後輩に殺されかけています(社会的に)
「つ、九十九の、裏切り者~~~」
最悪の絶叫をあげながら、祐樹は走り去っていった。おかげで周囲の生徒は、俺たちを見ながらひそひそと話をしている。どうしてこうなった!
「十六夜、入学早々何やってくれてんの?」
「愛情表現?」
「むしろ嫌がらせのレベルなんですけど」
とりあえず、今は全力で逃げ出したい。しかし正面には笠間神父、背後には、俺を捕まえたままの十六夜がいる。せめて、俺が高校生という職業でさえなければ、こんな状況すぐに逃げ出せるのに!
「とりあえず、和泉君から離れてやりなさい」
「嫌です~。こんなに愛しているのに……あだ」
笠間神父のゲンコツに負けて、十六夜はやっと俺の背中から離れてくれた。
「じいさまひどいです! 愛し合う二人を引き離そうとするなんて」
十六夜のやつ、両手を広げて歌い上げるように高らかというもんだから、周囲の生徒が写メやら動画やらを取り始めやがった。
「十六夜さんや。俺はあなたを怒らせるようなことしましたか?」
「え? さっき無視されてちょっとイラッとしましたけど、別に和泉さんを公開処刑にしようとはしてませんよ?」
「まさに今、公開処刑されてますけど」
「これは、後々のための種蒔きと言いますか……こうしないとあの人に負けますから」
言いたいことはよくわからんが、十六夜は誰かと戦っているようだ。戦うのは構わないのだが、できれば他人の迷惑を考えて。主に俺の!
「それで? なんか用事があるの?」
俺が尋ねると、十六夜はきょとんとした顔をしている。お前何言ってんの?みたいな顔すんのやめろ!
「最初に言ったじゃないですか。和泉さんと一緒に帰りたかっただけですけど?」
「本当にそれだけの理由でこんなに大事にしたのかよ!」
俺が周囲の生徒たちを指差すと、彼らはわらわらと散っていった。明日から学校で後ろ指刺されたらどうしてくれる。というか、祐樹に後ろから刺されたらどうしてくれる!
「十六夜、そろそろ行かないと、先方を待たせることになるぞ」
「そうでした。それじゃあ和泉さん、行きましょう」
「なんだよ、やっぱりなんか用事があるんじゃん」
新学期初日からひどい目にあった。果たして俺が何をしたと言うのか。確かに春休み早々笠間家の二人には迷惑をかけたが、それ以降は十六夜のためにまさに、骨を折ったのに。
これからの高校生活に不安を感じながら、俺は笠間神父に連れられて久々にハロージョブにやってきた。まだここに連れてこられた理由を聞いていないのだが、説明が無いままに所長室へ通された。
前任の笹田は闇ギルドの構成員であったため、ハロージョブを解雇。現在では裏の世界で指名手配されているらしい。その代わりに所長となったのが、俺たちの最もよく知る人物であった。
「ようこそいらっしゃいました。またお会いできてうれしいですよ、和泉さん」
そう。新しく所長に就任したのは、いつも俺たちを担当してくれていた男性職員さん。実はこの人、ワーカー部門の部門長だったらしい。それが前所長の不祥事を暴いた功績で、所長に就任したそうだ。
「それで、俺たちはなんでここに呼ばれたんですか?」
「今回、私たちは和泉さんに指名業務依頼をしたいと思っています」
つまり俺にやって欲しい仕事があるらしい。
春休み頃から、俺の通う半田高校で不可解な魔力反応が頻発しているらしい。今回の仕事は、表の世界に影響が出ていないかを調査することだそうだ。何とも曖昧な業務である。
「具体的には、どういったことをすればいいですか?」
「表の世界に影響が出ていれば何らかの事故や、噂になるような不思議なことが起こっている可能性があります。まずはそう言ったことが無いか調べ、報告してください」
「噂集め程度なら、結構簡単そうですね」
「現状は、それ以上動けないのです。闇ギルドが関係している可能性もありますので、十分以上に情報を集めて慎重に動かなければなりません」
闇ギルド。そう言われてもいまだにピンと来ない。転職によって手に入れたスキルを用いて罪を犯す集団。その活動方針はギルドによって異なるそうだ。笹田が所属している『世界樹』は、闇ギルドの中でも危険な思想を持っているらしい。
どこのどいつが関わっているのかわからない以上、慎重になるのは必要なことだ。特に今回は、俺が通っている高校なのだ。慎重に、安全に、俺が危険な目に合わないように、速やかに解決していただきたいものである。
「仕事の内容については了解しました。期間はどの程度いただけますか?」
「できれば、学校がある日は毎日報告に来ていただきたいです。どんな些細なことでも構いませんので」
「わかりました」
話が一段落したので、俺たちは入れてもらったお茶で一服する。まだ高校生だというのに、随分と年を取った気がしてしまう。
「笠間神父。笹田が使用したという魔法ですが……」
「うむ。魔獣に使われた見たことのない魔法というのは、呪術の一種だろう。女神スフィア様のお与えくださるスキルや魔法とは、異なる体系で発展してきたものだと聞いたことがある」
女神による力は、世界から秘匿されている。教会で転職した人間が、一般人から認識されにくくなることによって、スキルや魔法の存在は隠されているのである。
しかし、魔獣の存在は、秘匿されることが無い。一般人には認識されにくいということであれば同じだが、魔獣は一般人も襲う。
一般人が教会や転職の存在を知らないまま、それでも魔獣に抗うために生まれたのが、呪術だそうだ。
「我々は、霊力を使用してスキルや魔法を使用する。しかし、一般人には霊力が無い。だから呪術は、霊力とは別の力を用いて発動させるらしい」
「それはどのような力なのですか?」
「詳しくはわからない。だが、強力な力を行使するんだ。それ相応の代償が必要となるだろうな」
昔のアニメなんかでも、『力を使うと死ぬ』とか、『大切な人の記憶を失う』とか言うのは多くあった。現実では、もう少し穏やかな物であってもらいたい。
「こちらでも本部に連絡を取って調べてみます。笠間神父も、何かあればご連絡ください」
「わかっている。新しい所長殿とは、良い関係を築きたいからな」
そう言って、二人は握手をした。
「和泉さんも、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
前任者のせいで、業務の引き継ぎも行われないまま所長にされたのだ。きっと大変な思いをしているのだろう。俺も世話になったぶん、新所長さんの役に立てればと思った。
笠間神父は、転職申請者の確認をするということで、俺は十六夜と二人で先に帰っているように言われたのだが、果たして現状はどうしたものか。
「なんでそんなに嫌そうな顔してるんですか?」
などと言いながら、俺の腕は十六夜の腕にがっちりとホールドされている。春休み中であれば、一般人からは認識されにくくなっていたが、今は一高校生だ。こんな状況を知り合いに見られれば死んでしまう。
「逃げないから、せめて腕を解放してください」
「教会に着いたら解放してあげます」
「待って、教会ってここからだと、俺の家と反対方向なんだけど」
「一緒に帰るって言ったじゃないですか」
「だから言ってねえよ」
以前は隙を見せれば殺されそうだったのに、だいぶ丸くなったものである。これだけ懐かれれば命を狙われる危険も無くなる……いや、これは俺を社会的に殺そうという作戦か?すでに学校では一度殺されかけてるしな。
「今はいいけど、学校内で近づいてくれるなよ」
「嫌ですけど?」
どうか平穏な学校生活が送れますように。俺はただ、それだけを祈るのであった。




