お昼ご飯に吸血鬼の話を聞きました
休み時間毎にクラスメイトに囲まれた澪は、俺がみんなと仲良くしろと言ったら、しっかりとクラスメイトと交流を行っていた。
それでも昼休みは俺が約束をしていたので、遠慮なく俺のところにやってきた。
「これ、九十九に作ってきた」
「アタシもみんなで食べようと思って、たくさん作ってきましたよ」
なぜか十六夜までうちのクラスにやって来て、俺の机を囲んでいる。
「十六夜。こんなところにいて、友だち作りとか大丈夫かよ」
「全然大丈夫ですよ! この動画のおかげで、みんなに送り出してもらえました」
十六夜が出したスマホの画面を見て、俺はそれをそのまま取り上げた。どうして削除してくれてないの、百花さん!
「あららら。それはボクがアップした動画じゃないです。昨日あの場所にいた人が、複数人アップしたみたいです」
「何それ! アップされる前に検閲とかしろよ」
「残念ながら、もはやネットの噂ではなくなったです。だって、一緒にお昼を食べる仲なんですよね?」
盲点!
昨日の今日で一緒にお昼なんて食べてたら、事実はどうであれ、傍から見たら恋人に見えちゃったりするのか!
「九十九、動画って何? それ、見せて」
「俺は早く澪のお弁当食べたいなぁ」
「うん」
十六夜のスマホに手を伸ばしかけた澪は、俺の言葉にカバンから弁当箱を取り出した。普通サイズで良かったと思う。
「ちなみに~、九十九クンの本命はどっちです?」
「そりゃ、百花だよ」
「ふぇ!」
「「……」」
俺はもう軽口を叩かない。だから、お願いだから二人とも、俺の太ももを本気でつねるの止めてください!
そして百花。言った俺が言うのもなんだが、本気でテレるのをやめてくれ。こういうのは冗談で流してくれないと、言った本人が一番恥ずかしい。
「せっかくですから、先輩もご一緒にいかがですか?」
「ご一緒させていただくです。ううぅ。ちょっと不意を突かれてしまいました」
十六夜に誘われて、頬を染めた百花も席に着いた。なんだこれ、傍から見たら美少女三人を侍らすゲス男になってない?
「ゆ、祐樹も一緒に食おうぜ」
「お前の本命がモモちゃんだと言うのなら、喜んでご一緒させていただくよ」
「もうそれでいい……かふ!」
十六夜のやつ、瞬時に俺の脇腹に一撃入れるとは、恐ろしい奴だ。
人数が増えたので、澪と祐樹の机もくっつけて、お弁当を広げることになった。
十六夜の弁当は、から揚げにハンバーグ、コロッケ、エビフライと、かなりジューシーで茶色いおかずが次々と姿を現す。
「九十九センパイには、たくさん食べて頑張ってもらわないとですからね」
それに対して、澪が作ってくれた弁当は、鮭の塩焼き、ほうれん草のお浸し、だし巻き卵、豚の角煮と、俺が好きなおかず大集合だ。
「九十九が好きな物、お義母さんに教えてもらったから」
そのお義母さんって表現はおかしいからね?俺のお母さんだからね?
「それで桜山さんは、九十九クンとどんな関係なんです?」
「婚約者」
なんで平然と嘘つくの?それで困るの俺なんだよ?もういいよ、俺は先にお弁当食べちゃうからね。あ~、豚の角煮うまぁ~。
「つまり桜山さんは九十九クンの婚約者で、笠間さんは恋人、ということでいいです?」
「そして俺の本命は百花だ、と合わせて記事にするならそう書けばいいよ」
「やめておくです」
百花と会話をしていたら、昨日所長さんから受けた仕事のことを思い出した。校内一の情報通なら、何か知っているかもしれない。
「百花、最近変わった事件とか、噂話とかないか?」
「校庭で男子生徒を抱きしめて愛し合ってる発言をした新入生とか、転校初日に男子生徒を抱きしめた転校生とかです?」
「うん。そんなピンポイントな噂じゃなくて、もっと事件っぽい」
「ボクを引き倒して、九十九クンに下から胸を鷲掴みにされたとかです?」
「「……」」
だから無言で脇腹をつねるのをやめて。これに関しては間違えなく俺が悪いけども。
「いやいや、もっと重大な奴」
「ボク、胸を揉まれながら『さすがCカップだね』とか言われたです。これは乙女の重大事件です」
「九十九、いつでも触っていいんだよ? 私もCはある」
どうしよう、話が全く進まない……祐樹は無心で十六夜が作ったおかずをつまんでいる。一人で現実逃避をしてないで、俺を助けて!
