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登校初日はめちゃくちゃです


 桜の花が散り始めると、新しい生活の始まりを告げているようで気分が沈む。


 こんなにも新学期を迎えることに喜びを感じられないのは、せっかくの長期休暇である春休みを満喫できなかったからに他ならない。


 春休み中は高校2年生になることを望んでいたというのに、いざ始まるとなるとここまで陰鬱な気分になってしまうのか。


「九十九~、お前春休み全然連絡取れなかったけど、何やってたんだよ~」


 と言ってウザ絡みしてくる親友と会話をしながら、入学式の開始を待っていた。


「俺は、ずっとバイトで忙しかったんだよ」

「マジかよ。九十九がバイトとか、全然想像できないんだけど」


 この失礼な男は、小学校の頃からの付き合いの宮田(みやた)祐樹(ゆうき)。特徴はウザいこと。どれだけウザいかというと、休み時間はずっと俺の隣でしゃべりっぱなし。昼休みは俺と一緒に食事をしながらしゃべりっぱなし。放課後はろくに金も無いのに、毎日のように遊びに付き合わされる。


 春休みで良かったことは、こいつにあちこち連れまわされなかったことだろうか。


「俺は九十九と連絡取れないから、一人であちこち旅行しちゃったもんね~」

「旅行って、相変わらず金遣いが荒いな」

「ま、どうせ俺の金じゃないしね~。両親も、金を使うのも勉強だーって言うしさ~」


 こいつの親、実は中小企業の社長だったりする。生まれながらの勝ち組で、将来は約束されている。以前の俺は、進路を選ばなくても良いこいつのことをうらやましいと思っていたが、春休み以降、職業が自分で選択できないことの辛さを知ってしまった。今となっては、こいつが自分で両親の会社を継ごうと思っていれば良いなと思っている。


 雑談をしているうちに、入学式は始まり、校長やら町長やらのお偉いさんが、長ったらしい話をしている。


「おいおい、見ろよあの子、すっげー可愛いぞ」


 うつらうつらしていた俺は、祐樹に脇腹を小突かれて意識を覚醒させる。祐樹は意外と女子には興味が無い。そんなこいつが可愛いというくらいなのだ、相当の美少女なのだろうと、祐樹が指差す方に視線を向ける。指差されたのは壇上で、その美少女とやらは新入生代表として、挨拶をしているようだ。


