~ン』


 翌朝、起床と同時に玄関のチャイムが鳴る。二度寝をしようとは思わないが、朝から来客の対応などしたくはない。無視して登校の準備でもしよう。とりあえず顔を洗って、朝食は卵かけご飯とみそ汁でいいか。


『ピンポ~ン』


 なかなかあきらめの悪い客である。しっかりと卵をご飯に絡め、そこに醤油を垂らしていく。もう一度軽く混ぜてから、仕上げに鰹節をかければ完成だ!


『ピンポ~ン』


 みそ汁を一口啜って、口の中に水分を補給し、一気にご飯をかき込んだ。やはり朝食は手早く流し込めるTKGが最強だ。


『ピンポ~ン』


 これだけ無視しているのに、いまだにあきらめてくれない。うん。正直三回目くらいのチャイムで気づいているのだ。一体誰が外で待っているのかなど。おそらく今日は武器の携帯はしていないはずだから、玄関を壊されることはないはずだ。が、絶対ということはない。


 俺はあきらめて玄関を開けると、目の前で鈍く銀色に輝く何かが止まった。


「迎えに、きちゃった」


 きちゃった、の前に、切っちゃった、になりそうな状況にドキドキしていると、澪は鞘に刀を戻した。


「なんで普通に刀携帯してるの!」

「護身用?」


 まさか腰に刀を差した状態でここまで来たのか。そう心配していると、澪は刀を収めた鞘を、筒状の竹刀のケースに仕舞った。


 剣道少女だと言えば、傍から見れば問題ないだろう。


「とりあえず中入って。すぐ準備するから」

「いいの?」

「いつまでも玄関先に澪を待たせとけないだろ。少し時間かかるし、中にいて」

「わかった」


 そう言えば、俺から澪を家に入れるのはどれくらいぶりだろうか?侵入ならこの前されたんだけど。


「コーヒーでも飲む?」

「苦いのは、嫌い」

「じゃあカフェオレ作ってやるよ。砂糖いっぱい入れて」

「ありがとう」


 とりあえず澪にカフェオレを出して、俺はちゃっちゃと着替えるか。



 手早く着替えて家を出ると、いつもよりも15分も早い時間だった。本来はもう少し家でゆっくりするのだが、いつまでも澪を待たせては申し訳ないと思って早く出たのだ。


 しかし、これから毎朝急かされるのも大変だな。中で待っていてもらえるように合鍵を渡すか?いやいや、それだといつ侵入されるかもわからない。やっぱり、来る時間を少し遅くしてもらうか?


「ダメ。これ以上遅いと、追いつかれる」

「澪は何から逃げてるの?」

「逃げてないよ。これは、攻めてるって言うらしい」


 よくわからんが、それでは毎朝どうしたら良いだろう?


「大丈夫。昔、お義母さんから合鍵、もらってるから」


 母さん!何てことしてんの!昔って、俺が毎日木刀で追い掛け回されてた頃じゃん!


「鍵持ってるのに、なんで家の前でチャイム押してたの?」

「きちゃった、って、やってみたかった」


 じゃあなんで刀取り出したし!


「せ~んぱ~い!」


 背後から聞こえる、普段より1オクターブ高い声。背中がむず痒くなるからやめてくれ。


「思ったより、来るのが早かった」

「やっぱり澪さんと一緒でしたか。せっかく可愛い後輩が迎えに行ってあげたのに!」

「十六夜さんや、なんで家まで来たんだい?」

「毎朝一緒に学校へ行くと約束……」

「してないからね!」


 結局3人で肩を並べて登校することになり、周囲の視線に苦しめられた。


 そう言えば、俺が昨日所長から受けた仕事について話をしていなかった。


「――ということで、今日から監視するから」

「了解」

「じゃあ、今日のお昼は屋上ですね」

「ん? 俺は屋上で仕事してるから、みんなは普通に食べてくれていいんだよ?」

「「ダメ」」


 なぜか二人がハモった。


「アタシたちはパーティーですよ。仕事は一緒にするに決まってます!」

「そう。仕事は、協力する」

「二人とも、まだ学校に慣れてないだろ? もう少し友人関係とかが落ち着くまでは、クラスにいた方がいいんじゃ?」


 二人が俺を心配してくれているのはわかる。でも、俺も二人を心配している。


「いつも俺なんかと一緒にいなくてもいいんだよ?」


 そう告げると、なぜか左右から腕を組まれてしまう。


「アタシは、澪さんと九十九さんと一緒に居たいですよ?」

「私も、二人と一緒に居たい」


 なんだか話が良い感じになっているところ申し訳ないが、周囲の目がものすごく痛いので、放してください。できれば、周囲に人がたくさんいるところでは、二人と一緒に居たくないです。



「九十九クン九十九クン、今朝もお楽しみだったようですね」


 こういうのって、大体そう言われる本人は楽しんでいないんだよね。


「むしろ百花がいなくて寂しかったよ」

「ふん。今日は不意を突かれないように構えてたです。ボクはチョロくないです」


 俺の周りには悪ふざけをする奴はいても、チョロインはいないんだよ。現実に魔法はあっても、そんなものは存在しないんだよ。


「ところで、校長のことで変な噂とか聞かない?」

「……」


 百花は軽口をやめて、真面目な表情を作った。


「あまり良い噂は聞かないです。情報はありますが、できれば、知らない方が良いです」


普段は冗談ばかりだが、百花は情報に対しては誠実だ。彼女がそういうのであれば、深く聞かないでおこう。


「じゃ、学内一の情報通に、今日一番のニュースを聞こうかな」


 空気を換えようと、軽口で質問をした俺が浅はかだった。


「通学路で女子生徒二人と腕を組んで登校してきた、最低ゲス変態野郎の話題がトレンドです!」

「おおう」

「あと、男子生徒の間で、『和泉九十九絶対殺すマンの集い』というのが組織されているとか」


 とうとう男にまで命を狙われるようになったのか、俺は。


「もう、俺の心の休まるところは百花の隣しかないよ」

「と、別の女子にも口説き文句を言うクソ野郎と追加しとくです!」


 どうしよう。俺はもう、軽口を叩くことも許されないようだ。


「朝からセクハラされて気分最悪です。お詫びに、放課後に付き合ってほしいところがあるです」

「放課後は、ちょっと用事が……」

「行っていい。用事は、私と十六夜でやっておく」

「え? 百花とデートしてもいいの?」

「九十九クン、そのうち本当に誰かに刺されるから、気をつけた方がいいですよ」



 それから、午前の授業を終えて昼休み。俺と澪は別々に教室を出て、屋上の入り口で合流した。屋上には鍵がかかっていたのだが……まあ、ご想像通りだ。その後は十六夜とも合流して、現在は桜の木が見えるところまで移動してきた。


「ここからなら、どこから来たのかもはっきりわかるな。とりあえず職業変更して、生徒に気づかれないようにしておこう」

「了解」

「わかりました」


 随分と久しぶりに、俺は高校生から魔拳士へと転職した。一般職業からの変更のため、ステータスが一気に向上し、軽くめまいを覚えた。


「転職しといてなんだけど、何もないといいね」


 今日の昼休みには何も起こらなかったので、俺は安堵する。


屋上から見上げる空はいつもより高く、清々しい気分だ。事件が終わってもここで過ごせば、余計な噂が増えなくていいかもしれない。







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