「ゆ、祐樹は何か知らないか?」
一人で逃避を続けている祐樹に声をかけると、やっと意識をこちらに戻してくれた。
「九十九の事以外なら、『桜の木の下の吸血鬼』かな~?」
「吸血鬼?」
「ですです。ボクもその事件を調べてるです」
この半田高校にも、学校の七不思議がある。その一つに『桜の木の下の吸血鬼』という話がある。
校舎の裏にある桜の木。桜の花が咲いた時に、好きな人に告白すると結果を問わず女子生徒が吸血鬼に襲われる。
「そこは告白が成功する、とかじゃないの?」
「告白の成功率が高くなるのは、夕方の屋上だそうです」
それは伝説でもなんでもない気がする。
「それがさ~、最近その木の下で、本当に女子生徒が倒れていたらしいんだよ」
「それも、首筋に牙で噛まれたような跡が残ってたようです」
それは確かに事件と言っていいだろう。春休み前なら、吸血鬼なんてオカルト信じなかっただろう。しかし、裏の世界を知ってしまった今なら、吸血鬼でもチュパカブラでも、いると言われれば信じるだろう。
「でも、昼間から吸血鬼が出るんですか?」
十六夜の言うことも一理ある。職業が吸血鬼であれば、その職業上陽があるうちは出歩けない可能性が高い。笹田の時のように、魔封じの水晶を誰かが使ったとしても、一般人に対して首筋に歯形をつけろ、なんて細かい命令ができるだろうか。
「倒れていた女子生徒って、今はどうしてるの?」
「それが、みんな病院に入院中らしいです」
「みんなって、被害者は一人じゃないの?」
「すでに被害者は5人いるです」
思ったよりも大事件になっているようだ。首を噛まれただけで病院に入院したというのも気になるが、被害者が5人もいて警察沙汰になっていないのはどうしてだ。
「職員会議でも議題に上がったらしいですが、首筋に噛み傷があったくらいで警察を呼ぶことも無いと、校長が渋ったそうです」
「責任問題になると嫌ですもんね」
所長さんのように周囲の人間に気を使える大人もいるというのに、自分で責任を負いたくないがために、生徒の危険の目を放置する大人もいる。後に大問題になったら余計立場が危うくなると考えないのかな?
「警察どころか、先生方にも余計なことはしないように言ってるようです」
つまり、完全に放置しているということか。前所長の時もそうだったが、この町で高い地位にある人間が闇ギルドの構成員である可能性もある。
校長が闇ギルドの構成員なのか?それならば、警察を呼ばないのも、教員に警戒させないのもうなずける。
校長について調査をしてから所長に報告するべきか……
「はい、あ~ん」
「もぐもぐ」
しかし、事件の当事者かもしれない相手の調査は危険だよな……
「こっちも、食べて」
「むぐむぐ」
一人で考えても仕方ない。今日の帰りにでも一回報告に行ってみよう。
「とりあえず、この写真もネットに上げとくです」
ニヤニヤしながらこちらを見る百花の手には、俺が十六夜と澪に、『あ~ん』してご飯を食べさせてもらっている写真が写っていた。
「なにこれ合成?」
「はい九十九さん、ど~ぞ」
「これも、自信作」
「もぐもぐ」
今日のお昼は大変美味しゅうございました。とだけ言っておこう。
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