「な、可愛いだろ~。俺、あんな可愛い子初めて見たよ」

「……」


 確かに美少女だ。陽の光で輝く栗色の髪も、低身長ながらも主張のある胸も、幼さを残すが整った顔立ちも、その少女の魅力を引き立てていた。


「―――以上。新入生代表、笠間十六夜」


 そう言って一礼した彼女は、俺に向かって、軽く手を振って壇上を後にした。


「見たかよ九十九! あの子、俺に手振ってくれたぞ! これ、運命来てるんじゃね~か?」


 興奮しているところ申し訳ないが、それは間違えなく勘違いだ。


「十六夜ちゃんか~。どっかでまた会えちゃうかもな~」


 どうやらあの一瞬で、完全に惚れてしまったようだ。長い付き合いではあるが、もしかするとこれが、こいつの初恋なのかもしれない。そうだよね、初恋は儚いっていうもんね。




「いや~、それにしても可愛かったよな~十六夜ちゃん」


 放課後になっても、まだ興奮冷めやらない祐樹。ウザ絡みに比べればいくらかマシだが、その原因を考えると頭が痛い。


「なんですかなんですか? 祐樹さんは新入生さんに興味津々ですか?」


 そう言って俺たちのところにやってきたのは、去年から同じクラスになった浅間(あさま)百花(ももか)。報道部に所属していて、校内一の情報通だという話だ。


「ももちゃん、十六夜ちゃんって、彼氏とかいるのかな~?」

「う~ん、新入生の情報だと、さすがに3日は待ってもらわないとです」


 新入生の情報を3日で調べ上げるのか。こいつに目をつけられたらプライベートもあったもんじゃないな。


「今ある情報だと、バストサイズがDってことくらいです」

「なんでそんなこと知ってるんだよ!」

「さっき、クラスの人と話してるのを聞いたです」


 ニコニコとこの女は何を言っているのか。十六夜も公衆の面前でなんて話をしているんだか。今度会ったらこのネタでからかってやろうと思う。


「ちなみに百花は何カップ?」

「ボクはC……って、何言わせるです!」


 そうか、思ったより大きかったな。


「ちなみに、スリーサイズを細かく教えてくれても良いよ?」

「どうしてそこでボクが教えると思うですか!」

「いや、情報を伝えることに命を懸けているのかと」

「乙女は懸けてないです!」


 教えてもらえないとは、何とも残念である。しかし、教えてもらえないとなると気になる物である。俺は舐めるような視線で百花の胸から腰のラインを眺めてしまう。


「とりあえず、九十九クンにセクハラされたって先生に言ってくるです」

「いやいや、ちょっと眺めただけじゃん」

「九十九、さすがに俺も擁護できね~」


 男女平等と言っても、どうして社会はこんなにも男に厳しくなってしまったのか。ちょっと舐めまわすように見ただけで、お触りなんてしてないじゃん。



「十六夜さんも可愛い方ですが、転校生もすごい綺麗な人だって聞いたです」

「転校生?」

「ですです。明日からうちのクラスに来るそうですよ」


 俺は小学生から今まで、転校生というのには出会ったことがないのだが、やはり珍しいもののようだ。校内一の情報通が、情報を集めたくてウキウキしている。


「こっちもまだ全然調査ができてないので、ボクは今から職員室にせんにゅ……情報収集に行ってくるです」


 百花は、手帳を握りしめて職員室へ突撃していった。綺麗な人と聞いて、胸がざわついたのは、別に俺が楽しみにしているというわけではない。


「んじゃ、俺たちも帰ろうぜ~。昼前だし、なんか食ってこ~」


 祐樹に促されるように、俺は手早く帰宅の準備を済ませて彼の後に続いた。


「せ~んぱ~い!」


 校門前ともなると、まだ結構な数の生徒が残っていた。俺たちのように、これからどこかへ遊びにでも行くのだろうか。待ち合わせをしている生徒も多くいるようだ。


「せんぱ~い!」


 さっきから聞き覚えのある声が聞こえてくるような気がするが、無視することにしよう。


「九十九せんぱぁい!」


 おおう。名前呼ばれたら、「あ、先輩なんて呼ばれたことないから、気づかなかったよ」っていう計画がダメになってしまう。


「な~、さっきからお前呼ばれてね~」


 そう言って後ろを振り向こうとする親友を、振り向かせるわけにはいかない。


「絶対に振り返るなよ!」


 怒鳴りつけるようにそう言うと、祐樹はびくっと動きを止めて固まってしまう。歩いていてもらわなければ困るのだが、少し大声を出し過ぎたようだ。


「ごめん祐樹。でも、お前にはこのまま前だけ向いて歩いていて欲しいんだ」

「そんな格好良いこと言われても……マジビビったじゃんよ~」

「だから悪かったって」


 そう言って再び歩き出そうとした俺の背中に、ふにゃりと柔らかい感触が乗りかかるのがわかった。


「やっと捕まえましたよ。無視するなんてひどいじゃないですか、和泉さん」


 ひどいのは今のお前の格好だよ。どうして校門前の人が一番集まっているところで、俺を後ろから抱きしめてるのほんとやめて恥ずかしい!


「い、十六夜ちゃん?」


 祐樹は驚いた表情で十六夜を見つめている。そりゃそうだよな。初恋の相手が友人にいきなり抱き着いたんだもん。


「せ~んぱい」

「怖いからやめて」


 どこから声を出しているのか、まさに猫なで声でそう呼ぶ十六夜に、若干の恐怖を感じてしまう。数週間前までこいつは俺の死を願っていたのだ。背後を取られて声を掛けられれば恐怖しかない。


「高校に入学したら、一緒に帰ってくれるって言ったじゃないですか」


 言ってませんけど?それは全力で拒否しましたけど?


「アタシ、和泉さんが来るの玄関でずっと待ってたんですよ?」

「なんで玄関なんだよ」

「だって、逃げるかもしれないでしょ? だから、アタシが玄関から追いかけて……」

「ワシが校門で待ち伏せていたんだ」


 ニカッと笑いながら、笠間神父がやってきた。今日はいつもの黒い神父服ではなく、ひらひらとした白い祭服を着用している。


「な、な~九十九。お前、もしかして十六夜ちゃんと知り合いなのか?」

「いや、なんというか……」


 困り果てて答えを探している俺を尻目に、笠間家の二人はとんでもない爆弾を投下する。


「和泉さんはアタシにとって、大切な人です」

「和泉君は我が家にとって大切な御仁だ」


 さっきからの騒ぎで周囲がこちらに注目しているのだから、冗談は自重してくれよ。


 俺が絶望的な表情を浮かべているのを、十六夜は満足そうに笑いながら見ていた。







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